予想外の展開――3
しかし、このまま負んぶに抱っこでは、申し訳が立たない。
というよりも先生方が口にされたことは、本来は俺が言うべきか?
下手したら人格を疑われるような主張だからこそ、自分の口で発言するべきだった。
「もちろん、俺達も――ギルド『ラフュージュ』も支持する。総意と受け取ってもらって構わないぜ。無法に思えるのが不満なら……この場で『MPKは問答無用で縛り首』なんて法を制定してもいい。まあ、仮に俺達だけになろうと、然るべき対処はさせてもらうけどな」
……まあまあ上手く言えたか?
実のところMPKの犯人は、探し出せない可能性がある。だとしても抑止力の方は、機能させておいた方がよい。
「それは『自由の翼』にも参加しろちゅーことかいな? 犯人探しと……然るべき処置の実行を?」
そう聞き返してきたジンは、予想外なことに難しそうな顔をしている。
なるほど。
ノンポリなギルドではメリットがあることでも、このようなイケイケな決定――特に行動込みで要求をされると、簡単に同意はできないらしい。
似たような事情を抱えているのか、『水曜同盟』のマルクや『まったり連合』の代表も困り顔だ。
……勇み足だったか?
「そもそもMPKという見解からにして、小官には疑問がある! ギルド『ラフュージュ』などと名乗ったところで、そのメンバーまで一新とはいかぬはず! これが単なる私闘ではないと、誰に否定できようか! 個々の集団で抱える小競り合いに巻き込まれるのは、御免被りたい! そもそも元参謀殿は、このように問題をすり替える手管で――」
……失策で確定だ。
単なる揉め事が原因と断じられると、なかなかに否定しにくい。なにより可能性は無きにしも非ずだ。
ハンバルテウスの奴、意外にも冷静というか……少し対処が難しくなったか?
それとも俺の方が手緩く?
というか……なんだって、こんなにも喧嘩腰なんだ?
なんにしても言われっ放しは拙い。すぐにでも介入を――
「問題をすり替えているのは、貴方の方ではございませんか! ギルド『ラフュージュ』の皆様に私共『不落の砦』と、主義主張の異なる集団が狙われたのです! これがMPKだと――無差別攻撃だと断じるに、十分ではありませんか!」
――するまでもなく、リリーに先を越された。
しかし、なんだってこんなに怒ってんだ?
隣の秋桜は、やっぱり元気が無いというか……リリーの声にすら、怯えてしまいそうな様子だし。
ただ、リリーの主張には、一定の説得力があったらしい。
遠巻きにこちらを窺う野次馬達からは賛意の呟きも漏れたし、会合に参加する者達も同様らしかった。
……ハンバルテウス以外は。
「はあ? 貴様らが奴と無関係だと? そんな騙りを信じる者などいるものか! 侮るのも程々にしていただきたい!」
な、なんたる暴言!
嗚呼、こいつは糞も味噌も一緒に考えるような奴で、だから俺とは解り合えないと再認識を――
な、なぜハンバルテウスにも賛同者が?
……拍手まで? なぜ拍手? そこまでして賛意を示したいのか?
さすがに拍手は場違いだろう! それに、こんな妄言の支持者がいるのは、どう考えてもおかしい!
「タケル君と『不落』はんの関係は……いま取り上げなくてもええやろ。それに今回は、無差別攻撃で間違いないと思うで?」
仕切りとしての責任に目覚めたのか、ジンが適当なこと言い放つ。
……「いま」ってなんだ! 「後」になら議題とするつもりか? 勘弁しろ!
ここで黙っていたら、もの凄く機嫌の悪くなったアリサに折檻される! 絶対に誤解は解かねば――
「ああ、判ったぞ! 僕が順番を間違えてたんだ! 最初にこう訊ねればよかった! 参加者の中に――自分が代表しているギルドのメンバーに、今回の犯人はいるのかな?」
――このミルディンさんの発言で、俺の名誉返上にして汚名挽回のチャンスは失われてしまった。
というより、全員絶句だ。まさしく効果抜群なギャグとなっていた。
「犯人は暗殺する」とまで宣言しておいて、「犯人をメンバーに抱えてるギルドいるか?」では……失礼を通り越して、もう宣戦布告寸前に近い。
その証拠に侮蔑されたと思ったのか、ハンバルテウスなどは顔が真っ赤だ。
「年長と思って我慢をしていれば、どこまで! そのような者は、私の部下にはいない! 疑うのであれば証拠を見せろ!」
「うーん? いや、僕は念の為に訊いただけだし……それに君のところに犯人がいないのなら、そんなに怒らなくてもよいでしょ?」
これは役者が違い過ぎる。
色々な問題を「君のところが犯人じゃないなら、べつに問題なんてないよね?」とすり替えてしまっていた。
そして相手が粘るようなら、「あれ? 妙に拘るけど……実は犯人は身内なの?」などと詰めるのだろう。
もう勉強になるとしかいえないし……俺が思っていたよりもミルディンさんは、ずっと上手だった。きっと俺などでは、この老獪の足元にも及ばないだろう。
「判った! 判ったから落ち着け、ハンバルテウス! ――あー……うちはとりあえず、この件について団長代理と諮ることにする!」
立ち上がりかけたハンバルテウスを無理やり座らせながら、シドウさんが結論を口にする。
それはオールマイティな理由――最高責任ではないという最強の盾ではあるけれど……この場にいる『RSS』の二人が、単なる代理人に過ぎないとも認めてしまう。
面子に拘るハンバルテウスの心情を思うと……泡でも吹いて倒れてしまうんじゃなかろうか、あいつ?
さらに、そんな乱闘寸前な空気ですら読まないとばかりに、ずっと思案顔だったリシアさんも参加した。
「うちも――ギルド『聖喪女修道院』も支持します、ミルディンさん達を。ただし、犯人の子が自首をしてきたら、お仕置きは手加減してあげるという条件付きで」
「私共は――ギルド『不落の砦』は、お姉様方と歩調を共に」
素早くリリーも追従の意を表す。
……これで決まりか?
最大手である『不落』『聖喪』同盟に承認されれば、もはや公然と反対できる者などいない。大筋の合意は得られただろう。
だが、基本的に優しい女なリシアさんまで、ここまで過激な手法の支持に回るなんて意外だ。やはり、なにかがあったとしか思えない。
……秋桜の元気が無いのは、それが原因か?




