表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

453/511

決裂――4

 この不具合を通じて、俺にも判るようになってしまったことがある。

 それは殺意の真贋だ。

 混り気なく、本気で――純粋に自分を殺そうする意思は、一度経験してしまえば容易く判るようになる。決して間違えることはない。

 ……ハンバルテウスの野郎、本気で俺を殺しにきた! しかし、なぜだ?

 しばらくぶりに見たその顔は、控えめにいっても狂相に堕している。

 憎しみ、恨み、悪意……どう名前を付ければよいのか。すぐには判断できない()()が表へ出てしまっていた。


 この一撃で俺は死なない。

 急所という概念のないシステム――この世界の摂理ですらあるが……そのかわりに数値化できない何かは終わる。もう修復できないほどに壊れてしまうだろう。

 言葉にはできそうもない悲しみ、悔しさ、心残り……まるで喉が塞がってしまったような息苦しさを感じながら、歯を食いしばる。

 もう避けれない。それは俺の不覚だ。甘んじよう。

 だけど、決して目は閉じないし、一言たりとも悲鳴は上げない。それだけが唯一、俺に許された選択肢だ。


 しかし、覚悟を決めた瞬間、視界の隅から何かが滑り込んできた。


 ついで、鋼と鋼がぶつかり合う鈍く重い音が鳴り響く。


 いつの間にかリルフィーが斬撃を止めるべく、寸前で剣を捻じ込んでくれていた。

 ……相変わらず凄い奴だ。その腕前もさることながら、決断をも含めた反射神経では全く勝てる気がしない。

 ただ、長い付き合いなのに、一度も見たこともない据わった目付きになっている。

 ……どうしたんだ、リルフィーの奴? 少し、カッとなり過ぎじゃないか? 

「出しゃばるな! 雑魚が!」

 我がギルドの誇るエースに酷い暴論だが、それよりも酷く無念そうな表情にゾッとさせられる。

 ……ここまで殺意を高められるのか、人は?

 だが、暴言は高く付きそうでもある。言われたリルフィーが、珍しいくらいに底意地の悪そうな表情となったからだ。

 無言のままリルフィーは、切っ先で切っ先を押し合うような状態から、鍔元で競り合う形へ移行させた。耳障りな金属同士を擦り合わせる音も続く。

 小さな変化だが……これで終わりだ。

 剣術には、鍔迫り合いから派生する技は多い。頻繁に起きるからだ。当然に攻守に渡って研究し尽されている。

 そして俺の知っている鍔迫り合いからハメる手順の全てを、身をもってリルフィーは覚えてしまっていた。もちろん、奴なりに閃いた対応策も込みで。

 ……なぜなら俺が、さんざん実験台にしたからだ。

 つまり、奴と鍔迫り合いを始めてしまったら、よほどの達人でも負ける。古今東西の秘伝の脱出手段が、ほとんど通じやしない。

 もうリルフィーの気が変わるまで、ハンバルテウスは鍔迫り合いを続けるしかなかった。


 この僅かにできた時間を好機と、相手の様子を伺う。

 集団の半分は、もちろん『RSS騎士団』第一小隊のメンバーだった。隊長たるハンバルテウスが率いているのだから、当然ですらある。

 しかし、俺達の登場に驚き、完全に浮足立ってしまっていた。温いことに戦闘態勢に入ってすらいない。

 ……少し奇妙だ。何がと指摘はできないのだけれど……違和感を覚えなくもない。

 また運の悪いことに、副官であるルキフェルの姿も見当たらない。

 意味不明までに目立つ、あの白備えだ。見落とす可能性はゼロだろう。

 どうしてあいつは、必要な時に限っていないんだ? 第一小隊では、最も話が通じそうなのに!


 残るもう半分は見覚えのない奴ら――いや、正確にいうと記憶にはあるけれど、『RSS』のメンバーではない者達だ。

 こいつらは不具合が始まって直ぐに『RSS』への入団を希望してきた、あの抜け目のない奴らか?

 ……間違いない。全員の顔は憶えてはいないが、辛うじて何人かは記憶と一致する。

 何を思ったか各自で『RSS騎士団』に似せた装備なのは、俺に対する挑戦か? これだけで神経を逆なでされる気分だ。

 また完全に狼狽しているのも――ぶっちゃけてしまえばビビっているのも、呆れるを通り越して怒りすら誘う。

 ……いつから『RSS騎士団』は、こんな有象無象と?


 しかし、とりあえずアリサを止めるのが先か。

「止めろ、アリサ!」

「でも、タケルさん! その人は……その人はタケルさんを!」

 さすがに必殺技(セットプレイ)の準備は中止してくれたけれど……かつてない程に怒っている。

 いままでアリサを怒らせたことはあった。相当にやり過ぎたと思ったことも、一度や二度ではない。

 けれど、ここまで怒っているのを見たことがなかった。俺の最高記録を二か三だとしたら、これは十を超えてしまっている。

 ……うん。アリサを完全に怒らせるのだけは、絶対に避けよう。

「とにかく駄目。話が先」

 強いて怖い顔を作って念を押すも、逆に恨めしそうな顔で返された。

 ……なぜかアリサ()()が超怒っているけど……俺は知らねえからな? ……いやハンバルテウスは、本気で怒った女性の恐ろしさを思い知るべきか?


 とにかく後でのフォローを忘れないことにして、現状の把握へと戻る。

 ……人数は俺達の方が僅かに少ないか?

「ちょ……タケル! 待ってくれ! 俺達の話も!」

 そうとりなすような言葉を口にしながら、第一小隊のメンバーが一歩前に――


 出てこれなかった。

 そいつの足元の地面へ、何本もの矢が突き刺さる。


 続けて――

「隊長は動くなと言った()()だ。次は当てるぞ?」

 と警告の声がした。リンクスのものだ。

 ……射角や声の方角から考えるに、木にでもよじ登ってるのか?

 それなりに話を合わせたのだろうけれど……少し適当過ぎる気がしなくもない。

 しかし、リンクスに全員が気を取られた瞬間――

「その通りでさぁ……動くなと命令されたら、動いたら駄目。そう教えたでしょうが? ――遅れました、隊長」

 と言いながら、グーカも前衛を率いて現れる。

 ちょうど俺達と真逆からで、着衣の乱れた二人とハンバルテウス達の間に割り込む形にだ。

 さすがに()()がない。

 これで荒事に突入しても、半裸も同然の二人は保護できる。

 人数比も――戦力比も倍近くとなったから、そう迂闊な選択もできない。

 ……多少は乱暴ではあったけれど、対話のテーブルが用意できたか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ