アウトからインへ、えぐり込むように取引――1
とにかく、すぐには行動へ移せなかった。
話の裏を取るといったら大袈裟だけど、少しは事実関係を整理する必要もある。
また集まってくれた三団体には――本家『RSS騎士団』と『第三小隊』、『モホーク』の皆には、引っ越しの作業が残っていた。……というか本来の集まった目的はそれだ。
そんな訳で全ては後日と、閉会になったのだけれど――
とても悔しくて、いまだ腹立ちが収まりそうにない!
おそらく先生が諭された通り――『仕組みが解らないからってチート呼ばわりしたら、全部がそうなる』だ。
ずっと追い求めていた謎が、アットマークの告白で解けてしまった。いや、そうじゃない――
全ては不思議でもなんでもなかった!
誰もが知ってるようなテクニックを、丁寧に積み重ねただけ。車輪の再発明にすら相当しない。
あの大戦争にしても、いまにして思えば色々と都合が良すぎる。……いや、良すぎると察するべきだった。
どうやってモヒカンは、あの複雑な作戦を決行するタイミングを? すべては即興にも等しく、多分に幸運が味方した?
……そんな訳がない。それだけは絶対に違う。
いくつかは入念な仕込みが必要に思えたし、細部まで考え抜かれていたはずだ。
そして尚、当日――いや最速は後日、リリーから正式な抗議を受けてからか?――の段階で、適切な人物に正しい質問をしていれば、なんなく真実へ到達可能だった!
襲撃グループの写真を入手し、即座にヴァルさんへ意見を求めていれば、誰の鎧なのかは――少なくとも、どの小隊へ配備された代物なのかは判明する。
そこからは順路とでも見做せて、芋づる式に事実確認ができたはずだ。
いや、そうでなくとも不具合が起きてからなら――停戦合意を結んだあとなら、モヒカンだって素直に答えたと思う。
いまになるまで手間取ったのは、俺がグズグズしていたからだ。
さらにはモヒカンごと真実が、行方不明になる可能性すらあった。その上――
「はぁ……もう誰も彼もが、俺への嫌がらせに全力を注いでる気がしてきたぜ」
「ど、どうしたんです? 突然?」
思わず漏れた嘆きに、露店を冷やかしていたリルフィーが大袈裟に反応した。
「うん? いや……こんな考えでいると、お説教をくらいそうだけど……なんだって俺が話を聞きたくなった人物は、申し合わせたように行方不明なんだ? 俺は呪われでもしてるのか?」
あまりに非人道的な発言に、アリサとネリウムはドン引きだ。
まあ、当然ではある。いまやVRという人類最後のフロンティアへ挑もうという時代なのに、『|自分を中心に世界が回る《天動説》』を唱えだされたら……発言者の知性を疑うしかない。
「そ、そのー……例えば、誰のことです?」
「うん? いや……さすがにマジには考えちゃいないぜ? でも……モヒカンの奴かヴァルさんに話を聞きたかったな。それで殆どの謎が解ける」
「二人……二人かぁ……うーん」
どうしたことかリルフィーは人数に注目し、うんうんと唸り始める。
「何が気になるんだよ?」
「そりゃ三人なら、タケルさんが正しいからっス!」
どんな珍説が耳にできるのだろう? 一時の慰めにはなるかもしれない。
その間も目ではカガチを探す。……どこにいっちまったんだ、あの悪ガキは?
「意味が解らない。説明しろ」
「『ほとんど同じ妨害工作を何回も――三回以上も繰りかえされて、その裏に統一された悪意を感じ取れなきゃ、ただの馬鹿』って言ったのは、タケルさん自身っスよ!」
………………うわぁ。
確かに昔の俺が言いそうなことだ。あまりの恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じる。
「いや……うん。そういう物の見方もあるけど……それは正しくないというか……常には成り立たない……残念ながら」
「そうっスか? タケルさんの語録の中だと、一二を争う実用性だったのに……」
珍しくリルフィーはシュンとしてしまった。
多少、時々、色んな場面で、ちょっと侮られていると感じることもあるけれど……それなりに皆のリーダーとして、少しは敬意を払われていたらしい。
「例えばだな……『次に晴れたら遊びに行こう』と約束したとする。でも、悲しいことに雨が三日連続した。そこから誰かの悪意を――」
「なるほど! その場合、敵は運営さんですね! って、タケルさん! 運営さんと喧嘩しても、勝ち目は無いっスよ!」
……リルフィーなりに渾身のボケなのか?
だとしたら高得点をやってもいい。ちょっとだけ面白かった。
しかし、本心からの言葉な可能性もあるのが、リルフィーの真骨頂――油断ならないところだ。
「それにしてもカガチの奴は見つからねえな! どこに隠れてんだ? いつもは煩いぐらいに騒がしくて、向こうから勝手に来るのに!」
やや強引にでも、話題を変えてしまう。
……下手くそなりに慰めてくれたのであれば、その心は汲むべきだ。
しかし――
「でも、タケルさん……カガチちゃんも大人に。内緒の一つや二つくらいできる年頃なんですよ」
とアリサに諭された。
……少し意外ではある。
その隣のネリウムは、メラメラと燃えるような瞳で拳を握りしめていたから……もしかしたら女性陣には一目瞭然な出来事が、発生中なのかもしれない。
……おそらく関わり合いになったら、きっと俺もとばっちりを喰らう。間違いない。俺は詳しくなったんだ。
「もうカガチじゃなくて、ルキフェルの方を探した方が早い気がしてきた。あいつは隠密行動とかできない奴だし、何よりあの白装束は目立つしな」
言外に却下とばかり、捜索続行を告げた。
俺の中の経験則と兄としての勘が、相反する言葉を囁き続けてる。
どちらへ選んでも痛い目に合うのであれば、進むのが正解に思えた。生意気でもカガチは守るべき年下の女性だ。
……ルキフェルとは、非モテを誓った仲でもあるし。
しかし、そんな俺の崇高な決意を折らんと、ネリウムが口を開きかけた瞬間――
「あーっ! やっと来た!」
と非難の声が上がった。誰かと思えば……秋桜の奴だ。




