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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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ギルドハント――2

 しかし、空想の幸せ家族に逃避している場合ではなかった。

 一つ一つ丹念に――一人ひとり順番にでも、ツッコんで回る必要がある。

 このまま放置していたら、全員で暗黒裸踊りでも始めかねない。やはりボケの倒しすぎは心身に悪影響があるのだ。

「……で、なんでお前らが前衛なんだよ?」

 俺が所属するパーティの最前列で張り切っていた二人――カイとハイセンツへ声をかける。

 ……嗚呼、失敗した。

 こいつら我が意を得たりとばかりに、顔を綻ばせてやがる。いわゆる『ボケのツッコミ待ち』というやつか?

「新しい戦術を発想したからですよ!」

「副隊長の仰る通りです! 革新的なアイデアが!」

 ……この二人は、どうして前衛の時だけ息がバッチリなんだろう。陰でこっそり打ち合わせや練習でもしているのか?

 また、手に持った武器を自慢げに誇示しているのにも、軽く神経を逆撫でされる。

「なんだって薙刀なんだよ、カイ? そしてお前はどこで手に入れたんだよ、その両手剣は? 借りてきたのか、ハイセンツ?」

 ……渾身の嫌味を込めたのに、まるでへっちゃらだ。

「薙刀は親切な『HT部隊』の()に借りました! 今日の狩場は『湖畔』ですし……『ジャイアント・リザード』みたいな四つ脚タイプなら、間合いが長いほうが有利と教えてくださったのは隊長ですよ?」

「でも、カイは『魔法使い』だろうが。薙刀は装備できないだろ?」

 この辺がゲームの面白いところでもある。

 現実に即して考えると『上手く薙刀を扱えない人』は多くとも、装備すらできない――下手くそでもいいから『手に持って振るえない人』というのは、想像すら難しいだろう。

 しかし、ゲーム的には制限しなくてはならなかった。

 何でもできる万能クラス誕生につながりかねないし、そうなったら酷く興ざめだ。

 そして制限するのであれば、何かしらのアイデアが必要となる。プレイヤーを説得できるだけの何かが。

「それです! ですが、リルフィーさんが――『逆に考えたらどうです、カイさん? 別に装備できなくても構わないさ、と』――素晴らしい閃きを!」

 ……前々から思っていたのだけれど、どうして俺の副官はリルフィーの大ファンなんだ?

 そして諸悪の根源はリルフィー(あいつ)か!

「いやー……目から鱗でした。装備できないのなら――装備不適正になってしまっても、『間に合わせの武器』としてなら使えますし」

 ……そうだけど!

 確かにシステム的に装備できない武器や、その辺に落ちている『石』や『棒切れ』などでも戦闘は可能だ。全て『間に合わせの武器』として扱われ、非常に不利なことさえ覚悟すれば。

 決して意図的にやることでもないと思うのは、俺だけだろうか?

「いや……うん……あー……まあ、いい! 妥当性の吟味は後回しだ。でも、だからって他所のギルドから武器を借りてくるなよ! それ、シドウさんのだろうが?」

 八つ当たり気味にハイセンツへ矛先を向けると――

「違います! これはシドウ・モデル・MAX・Ⅳです! 新製品なんですよ!」

 などと自慢で返された。

 ……なんだそりゃ? シドウさんの使っている剣のコピーが出回っているのか?

 いや、シドウさんは五本の指に入る剣士で、憧れる人がいてもおかしくないけれど……だからって『僧侶』であるハイセンツが買うのかよ? 普段は鑑賞用として? というか『MAX・Ⅳ』って……最低でも、あと四振りあるのかよ!

 口にしかけた幾つものツッコミを、ぐっと堪える。おそらく限がない。

 ここは諸悪の根源を叩くのが先だ。そう思ってリルフィーがいた辺りへ振り向くと――


 なぜかリンクスから弓のレクチャーを受けてやがる!


 ……一度に二本も矢をつがえる、いわゆる『漫画射ち』を習っているのか?

 もう、その場にヘナヘナと座り込んでしまいたくなる。

 ギルドのエースが、ギルドハントが始まりもしない内から職場放棄して遊ぶ気満々。しかも、なにを始めたかと思えば、弓を使っての『漫画射ち』ときている。

 俺の落胆は、けっして大げさではないだろう。

 ちなみに『漫画射ち』というのは、同時に矢を二本三本とつがえ、それを一斉に射るという架空のテクニックだ。

 もう弓道警察が黙っちゃいないどころか、どんなに足掻いても実現できない。絶対に無理だ。

「いやー、懐かしいですね、タケルさん! 落ちていた『石』を投げてたのが、まだ今年のことだなんて……とても思えないっス!」

 視線に気付いたのか、リルフィーは返しにくいボケを披露してくる。

 ついでに矢も発射し、的にしたらしい立ち木へ、二本とも見事に命中させた。……歩きながらの『漫画射ち』なことを考えたら、それなりの技量といえそうだ。

 しかし、当然に命中しただけで矢は刺さらない。

 それこそ『漫画射ち』が完全否定される根拠だった。

 同じパワーソースで倍から数倍の質量を撃ち出せば、当然に各個の運動エネルギーは激減してしまう。

 一本の矢を飛ばすだけでも不足しがちなのに、それを分割してしまったら成立しなくなるのは当たり前だ。

「まあ、三年ぐらいゲームに閉じ込められっぱなしな気がしなくもないけど……言われてみればβテストは、まだ今年の初めのことだったな。 ――というか、二本射ちって成立すんの、リンクス?」

「もちろんしないよ、隊長。ただの宴会芸。当たっても『間に合わせの武器』扱いだね」

 答えるリンクスの表情は朗らかな感じだった。

 リンクスも何かしら、ギルドハントに喜びを見出しているらしい。

 ……少し考え過ぎか?

 今日の裏のテーマを――アリバイ作り目的なのを知っているのは、俺だけだ。他の皆は、単なるギルドハントと――ちょっとしたレジャー程度に考えているのだろう。


 その証拠に隣のパーティへ目を移せば、グーカが張り切っている様子も目に入る。

 珍しいことに無骨なナックルガードと小さめの短剣で、トレードマークにもなってるグルカナイフ二刀流ではない。そして――

「良いですかい? 四つ脚タイプでも小ぶりなのは、無理せずに背中を叩くイメージがベストなんでさぁ。とにかく相手の体高に付き合っちまうと、俺ら人間には無理がでちまう」

 などと、集まっている奴らへレクチャーしていた。

 察するにテーマは『小型~中型の四つ脚タイプのモンスター退治・接近戦仕様編』といったところか?

 俺などのインターネット道場で知恵を得ているタイプは特殊だ。グーカがしているように熟練者が仲間へテクニックを伝えていくのが、本来のあるべき姿ではあるだろう。

 やや物足りない難易度であっても、各自で色々と工夫している証拠か。これなら放置していても、それなりに大丈夫かもしれない。


 ………………男のギルドメンバーは。

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