アウトサイダー取引――1
そんな流れで街へと向かった。
もちろん、こちらの勝手な都合に合わせてもらう訳にもいかない。俺達だけだ。
半端な決断にも思えるだろうが、これはこれで仕方ないだろう。
なにより今日は『ラフュージュ』と『RSS騎士団』の共同事業の記念すべき初日だ。後々のことまで考えたら、全く手抜けるものじゃない。
世界平和といったら大袈裟だけれど、ハンバルテウスとの和解も懸かっている。本来なら不良娘の一人や二人、放置が安定だろう。
それの出来ないのが、俺のようなリアル妹持ちだったりするけれど。
素直に『妹萌え』を楽しめない癖に、それでいて非情にも――巨乳フェチが貧乳の人権を認めないような暴挙にもでれない。
ひたすら損だ。死ぬまで『甘いお兄ちゃん』であり続けるしかないのか?
まあ、現地の仕切りはカイに任せてある。
奴なら卒なくこなすだろう。俺には迷子の捜索が適任かもしれないし。
……『キティ』計画――さらには続く『次元干渉』計画も――は、人類にとって永遠に語り継がれる大偉業へ発展してしまい、一挙手一投足が事細かに『後世の歴史家』とやらに語られそうだけれども。
つまり――
『この日、なぜかタケル某、抜け出し行方が知れず』
などと書かれる? そして再現ドラマや映画だと、主人公ポジションはカイか? それともシドウさん?
史実の偉人ものは重要な周辺人物に傍観者を任命が王道だから、そう間違ってもいないだろう。
どちらにしても俺は、手のかかる先輩役か軽薄な後輩役になりそう予感がする。なんというか……狂言回し的ポジションな。
身体を張って笑いを取るのは、リルフィーの役回りなのに!
しかし、奴がサボっているとするか、もっと俺が頑張るべきかは……『後世の歴史家』の間でも意見は分かれるだろう。たぶん。
そんな久しぶりの身内だけ――俺にリルフィー、アリサ、ネリウムと俺達だけな気安さを感じつつも、しかし……心の奥底で静かにしていた鈍い痛みも、思い出させられる。
一人、足りない。
カエデが欠けている。
俺達はゲームが始まってから、ずっと一緒に行動してきた。常に五人でつるんでいたといっても過言じゃない。
時々、誰かが単独行動をしてたり、俺なんかは『RSS』で暴れてたりしてもだ。
それは要するに、帰るべき場所があっての行動……いまにしてみれば、そう思う。
だから他の人は悼まなくなったとかいうのではなく、カエデの存在だけは絶対に忘れられそうにない。
しかし、残された俺達四人は、語り終えてしまっている。
親しい仲間の名前を耳にしたいという理由だけでは、すぐに話題を思い付けないほどだ。
結果、俺達四人は、もう名前を口にしなくなった。
……悲しみを避けるというよりは、どうしても結論を出したくなくて。
そんな風にお互い慣れ始めた礼儀正しさを保ちつつ、カガチを探して歩く。
……どうして子供というのは探すといなくて、邪魔な時だけしがみ付いて離れないんだ? それとも俺だって子供の頃は、そうだったのか?
遊び関係の区域や食べ物関連の一角を抜け、やや閑散とした装備関係を取引する辺りまで来たというのに……まるで消息がつかめやしない。
いや何やらカガチか良く似た別人が、誰やら探して歩いているとの目撃情報はあった。
でも、それは別人で確定だろう。
あの喧しいカガチが誰かを捜索したら、「カガチが『個別名』を探している」と評判になるに決まっている。
ひっそり、静かに、嫋やか、思慮深く、恥じらいを持って……どれもこれもカガチを表現するのには不適切だ。
一応は妹分として面倒を見ている俺が言うのであるから、間違いない。これでも身贔屓している方だ。
どうせ腹が減ったらギルドホールへ帰ってくるに決まっている。
もう次の約束まで時間もない。ここいらで捜索は打ち切り、あとは帰りにでも探そうと思ったところで――
名品との出会いがあった。
ディスプレイ代わりのつもりかメニューウィンドウを開きっぱなしにし、その上で『ダガー』の半透明なホログラムをゆったりと回転させている。
併設してある小さな立て看板には「『ダガー+2』」と説明もあり、なんなのかも一目瞭然だ。
なるほど、悪くないアイデアといえた。一品しか展示できないけれど、これならデザイン性も見せることができる。
装備の取引においては、デザイン性など無視されがちだ。
欲しいのはゲーム的データー――アイテムを使う権利であり、デザインは自分の好みに変えてしまえばよかった。
俺の場合でいうと『RSS』お抱えのヴァルさん……は行方知れずだから、デックさんに頼めば解決だ。いま愛用のと同じデザインにしてもらえる。
なので、市場にある装備品のデザインなど気にしたことがなく、主に種別や素材、値段しか見て歩かないのだが――
この『ダガー+2』には、そんな俺ですら唸らせる造形美があった。
ディクさんは伝統的、ヴァルさんだと現代的、先生方の『アキバ堂』なら|細部にまで拘った作り込み《マニアック》と形容できる。
そのルールで表すとシンプルだろうか?
線を少なくし、その曲線美だけで勝負しているというか……機能美だとか、日本刀が持つ得も言われぬアレとでもいえば?
とにかく方向性は全く違うけれど、負けず劣らずの才能を強く感じさせる。間違いなく逸品だ。
また、よく見ると立て看板の下の方には、数値が書き込んであった。
数値と名前でワンセットで、それが三つ並び、徐々に数字は大きくなっていく。
……なぜそうと解るかといえば、数が少ない書き込みには、取り消し線が引かれているからだ。
間違いない。これはオークションの真っ最中だ。少しでも高値で売るべく、競りに掛けているのだろう。
まだ『ダガー+2』はレアといえるし、そう悪いアイデアでもない。……いま付けられてる値段が、不当レベルに安いことを除けば。
これなら転売目的で入手してもお釣りがくるレベルだ。
俺も入札してしまおうか? でも、この最後の入札者に覚えあるような? 知り合いだったか?
思わず考え込んでしまったところで、店の男――メニューウィンドウの持ち主から声を掛けられた。
「おお、タケル! 『ツーハンド』の目に留まるとは、凄い嬉しいぜ! どうだ、うちのデザイナーは! 『アキバ堂』や『RSS』にも引けを取らないだろ?」




