MPK――4
気付けば注目の的となっていた。
……当然か。
確かにMPKはしょぼい出来事だが、現在進行中の出来事でもある。集結のほぼ終わった今、ギルド本体も動き出す頃合いだろう。
遅ればせながら帰還したリーダー――ギルドマスターである俺の発言待ちとなるのは、皆の練度が高い証拠とすらいえる。
しかし――
「ちょっ! タケル隊長……ちょっとテンパり過ぎじゃね?」
「若旦那は……悪い人じゃないんだけど過保護というか、心配性というか……」
「悪い人じゃないんだけどね……ちょっと気は小さいかも」
なニュアンスの、生温かい視線を感じるのは気のせいだろうか?
いや、断じて俺の被害妄想などではない!
そもそもグーカの野郎、なにをしちゃってんだ? ギルドハントの引率責任者だからって張り切り過ぎだろう!
MPKを仕掛けられたのなら、素直に逃げればよいものを!
『帰還石』や『転移石』なら大した出費にもならないし、全員で『翼の護符』を使うことになっても……それこそ普段から節約に努めた甲斐もあるというものだ。
やはり仲間の命に代えられるものなどない!
なのに自己犠牲精神を発揮して囮役を買ってでちゃうとか……少しヒロイック過ぎやしないだろうか?
こんな時に囮役を買って出たりするのは良くない!
自己陶酔しかけている証拠だ!
………………何かが心に引っ掛かっるけど、きっと気のせいに違いない。
また帰還が遅いのも、問題だ。
おそらく単独行動に入ってからも、頑張ってしまっているのだろう。
無事に人気のないところまでモンスターを誘導出来たのなら……予算など度外視で『翼の護符』で離脱すればいいのに!
そうしていれば下手をすると、現地で円陣を組んだメンバーより先に街へ戻れる。
当然に円陣組は負けるはずもないから、すぐに街で合流だ。
そして「良かった……MPKによって現在行方不明となってるギルドメンバーはいないんだ」となって一件落着する。
ややリスクが高く――グーカ以外のメンバーにとっては高くなるが、グーカも一緒に処理へ参加でもよかった。
……もちろん、わざわざMPKに付き合ったりせず、最初に無視して帰るのがベストではあるけれど。
ここまで考えたところで、なぜか突然に不吉な閃きを感じてしまった。
いまのようなシチュエーションで、ちょっとした危機にある誰かを、こんな風に不在のまま責めていると――
なぜか失敗したり、場合によって最悪の結末を迎えてしまうアレをだ!
……俗にいうフラグとでもいうべきものを、せっせっと俺は積み上げていたのか?
いや、フラグはあれば良いというものではなく、多すぎると逆に『過フラグ』などといって、逆の効果を働かせると……いや、そもそも俺は漫画やアニメの登場人物でもないし、さらにいえば主人公という柄でもない。虚構での常識を現実に対応させようとするのは……だが、よく考えてみればVR世界とは真に虚構といっても過言ではなく、つまるところフラグという概念も通じる?……つまりは『お約束』だ。しかし、そうであるのなら『お約束』を敢えて踏襲しないことで逆フラグを錬成するべき?……だが、逆フラグとして狙ったものは、実際に逆となりえるのか――
「よし! 組めるだけの十一人パーティを作るぞ! いまから全員で救援に向かう。グーカを発見次第、十二人目に入れるつもりでパーティリーダーを選出な。リンクス達は悪いけど、引き続き後詰と情報網の維持を頼む」
思考の迷宮から、無理に這い出て宣言する。
すぐに皆からも真剣な顔で頷き返された。……リンクスだけは留守番役が不満なのか、軽い溜息を吐いているけれど。
全く反対がなかったのは、そう間違った決定でもない証拠だろう。
先生方が身をもって示してくださったように、この状況では全力投入が正解だ。
もちろん、身内の救援は絶対の正義ということもあるが……『ちょっとした小競り合いにでも全体が動く』と知らしめるのも重要だった。
俺達の――ギルド『ラフュージュ』のメンバーが害されたから、ギルド全体が対応と報復に立ち上がる。
どころか同盟関係にあるギルド『象牙の塔』や『妖精郷』すらもだ。
もちろん逆に先生方の『象牙の塔』や『妖精郷』へ手が出されたら、『ラフュージュ』も駆けつける。
どこのメンバーだろうと仕掛ければ全員を――三桁を超える人数を相手にしなくてはならない。
その事実と評判は、他の何よりも俺達を守ってくれるだろう。原始的ではあっても、立派な安全保障の仕組みだ。
「人数的に何パーティいける?」
「リンクス達が抜けるから……うーん? それに組めばいいって訳でもないぞ?」
「『ゴブリン』だろ? それに突撃編成なら……『魔法使い』を厚めにだろ」
「だな。前衛も絞って……『僧侶』要るのか? 高くついてもポーション主体で十分じゃないか?」
「駄目だ。少なくとも一人はいれよう。揉め事が変に転がってから再編成じゃ拙い」
「了解。俺がパーティリーダーになるぜ、あと『戦士』が――」
「じゃ、二つ目は俺が。こっちは『魔法使い』と――」
方針さえ決めてしまえば、皆も判っているもので、すぐに行動へと移ってくれた。
やはり頼りになる。この様子なら特に注意をせずとも平気だろう。全員が問題点と解決策を理解できている。
ある意味で、成熟して自立した集団といえた。理想的ですらある。
……自分がお飾りリーダーに思える理由でもあるけれど。
それにフラグだとか『お約束』だのと……妙なジンクスを気にすることもないはずだ。グーカは無事に決まっているし、多少のピンチに陥っていてもすぐに救援に向かう。
いや、現地にはカイもいるし、先生方も手伝ってくださっている。案外、すでに合流済みであっても――
などと考えていたら、そーっと屋上へ入ってきたグーカと目が合った!
……なんだかバツの悪そうな顔をしている。まるで遅刻してきた生徒のようだ。俺も何と迎えればよいのか、すぐには思いつかない。
「た、ただいま戻りやしたぜ、隊長!」
申し訳なさそうにグーカは報告してくるけれど、基本的に落ち度はない……はず……だよな?
まあ、グーカほどのベテランプレイヤーだ。
もっとも可能性が高い結末は、『見事に囮役を務め、自らも無事に帰還する』に決まっていた。
でも、どうしてくれる! この微妙に白っちゃけた空気を!
そして徐々に盛り上がっていた闘志は、どこへ向ければ!
………………嗚呼、いま判ったぞ!
フラグが成立していたのは、喜劇でか!




