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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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根回し――5

「談合? 談合って何、リリー?」

「……入札談合のことですわ、お姉様。タケル様は……この場で価格を相談――決定してしまうおつもりなのでしょう」

 秋桜にリリーが説明する。

 こいつらを引っ掛けるつもりはない。きちんと理解して欲しいところだ。

「まあ、大筋でそんなところだな。そっちの考え次第だが……お前らは何物件買うつもりだったんだ?」

 俺の問いかけに――

「あっ……!」

「へっ? タケル……なにを言ってるんだ? ギルドホールなんて……一軒あれば十分だぞ?」

 秋桜はきょとんとした感じだったが、リリーは気が付いたようだった。

 ギルドホールの細かい仕様は、実装されるまで……場合によっては所有するまで判明しない。

 一軒家程度の大きさのギルドホールだったら、一物件では手狭すぎる可能性もある。物件ごとで広さに差があるかもしれないし、複数所有に特典があるかもしれないし……蓋を開けるまでは何ともいえない。

「確かに……一物件で足りるまでは……」

「そうなの、リリー? でも、今回は三物件しかないし……予算も……」

 先制攻撃は成功した。

 考え出すようなら、このあとの話にも引き込めるはずだ。

「まあ、複数所有できたところで……メリットがあると決まってないけどな。それどころか、デメリットの可能性だってある」

「でも……いくつも買わなきゃいけないなら……譲らないからな!」

 秋桜は俄然、対抗意識に目覚めたようだ。

 ……なんだってこいつは……なにかと張り合おうとしてくるんだ?

「まあ、そうなった時は仕方がない。正々堂々やることにしよう」

 いまは軽く受け流しておく。

 いちいち言い争ってたら、話が進みやしない。

「それで……お話の要点はいずこに? 私共が一物件、タケル様たちで一物件……その程度に済ますのが……今回はよろしいかと?」

「じゃあ、残る最後の物件は、俺達で落札してもかまわないのか?」

 逆に聞き返したら、二人とも考えてしまった。

「それではお互いに一物件ずつ確保し……最後の物件を競り合うことにいたします?」

「それでも良い。それでも良いが……別の案がある。最後の物件は、俺達以外に落札してもらうんだ」

「他のギルド? 他に力があるところなんて……『自由の翼』とか『ヴァルハラ』? ガイアさんはお店始めたばかりだし……それより小さいところだと……」

 秋桜は有力ギルドのリストアップを頭の中で始めたようだ。

 迷走される前に答えを言ってしまう。

「いや、『聖喪女修道院』を考えている」

「『院長』様に? ……それは良いアイデアかもしれませんが……その予算が無いはずですわ。残念ながら」

 リリーが即座に否定した。

 本当に残念そうではあるから、魅力は感じたのだろう。

「それも織り込み済みだ。貸してしまえばいい。細かな値段は後にするが……俺達とお前達で半分ずつ融資するんだ」

「いや、タケル……それは無理だよ。私達も似たようなことは考えたんだ。でも、リシアさんは絶対に断るよ、そういうの」

 秋桜はガッカリした顔だ。

「違うぞ? これは友好ギルドへの――そっちは同盟ギルドか――正式な協力要請だ。一方的な援助なんかじゃない」

「……なるほど。『院長』様に……保険となってもらうおつもりなんですね?」

 リリーは理解したようだ。

 話が早くて助かるし……油断もできない。

「どういうこと?」

「簡単にいえば……最初に解放される三物件を、俺達とそっちで半分子にしちまうんだ」

 俺の説明に、秋桜が首を捻る。

「こういうことですわ。まず全部の物件を押さえてしまいます。特に問題がなければ『RSS騎士団』様と『聖喪女修道院』様、それに私共で、一物件ずつ分ければ良いのです。なにか一物件だけでは不都合のあったときは……『聖喪女修道院』の分を使って、調整ですわね」

「その調整?するときは、リシアさんが不利じゃない?」

「それくらいは飲み込んで貰わないとな。これは援助じゃない。共同作戦だ。俺達は保険をかけつつ、最終的に経費をかけないで済む。あくまでも融資だからな。『聖喪』はギルドホール入手が遅れたりもあるだろうが……購入資金の融資を受けられる」

「それに調整の必要――さらなる買い増しが必要となったときには……第二週の解放イベントに余力が残せますわね」

「まあ、そういうことだ」

 説明に嘘はないが、もう一つの隠された狙いがある。

 最初に解放されるギルドホールの所有者を『聖喪』と『不落』、『RSS騎士団』にできるなら……リア充共に絶対不可侵の避難所を与えないで済む。

 独力で買い占めることができないのならば、その所有者をコントロールしてしまえばいい。それで戦略目的は達成される。

 『聖喪』にギルドホールをプレゼントなんてのは……ちょっとした余禄に過ぎない。

 ……リリーが疑わしそうに俺を観察している。

 裏の意図を見抜かれても問題ないが……交渉材料に使われると厄介だ。目先をそらしてしまおう。

「それに話はまだ半分だぞ? 落札価格も決めてしまいたい。俺は金貨十万枚を考えている。妥当なところと思わないか?」


「タケル……ギルドホールは競売――オークション形式だよ? 落札価格を私達で決められる訳がないじゃない」

 秋桜に諭された!

 脊髄反射で言い返しそうになるのを、意志の力で抑え込む。

「そうか? 俺達が各物件を金貨十万枚で入札して……『他の誰も入札しなければ』その値段で落札できる」

 周囲から押し殺した呻き声が聞こえた。

 ……気のせいか? 圧力をかけるのはこれからなのだから、まだ気が早いぞ?

「そんなの分かる訳ないし……落札価格は十万枚台前半くらいだろ?」

 なおも秋桜は食い下がるが……ナイスだ。

「まあ……有力ギルドなら用意できるだろうな。しかし、結局は俺達の方が多く用意できるから『無駄だな』。そんな無駄なことをされて……秋桜は黙っているつもりなのか?」

「黙っているって……そりゃ腹は立つだろうけど……どうにもできないじゃない」

「そうか? 俺には無理だなー……そんなことされたら、そのギルドと今後……『仲良くやっていく自信なくなるな』。『絶対に遺恨残る』。勝てもしない競売に参加して、ただ俺達の資金を減らすだけなんだぜ? それは『攻撃に等しいな』」

 今度は確実に周囲から呻き声が上がった。

 各ギルドの情報収集担当の諸君、ご苦労さん! お前らはこれを聞く為に集まったようなもんだ。

「タケル様……実に悪辣ですわ!」

 リリーにそんな悪口を言われた。言われたが、しかし……まるで悪口に聞こえない!

 目は口ほどにものを言うというが、瞳はキラキラと輝いていて……まるで賛美されている気分になる。なんというか……妖しい魅力で危険だ。

「うーん……少し……強引じゃないか?」

 秋桜はやや納得いかないようだ。

 しかし、MMOは詐欺、脅迫、強盗、殺人、戦争が方法論として否定されない世界だ。

 もちろん、談合だって認められている。

 もはや談合の範疇に収まっているのか、我ながら疑問ではあるが……常道手段と言ってもいい。むしろ、明確に宣言しない分だけ、上品ですらある。「オークションに参加したら敵対者と見なし潰す」と布告するのも珍しくはない。

「ものは考えようなんだぜ? 初回から俺達が飛ばしたら、相場は天井知らずになるからな。日本の伝統、談合で良いじゃないか。高く競り落としたって、運営に回収されるだけなんだからな。みんなで仲良く順番にってやつだ」

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