予想外の展開――1
被害者をゼロに抑えれたのは、とにかく幸運だった。
しかし、巻き込まれたのがギルドハントのパーティではなく、たまたまソロで最中なメンバーだったら?
仕掛けた奴が手緩かっただけのことで、実際にグーカは途中から単独行動をしてしまっている。
グーカの判断はセオリーとも言い難いので、事前に予想は難しくはあるけれど……つけ込める隙だったのは間違いない。
いや、そもそもの最初から少人数の獲物を狙ってもよい……というより、そちらの方が無難だろう。
また、なぜか『ゴブリンの森』という不適当な狩場だったけれど、もっと成功しやすい場所を選んでもよかったはずだ。
……俺でも何箇所か思い付けなくもない。
つまり、ソロ志向や少人数のパーティに好まれ、それほど賑わってない狩場で、MPKに手頃なモンスターも集めやすい――
俺がMPKをする立場だったら、間違いなく条件が揃った場所で狙う。そうでもしなければ、なかなか成果も望めないだろうし。
……いや、相手の意図が判明していないうちは、細かいところまで決めつけないのが正解か?
『ゴブリンの森』でやることに意義があった可能性だってある。
それでも元・攻略班と調査班のメンバーに要注意狩場の検討を頼み、リストアップする必要はありそうだ。
公開してしまったら不心得者にも知れ渡るので拙いが……身内には情報を回しておきたい。
MPKは成功させにくい戦術だし、各種条件がシビアといっても……何度だろうと先制可能なのは厄介だ。警戒しておいて損はない。
こちらが失敗するまで続けられたら、いつか必ず不運と踊らさせられる。決して油断はできない。
またグーカが無事だったからといって、そこで終わらないのがギルド運営陣のつらいところだった。
やはり色々と事後処理は発生する。
先生方にも助けて頂いたし、もう自分達だけの話で済ませられないし……済ます気もない。
といっても例の如く、『食料品店』前での会合を通じてと考えていた。
が、なぜだか雲行きがおかしい。なんだか予想と全く違う。
「私共『不落の砦』と『聖喪女修道院』は、連名での厳重抗議をいたします! 絶対に許して差し上げません! だいたいMPKなどという振舞いは、卑怯千万もいいところです!」
などと各ギルドの主だった人物が揃うや否や怒りを爆発させたのは、なぜかリリーだった。
俺達への義憤に駆られた訳でもないだろうし、カンカンになって怒っているところを見ると……もしかしたらリシアさん達『聖喪』と秋桜やリリー達の『不落』も襲われたのか?
なら秋桜が黙っちゃいないと思うのだけれど……そっちはそっちで、妙に元気がない。どうしちまったんだろう?
「あー……今日は大騒ぎになっていたし、色々とワイも耳にしとる。怒るのも判らんでもない。でも、まずは順序よく話を聞かせて欲しいんやけど?」
チラチラと俺の方を窺いながら、ギルド『自由の翼』のジンが場をとりなしてくる。
……今日のところは任せてしまうか?
いくら奴が俺やギルド『ラフュージュ』とは不仲、『不落』『聖喪』同盟勢力には消極的無関心であっても……このMPK騒ぎを利用はしないだろう。
どこよりも奴の方が、守るべきメンバーは多い。普通に解決を望むはずだ。
また『ラフュージュ』に先生方の『象牙の塔』と『妖精郷』、さらには『不落』の『聖喪』まで当事者なようでは、仕切れる第三者も少なくなる。
『RSS騎士団』からは、いつものようにシドウさんが顔を出してくれているけれど……なぜか第一小隊隊長のハンバルテウスまで出張ってきてやがるし。
……あの野郎、なんのつもりなんだ? 選りによってこの面倒臭いタイミングで、やっと外交の重要性に目覚めたのか?
とにかくシドウさんの負担を増やすべきではない。
もちろん『水曜同盟』からはマルクの奴が出席しているけれど……奴に主導権を与えたら迷走してしまうだろう。
言っちゃ悪いがギルド『まったり同盟』の代表も似たようなもんだし。
溜息を押し殺しながら、ジンへ肩を竦めて返事に代える。……珍しく認めてやったのに、仏頂面を返しやがった!
「ほな、今回はワイが仕切るっちゅーことで。タケル君とこがえらい目に遭ったのは聞いてますけど……あー……リシアさん達のとこもだったんですか? できたら詳細を――」
「どうしたもこうしたもありません! MPKです! 私共は大人しくギルドハントをしていただけなのに――」
……見たこともないほど大興奮なリリーは、これまた珍しく早口で捲し立てた。
ところどころに慇懃無礼な当て擦り――どころか、明け透けに悪口を混ぜるものだから……もしMPKの犯人が聞いていたら、世を儚んで自殺ぐらいはしてしまいそうだ。
さすがは陰鬱の妖精なだけはある。悪口が魔術の域に到達してしまっていた。
しかし、秋桜の元気のなさとリリーが激怒している様子から、最低最悪で致命的な結果を予想してしまったのだけれど……どうもそうではないらしい。
話を要約すると、秋桜たちもMPKを仕掛けられたものの、被害は軽微で済んだようだった。
……では、なぜ秋桜は沈んでいるのだろう?
「――で、まあ……俺らもMPKされたって訳だ。幸運にも被害者は出さずに済んだけどな」
リリーの後に俺の説明となるも、なんだか考えていたより淡泊な感じになってしまった。
やはり先にキレられてしまうと、ぶちまけるタイミングを見失う。これでは大失敗……だよな?
「確かにMPKは見過ごせんけど……うーん? 共同での非難声明以外に、何かできること……あるんかなぁ?」
一通り事情を聞いたジンは、難しい顔で弱音を吐く。
まあ、解らないでもなかった。要するにMPKなんて通り魔と同じで、犯人を逮捕以外の有効策などない。
そして俺達が雁首突き合わせていても、逮捕につながる策なんて思い付けそうも――
「僕にいい考えがある! というか、それを提案しにきたんだよね! この場で犯人の暗殺も視野に入れた対応策を、全ギルドの代表者に承認して貰いたいんだ!」
などと主張されたのは、ギルド『象牙の塔』代表のミルディンさんだった。
……過激な内容とは裏腹に、ノホホンとしてらっしゃる。




