ギルドハント――1
色々と裏の訳があって、ギルドハントを企画したものの……なんだか凄いことになった。
なによりも、どうしてか全員が参加している。この世界では中堅クラスといえるギルド『ラフュージュ』の全員が。
うちにはノリの良い奴らが揃っているけれど、それは独立独歩の精神もセットでだ。ここまで一糸乱れず団体行動できたなんて、身内ながら首を捻らざる得ない。
まあ、こんなに大人数での狩りなんて久し振り――『ドラゴン討伐』以来か?――なので、盛り上がるのも無理はないけれど……逆にいうと内々の催しともいえる。
いわば日常の延長線上だ。誰も彼もが大喜びなのは、やはり解せない。順番から考えると、全員が参加したから大騒ぎへ発展したのだし。
そもそもギルドハントは、毎日のように企画されている。無かった日の方が珍しいぐらいだ。
不具合の最中という条件を加味すれば、これは異常といってよいくらいだろう。
遊びたがりのガガチがねだったり、それをあやすようにグーカが受け合ったり、空気を読まないリルフィーが言い出しっぺになったりと……誰かしらが発起人となって、それに他のメンバーも適当に参加していた。
毎日ギルドハントが成立しているという、ある意味で理想的なギルドですらある。……こんな不具合の最中でもなければ。
まあ、確かに俺が提案してのギルドハントなんて、初めての――
………………だからか。
ギルド『ラフュージュ』を興し、すでに何日も経過しているけれど……ギルドメンバーオンリーの狩りを俺が企画したのは、これが最初かもしれない。毎日のように行われていたギルドハントは、全て俺以外が発起人だった訳だし。
つまり、全メンバーにとっては、やっとこ企画された、いまさら感すらある――
第一回正式ギルドハント!
なのかもしれなかった。
……というか、間違いなくそう認識されているだろう。
これはMMOのギルドとプレイヤーの関係に詳しくないと、ちょっと理解し難いかもしれない。
平和で普通、このような不具合にないMMOの場合、活動の中心は『狩り』だ。
そして極端なソロ志向であったり、公募パーティが中心なシステムでもない限り、所属ギルドで催されるギルドハントが、プレイヤーにとってゲームの全てとなる。
中小のギルドなんて定期的なギルドハントさえ企画していれば、それだけでギルドマスターの責務は果たされたも同然だ。
これが過言でないぐらい、ギルドハントに掛けられる期待は大きい。
つまり、今回のような正式の――ギルドマスター本人によるものと、ギルドメンバーが暇つぶし的に提案していたものを比べると、その扱いも違うものとなる。やはりギルド制のMMOだと、ギルドマスターは特別な存在だ。
……これは無所属が長かった弊害か?
久しぶりに在籍した『RSS騎士団』にしたところで、とても一般的とは言い難い。
崇高な使命を持ってはいたが特異なギルドだったし、そもそも俺がギルドマスターでもなかった。
対するに我らが『ラフュージュ』は不具合に際して集った仲間というか、いろいろな紆余曲折の末に寄せ集まったというかだし……その理念も自分達の安全保障以外、何一つとして明確なポリシーはない。
さらに正直にいうのであれば、いまだに俺がギルドマスターなのは疑問だったりもする。
本当に良いのか? 俺で? 再選挙はしないのか?
おそらくギルド『ラフュージュ』の半分は、皆の優しさで出来ていて……残りはおそらくノリか悪ふざけなのだろう。間違いない。
そして当然にMMOのしきたりというか――不文律的なお約束なども、ノンポリ・ギルドと近いもので合意されている……はずだ?
つまり、大別すれば『お気楽ノンポリギルド』で、結成後最初のギルドマスターが音頭をとったギルドハントなのだから、とりあえず盛り上げようと……してくれる?
………………どうして自分を誤魔化すのは、大人になると上手くなるんだろう?
いや、カイや敏いメンバーは、言わずとも表の意図に気付いてくれているはずだ!
MPKのような迷惑行為を仕掛けられた場合、いくつかの対応策があった。その中でも効果的なものは、『効いてないフリをする』だ。
なぜなら相手の狙いが『こちらを狩場から退場させる』だった可能性がある。
その場合、最も避けるべきは過剰反応だ。相手の目論見通りとなってしまう。
狩場から撤退しない意思表示はするべきだし、狩場が廃れていく流れにも歯止めを掛ける必要がある。
現状ですら命懸けなのに、プレイヤーが狩場から減ればリスクだけが高まっていく。
『ラフュージュ』のような中堅以上の規模であれば、それでも困りはしない。自前の戦力と相談して、目の前の状況に合わせるだけで済む。
しかし、いまだに単独で行動しているプレイヤーや小規模なギルドには死活問題だ。狩場の難易度は生活に――最終的には生死に直結する。
……それが狙いか?
だが、ほとんど全てのプレイヤーが狩りによって金貨を得ている以上、狩場の難易度を上げて得をする者がいるとも思えない。
いや、この俺達の選択を見越し、敢えてのMPKだった?
だとすると『俺達を狩場へ引きずり出す』ことに、誰かしらのメリットが生まれる。そんなものがあるのか? もしくはそんな奴が?
顔の見えない敵に上手を取られている嫌なイメージ。
しかし、こちらの反応すら読み切られているような感覚があろうと、嫌でも対策をしなければならない。座視していれば、相手が何もせずとも状況は悪化していく。
……そこまで考えての悪意だったのか?
焦るな! 焦ってはいけない。それこそ相手の思うかもしれなかった。
また、俺にだって頼れる仲間がいる!
誰もが俺より優れた長所を誇るスペシャリストの集団。それがギルド『ラフュージュ』が持つ隠された素顔だ。その総力を結集すれば、あらゆる問題解決も――
………………ダメかも。
なんというか緩い! もう『日曜日の家族連れ』とでも形容したいぐらいに惚けている!
「よし、パパ駆けっこ始めちゃうぞ!」
「負けないからね、パパ! 僕はクラスで一番なんだから!」
「あ、お兄ちゃん達ずるい! 待ってよー!」
「ほほほ……慌てて走ると転びますよ」
なんて幻聴がしてきそうな勢いだ。
これはギルドハントなどではなく、幸せ家族のピクニックだったのか?
何より恐ろしいのは、この疑問を俺しか覚えていなさそうなところ。つまり――
中堅以上な規模のギルドなのに、ツッコミが俺だけの独りぼっちだ!




