高度に発達した科学は宗教とも見分けがつかない――3
皆が口を開こうとしては閉じるのを、悠然と見守る。優雅にコーヒーなんぞ啜っちゃったりしてだ。
うん、今日も美味い!
これは突然に大人物となったからじゃない。戸惑いや驚きなどの感情は、一足先に体験済みだからだ。
「大丈夫ですよ、リー君。タケルさんは、からかっているだけです。いえ、確かに可能性としてはあり得るのですが……非常に低いと申せましょう。なぜなら……やはり単純な話で、出力が足りな過ぎるかと」
意外にもネリウムが解説を始めた。……実は詳しいのか?
「我々は仮想現実にいます。そしてこの地での行動を、突き詰めて考えますと……要するに回路上で電子が動いただけです。というよりも、その動きを応用し……パソコンやらその回路を、ちょうど楽器か何かに準えて……最終的にはシグナルを発生させる。これが作戦の概要でしょう」
……まあ九十点をあげてもいい。
もっとも単純かつ簡単に済んだ場合、ネリウムが予想した形となる。その場合、当然に異次元への接触とはならない。
だが「電子によって構成再現された我々にとって、その作業をする機器は何にあたるのか」という視点が抜けてしまっている。
そして、言ったら酷かもしれないが……少し一過性に捉え過ぎだ。
試みが成功した場合、真に問題となるのはその後なのだから。
『シミュレーション仮説』というものがある。
やや話は脇道に逸れるが、要点を簡単に述べると――
『世界は超高次元文明によってシミュレートされた存在に過ぎない』だ。
つまり我々がVR上でヴァーチャルペットを飼うのと同じように、何か凄いコンピューターによって再現と考える。
全人類を――いや我々の知覚できる空間全てを――全宇宙どころか三次元空間の全てを!
まあ何度となく提唱された理論の焼き直しに過ぎないけれど……完全否定できないところが最高に厄介だろうか?
『五秒前仮説』と似たようなもので、話のネタにピッタリ程度だったが……もう違う。
先生方が成功してしまわれたら、部分的に解明が可能となる!
我々のいるゲーム次元から現実次元へ干渉できた場合、全く同じ理屈で現実次元からどこか『外』へ干渉を試みたら……果たしてどうなるのか?
その答えは誰にも解らないけれど、誰もが知りたがるに違いない!
……考えうる結果の中に、超高次元文明との接触すらあろうとも!
だが、冗談ごとでなく科学的に意義はある。というか……あり過ぎるぐらいだ!
これまでは『外』へのコンタクトを試みる場合、致命的な問題点があった。
それは干渉できているか確認できないことだ。
仮に『高次元干渉ビーム』を撃ったとしても、それが『外』に届いたのか……『内』にいる我々人類には決して確認できない。
だからこそ『外』への接触を試みる学問は、馬鹿にされ続けた。何処までいってもオカルトの域からは出れないと。
しかし、ゲーム次元から現実次元への干渉例を踏まえれば、話は変わる。雛型での実験から推察――立派に科学的で正しい手法が確立だ。
そして、もし『外』に『超次元文明』があれば――
人類は創造主すら超越した存在と邂逅し、また自らの定めをも知る。
いや、べつに高次元存在とのコンタクトができずとも……A地点からB地点へ、『外』を経由して移動なども……考えうるのか?
おそらく『外』はある。どうなっているのか微塵も解らないけれど……無いと考える方が奇妙だ。
パソコンに例えるのなら……電子回路を走らず、電子がジャンプして好きな場所へ直接移動か?
つまり古典SFの超空間航法を復活させている?
科学の発展とともに、絶対にあり得ないと断じられた古の夢を?
「俺は反対っス! なんだか解らなかったけど、とにかく反対です! このまま黙っていたら俺達は皆、緑色の泡になって消滅するんっス! 場合にも拠りますけど……実力行使だって辞さないっスよ!」
「それは……少し乱暴じゃないか、リルフィー君? しかし、タケル! この心配は最もだ! もう少し慎重に……あー……議論を積み重ねるとかだな?」
リルフィーとシドウさんが、コンビで反対を始められた。
……うーん。もっとも過ぎて反論の余地すらない。
「いや、大丈夫だ! 俺を信頼しろ! 俺が任せろっていって、駄目だったことがあるか?」
「嗚呼、駄目だぁ……もうお終いだぁ……」
間髪入れずに絶望しやがった!
そして無言で腰を浮かしかけたネリウムへ、両の手を広げ何も持っていないジェスチャーをしておく。
「ちょっと待った! まだ議論の時間はある! というか……最終目標がそうだからって、そう簡単に到達できるわけないだろ! 実際、あの『キティ』という機械は『次元干渉機』じゃないし!」
それでやっと落ち着いてくれた。
……不審そうにこちらを見る先生方with元・攻略班&調査班の視線が痛い。
「じゃあ……何なんです? というか……いままでの話と関係は?」
「あれは――『キティ』は人力式水媒体デジタルコンピューターだ」
「それは普通のコンピューターと、どう違うんですか?」
面食らった様子なリルフィーへ説明を試みるも……俺だって先生方の受け売りだったりする。
「普通のコンピューターは電力式電気媒体デジタルコンピューター……と呼ぶらしい」
聞いてリルフィーは考え込んだ。
……考えたら解るのか、お前に? 自慢じゃないが、俺は諦めたぞ?
そして皆も固唾を呑んで、次の言葉を待つ。
……口を挟んで大火傷をするくらいなら、他人に任せようと思ったのかもしれない。
「ふふ……タケルさん? 俺を馬鹿だと思って煙に巻いてますね? 話をしていたのは『次元干渉機』についてですよ?」
「そんな人類史に名を残しそうな発明品を作るのなら、どうしたってコンピューターが必要となるだろうが? だから、まず先にコンピューター開発へ取り掛かった。順番通りじゃねぇか?」
ようやく皆から感嘆の声が上がった。




