The Call of……――1
結局、予想通りのMPK排斥と決まった――決めさせた。
もしかしたら強引と思われるかもしれないが、これは仕方のないことでもある。
一匹狼の無頼を気取っていたり、ギルドを構えていても数人程度ならともかく……ゲーム屈指の大手ギルドを運営ともなると、これ以外の結論は考え難かった。
自分だけが注意していても駄目。かといって味方全員を護衛するのも現実的ではない。
ならば攻撃側を抑止するしかなかった。
……なぜかハンバルテウスは、最後まで反対してくれちゃってたが。
あの野郎、益々扱い難くなってやがる。
もう内容なんてどうでもよくなってて、『俺の言ったことだから反対』ではなかろうか?
しかし、『RSS騎士団』にとってもMPKは厄介に決まっている!
当然にMPK排斥反対のメリットなぞ無い! これでは性質の悪い反対厨だ!
……少し被害妄想気味か?
だが、ここは俺の心情も酌んで欲しい。
仲間がMPKを仕掛けられ、怒り心頭で『食料品店』前の広場――その意味するところは国連ならぬギル連か?――へ乗り込んだら……なぜか古巣の幹部から妨害工作!
な……何を言っているのか判らねーと思うが、俺も何をされたのか判らな――
……とにかく散々だ!
実のところ、まだ解決とも考え難かった。
このMPKをやった奴――もしくは奴ら?――が、道理を理解するなら問題ない。
もう繰り返されることはないだろうし、別口も――模倣犯も生まれないだろう。誰だって他人のよりは、自分の命が大事だからだ。
しかし、頭のネジが何本も抜け落ちているような奴が相手だと……さらに事態は混迷するだろう。もう目に浮かぶほどだ。決して油断できるような状況ではない。
損得勘定が不得手だったり度外視してくる者は、常に想定外の結果を引き起こす。
自分がコントロールする立場になってみると……その厄介さには、苦労をさせられた。基本的に話し合いや取引が通じないからだ。
……いや、さすがに自分の命より大切な『何か』があるような者は、珍しいか?
ましてや、そいつがMPKをやるタイプだったりするのも?
それに命の抑止力は、非常に強力だ。
『暗殺も視野に入れた排除』という但し書きも、より効果を増している。さすが先生方と唸らざるをえない。……必要なだけの残酷さが、過不足なく織り込まれているからだ。
これは現実世界での極刑――死刑と類似点がある。
死刑という制度を『被害者を慰撫する為』などと主張する者がいるが、酷く見当はずれ……らしい。
最初から最後まで、被害者の心情などは考慮外だ。なぜなら死刑とは――
『そんなこと(犯罪)をしたら、罰として自分が殺される』
という抑止力を生むの為だけに存在する……そうだ。
言われてみればその通りでしかなく、あらゆる犯罪をやらない理由は……当然に罰せられるからだろう。
そもそも法律に『被害者を慰める』なんて高度なことは不可能だし、被害者はもちろん、死刑判決を受ける者にすら特別な配慮はしていない。
おそらく法律を神聖不可侵と考えているから、妙な勘違いが生まれているのだろう。実のところは、たんなるシステムに過ぎない。
さらにリシアさんが付け加えた自首に関する特例も、抑止力が毒となるのを止めてくれていた。
きっと女性らしい優しさからだろうけど……それは先生方のプランに欠けていた部分でもある。
いや、タカ派の立場で発言しながら、特例による恩赦も同時に主張は難しいか? 右といいながら、左とも主張するのは至難の業だ。
……ならば実は俺こそが、それを付け加えるべき役目だったのかもしれない。
反省は後ですることにして、話を戻せば……死刑という制度は、治安に悪影響を与える可能性がある……そうだ。
もし仮に『すでに犯した罪状で、どうあがいても死刑は確定』だった場合、『逮捕は死刑と同意義』となってしまう。
さらに『死刑は確定』であるから、もはや法律による抑止力は期待できない。どれだけ罪を重ねようが、『死刑は確定』と決まっている。
つまり、あらゆる犯罪に対して全く躊躇がなく、逮捕を免れようと死力を尽くすモンスターの誕生だ。
それを回避するためだけでも、『自首によって罪一等を減じる』ことには存在価値がある……らしい。
もちろん、厄介な凶悪犯が自首――自ら名乗り出てくるというのは、コスト面で素晴らしく優秀だ。
……俺などは人一人を探し出すのに、どれだけの労力を割いていることか。これは探す側の立場となって、初めて分かる事実かもしれない。
とにかくMPKの犯人が自暴自棄に陥ることはない……はずだ。
影響を受けた模倣犯も、おそらく生まれない……だろう。
だか、それでもこの一件は難題であり続けるだろう。なぜなら――
相手の意図が不明なままだ。
もはやゲームではない。暇つぶしなどではあり得ないし、怨恨ですら理由としては軽すぎる。
もし成功してしまえば『決定的な結果』が考えられた。というより、言葉を濁さずに言うのであれば……おそらく人が死ぬ。
MPKの最中に失敗する可能性だってある。そのペナルティは当然、自分自身の死だ。
これは確信犯か? 正しい言葉の意味での?
どんな切っ掛けかは判らないが……この不具合をバトルロイヤルに――参加者同士で殺し合いをする生き残りゲームと考えているとしたら?
正常な判断力を維持しながら、狂ったプレイヤー。それは俺達の手には余るかもしれなかった。どこまでいっても俺達は、ゲームに熱心な素人にすぎないのだし。
そしてハンバルテウスの態度にも、違和感を覚えた。
ここまで深刻な事態なのに、どうして個々人の諍いを優先する?
いつだか誰かから、最近の『RSS』について何かクレームを言われたような?
もしかしたらルキフェルがギルドホールまで来ていたのは――そしてカガチとチェスなんかで遊んでいたのは、俺に話があったのかもしれない。
正直、悩みしかなかった。今日起きたこと以外にも、問題も山積みだ。
しかし、それら全てよりも、不自然なまでに元気のなかった秋桜が気になる。




