表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

462/511

その名も『誘い受け』の計……と呼ぶらしい――2

 勝ちたいのであれば『積み上げる』でも『相手の山を崩す』でもいい。そしてさらに――

 『自分の山を崩す』でも()()は達成……できる?

 いや、違う。そうじゃない。

 常には成り立ちそうにないし、その必要もない。現実に即していれば――今回に限って成立すれば十分だ。

 ………………ならば問題は……ない?


 確かに冴えたやり方であるが、非常に危険な選択肢でもある。

 ようするに「自国と他国が戦争になりそうだったので、自国の戦力を削って開戦不能にした」だが――

 史実に当てはめると『売国奴』だとか『裏切者』と呼ばれやしないだろうか?

 また俺は戦争を回避できれば満足だけど、誰もがそうとは限らない。

 相手が勝手にコケてくれたのだから、「またとない好機!」と考えてもおかしくなかった。

 ……その辺は信頼されている証拠か。俺なら矛を収めると。

 さらに引っ掛かることもあるのだけれど、それが何だか判らない。奥歯に何か挟まってしまったような違和感も覚える。


「思い切りましたね。あー……ギルドホールを用意すれば? それこそハンバルテウスを追い出すじゃダメなんですか?」

「うーん……それでも良いかもなんだけど……少しやり過ぎにも思えるんだ。『言うこと聞かなきゃ追い出すぞ』は……やっぱり、ね?」

 しかし、だからと言ってヤマモトさん達が出ていくのも変に思える。

「それは……集団である以上、仕方のないことでは?」

「でも実際、シドウ君は納得いってないんだよ。彼にとっては年下なら、誰だろうと守るべき弟分だし。……甘やかしすぎは為にならないのだけれどねぇ」

 シドウさんらしくはある。

 また、それで問題点というか……不備にも気付いた。

「……可能性としてシドウさんは残留も?」

「うん。あり得るよ。サトウ君の方は納得してくれてるんだけどね。こればっかりは命令する訳にもいかないし。いっそのこと、残りたい子の統率を頼んじゃおうかな」

 満足の笑みを漏らしながら、ヤマモトさんは説明を捕捉される。

 ……いつのまにか()()()が仕込まれていたらしい。危ないところだった。


 おそらくヤマモトさんは、巧遅より拙速を尊んだのだろう。間違いない。賭けてもよいくらいだ。

 その証拠に根回しなどが済んでない部分もあり、らしくなく第三小隊の面々に抜け駆けされたりと……全体的に荒も目立つ。

 しかし、素早く大胆な手を打つことで、全体のキャスティングボードを握られた。

 ここからの挽回は至難だし……逆に『ハンバルテウスによる宣戦布告』で先を越された場合を考えると肝も冷える。

 ……だからこそ急がれた? その実、水面下では競争だったのか?


「ちょっとシドウさんが貧乏くじ過ぎませんか?」

「さすがの僕でも思わなくはないね。まあ……ハンバルテウス君と同様、シドウ君も勉強かな。真っすぐで良い子だとは思うけど……優しいだけじゃ駄目だって」

 年長らしい文言ではあるが、人の悪そうな笑いで台無しだ!

 また底意地の悪い作戦も見え隠れしている。……というか解らさせられた。

 ハンバルテウスのことを、半ば強引にでもリーダーに仕立て上げる気だ!

 あいつは常日頃から、お山の大将になりたがっていたが……実際に()()なってしまえば変わる。変わらざるをえない。

 なぜなら俺自身、そうだったから!

 俺も不平不満ばかりだったけど、ギルド運営陣となってからは見識も広がった。

 偉そうにしているリーダー役の奴らも、実は苦労している。

 やっぱり文句を言うばかりじゃ駄目だ。見ているだけじゃ分からないことも多い。

 数日もすれば、奴と分かり合える可能性すらある。それぐらい変わるだろう。


 しかし、同時に見落としもある気がしてならない。

 だが、何をだろう?


「大筋での合意を。ヤマモトさん達には、アジトが必要なんですよね? それは用意しましょう」

 重要なのは、まず流れを作ってしまうことだろう。

 細部を煮詰めるのはアドリブでというか……走りながらというか……それが『拙速を選ぶ』という方法論のはずだ。

「助かるよ! というより……その条件なら、僕らも考えないでもないというか……嗚呼、この誘惑には抗えそうにない!」

 ……わざとらしくヤマモトさんは嘆かれた。言っちゃ悪いが酷い棒読みだ。

「順番的に俺が唆したから、移転場所が必要となるんじゃ? まあ、図式は()()でいいですけど」

「細かいことはいいじゃないか! なんなら後で、どっちが悪役になるか決めるかい?」

 楽しそうなヤマモトさんへ、苦笑いで首を横へ振る。

 この人の良さそうな悪いお父さんには、まだまだ勝てそうもない。


「あいつがいたら、現状を良くは思わないだろうしね」

 突然なこと言い出したヤマモトさんは、少し寂しそうだった。

 ……長年の友人を喪うというのは、どんな気持ちになるのだろう?

 思わず何も言えないでいると、ヤマモトさんは話を続けられた。

「まあ、ハンバルテウス君はあんなだし、タケル君もこんなだし……せめて僕だけは、奴の残したものを守ってやらんと。もしかしたらサー・パーシヴァルは、このような心境だったんじゃないかな?」

「ちょっ! 俺がこんなって――」

 人の悪そうな笑みに抗議の言葉は遮られた。

 まあ、清く正しい『RSS騎士団』の道から外れてしまったか、俺やハンバルテウスは。

 でも、サー・パーシヴァル?

「あの聖杯の騎士、サー・パーシヴァルのことですか?」

「そそ。我らの大義は尊く、かの聖杯にすら匹敵するんだよ!」


 アーサー王の伝説は、実のところ『聖杯探索』を契機に斜陽を迎える。息子であるサー・モードレッドの謀反より前にだ。

 それに準えたいのだろうが……さすがにサー・パーシヴァルはないと思う。

 円卓の騎士全員が失敗していく中、見事に聖杯を見出した三騎士。そのうち一人とはいえ――

 アヴァロン滅亡は、ほぼほぼこいつの責任。ロマンス文学における俺Tueee。暴れん()サー・ランスロット。

 その息子にして上位互換たるメアリー・スー。『聖杯探索』では「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」状態のサー・ガラハド。

 ……最後に見ていただけの人、サー・パーシヴァルだ。

 本当に悲しいぐらい脇役で、『聖杯探索』における不幸担当としか思えない。


「あれ? タケル君は知らないのかい? サー・ガラハドと共に昇天した聖杯だけど……実はサー・パーシヴァルに託された説もあるのを?」

「耳にしたことはあります。でも、それは……あまりに影が薄くて、三人しかいない聖杯の騎士なのに――それも唯一人の生き残りなのに、後日談も無いに等しいぐらいマイナーで……サー・パーシヴァルに限り、いくらでも捏造可能だったからでは?」

 さすがに嫌な顔をされた。

 ……もしかしたらヤマモトさんに初めて勝てた瞬間かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ