ギルドハント――3
女性陣の三分の一から半分程度も男のメンバーに交じり、普通に狩りへ参加するようだった。
しかし、そうではない残りは――まあ、ハッキリといってしまえばアリサを中心とした一部の女の子達は……正直、少し理解に苦しむ。
まず、何を思ったのか揃いの衣装で、それはどうしてかエプロンドレスだった。
判らない人のために説明するのであれば――『不思議の国のアリス』だとか『若草物語』、現代ではメイド喫茶のメイドさんなんかが着ている、あれだ。
さらに、その手には大きな籐のバスケットを一様に抱えている。
アレには、なにか宗教的な意味でもあるのだろうか?
こちらが親切心から「荷物を持とうか?」と提案しても、頑として自分で持つと譲らないので……案外、的外れでもないかもしれない。
そもそも手で持って歩ける程度の荷物であれば、メニューウィンドウへ収納もできる。
中身が何なのかは知らないけれど、使う直前まで仕舞っておいた方がよいのではなかろうか?
また――
「姐御! 今日は頑張りましょうね!」
「ええっ! 私、今日はちょっとだけ勇気を出しちゃおうかなって!」
などと『HT部隊』の娘と励ましあっているのにも、首を捻るほかない。
……あの励ましているのは、妙なほどカイに親切な娘だったか?
何を頑張るつもりか判らないけれど、それとなく邪魔をするのを忘れないでおこう。俺とカイは、ずっと非モテの誓いな仲なことだし!
ここで勘違いして欲しくないのだけれどアリサ達は、決して義理で付き合ってる訳じゃないことだ。
それどころか俺には理解できないが、アリサ達なりに楽しみを見出している。
間違いない。断言してもよいくらいだ。なぜなら、しつこい位に問い質したことがある。
ギルドハントに参加はするものの、特に狩りへ交ざるでもなく、ただ付いてきているだけなのに……それでいて楽しんでいる。
今回に限らず、女の子達が俺達を悩ませる不思議な行動だ。
ギルドハントに渋々参加するものの、その実、楽しめてはいない。
それなら理解の範囲ではある。もう少し気を遣えよと思わなくもないが、とりあえずの筋道は通っているだろう。
しかし、終始ニコニコしていて、かといって狩りへ参加するでもなく、ただ一緒にいるだけで、時折お喋りするだけ。
だが、それだけで十分らしい! 普段の狩りより満足げに見えるぐらいだ。
これはアリサが怒り出す寸前までしつこく訊いたことがあるから、おそらく事実だ。……大いなる謎ではあり続けるけれど。
「ふふ……まあタケルさんも、時には『釣った魚に餌を与える』といったところでしょうか? 今日のところは、及第点を差し上げましょう」
などとネリウムは俺を見ながら韜晦じみたことを口にする。
………………からかわれている……のか?
首を捻る間にも、元『HT部隊』の娘達がヒソヒソとやっていた。
「ネリーの姐御って、自分のことは棚に上げてない?」
「なんだかんだでリルフィーさんには甘々だし……意外と餌を強請る側だったり?」
……さすがの理不尽女王たるネリウムも返答はせず、軽く赤くなっていた。
どうやら照れているらしい。明日は雨か? 現実世界は?
時々、これでリルフィーとの仲は順調な、一応はリア充なのが信じられない。二人ともに爆ぜればいいのに。
……でも、気分が盛り上がると攻撃してくる女性というのは、どうなんだ?
もう暴力ヒロインの域で留まっていない。あのリルフィーですら、逃げ切れないこともあるらしいし。
まあ、理由は解らないけれど、女性陣もギルドハントを楽しんでいる。それだけは間違いなかった。
ただ、時折――
「あっ……そっちへ『ジャイアントスパイダー』がいったぞー!」
「うわっぁ! モンスターハウスだぁ!」
などと叫び声が上がるたびに――
「き、聞こえない! きょ、今日は長閑な昼下がりのピクニックと何ら変わらない平穏なものよ! そんなモンスターが出るわけないの!」
だとか自分に言いかせているのは、聞かなかったことにするべきかもしれない。
……うん。ゲームに閉じ込められて、もう長いものなぁ。
アリサや元『HT部隊』の娘らが、平和なピクニックを希望するのも無理はないのかもしれなかった。
俺などは平気な方だが、モンスターとの斬ったはったが日常になっては、さすがに心も荒む。
というか、もしかしたらだが……最初からギルドハントなんてしないで、皆で仲良くレジャーとでもしていた方が喜ばれた気もする。
今日のギルドハントをハイキング気分で楽しむつもりだろうと、笑って許すのが甲斐性というものか?
それに俺たちは、ある意味で健全で……非常に幸運ともいえた。
今日の名目がギルドハントだろうが、それともピクニックだろうが……結局のところ、日々を楽しめている証拠だ。
……この不具合に巻き込まれたにしては。
やはり、少人数で動いているプレイヤー達とは、緊迫感が全く違う。
どころか一人か二人で動いていた場合と比べたら、天と地の差になるはずだ。
おそらく毎日が命懸けの連続になるのでないだろうか?
昨晩に聞かされた事実を考えると、苦い気分でそう思わずにはいられなかった。




