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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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MPK――3

 念のために説明しておくとMPKとは、モンスター・プレイヤー・キルの頭文字を取った略語だ。

 システムによっては『なすりつけ』などと称されることもある。

 どちらであろうとモンスターを利用して相手プレイヤーを殺す戦術全般を指す。

 定番の寄せ集めて押し付ける方法に始まり、広義には誰かが戦っているモンスターに回復魔法や強化魔法などをかけて倒せなくする――結果、いずれはプレイヤーが殺される――のも含まれる。

 そのMPKだが……最近ではMMOで遊んだことのない人にも通じそうなぐらいに、認知度が高い。それも過大評価されている感じで。

 しかし、慣れれば解るのだけれど、実のところMPKは弱い戦術だ。

 「弱い」が言い過ぎであっても、制限だらけで使い辛いのは間違いない。


 まず、システムを問わずに通じる対応策に『相手をせず逃げる』があった。

 特に『セクロスのできるVRMMO』のような、プレイヤーに豊富な移動手段が与えられてるシステムでは強力だ。

 仕掛ける側が大量のモンスターを集めてこようと、それを確認した時点で『転移石』か『帰還石』を使って撤退してしまえばよかった。

 運悪く戦闘の最中であっても、その場合には『翼の護符』という手段がある。……こちらは高価なアイテムではあるけれど。

 ここまでシステム面でサポートされてなくとも、単純に『街まで走って戻る』という手だって通じる。

 MMOでは余程の例外でも限り、プレイヤーキャラクター同士の移動速度は同じだ。

 これは団体行動での弊害化を避けたり、移動速度差を利用したハメを封じる目的なのだが……結果としてプレイヤー同士での追い掛けっこも成立しなくなる。

 逃げる側が止まらない限り、未来永劫に差が縮まらないからだ。


 次に、ややハードルは高くなるが、対処してしまう手もある。

 仮に『ゴブリン』を百匹ほど押し付けられたとしよう。

 MMOに慣れていないと、もう「百匹」という字面で絶望的に思えるかもしれない。

 VRシステムを使わない――それこそ昔のモニターを利用して遊んだというRPGゲームであれば、百匹の『ゴブリン』は脅威だと思う。

 ()()()()とかいう不思議な時間単位に、百匹の『ゴブリン』が百回の攻撃をしてきて、こちらは一回だけ反撃できる……となるのか?

 だが、現実的にそんなことは不可能だ。少なくとも俺には映像化が難しく感じる。

 ……というか()()()()()、おそらくそいつらは『ゴブリン』ではない。よく似た他のナニカだ。

 つまり、ほぼ現実と同じなVR世界――盛大にインチキはしているけれど!――でも不可能となる。

 同時に取り囲めるのは、よくて四匹か五匹が精々だろう。いや、立木か何かを背にすれば、さらに減らせるか?

 残った九十数匹は、勤勉なAIで順番待ちをする程度で……場合によっては諦めて他所へ行ってしまう可能性すらあった!

 これは中身が人かAIの差でもある。

 百対一であれば、何も考えずに数の力で押し倒せば勝ててしまうが……ゲーム用のAIだと、そのような行動は取らないのが一般的だ。

 ようするに同時に相手にするのは『ゴブリン』が三匹程度、補充されるのも五十匹前後といったところか?

 いまやレベルキャップに届き、装備も充実し、消耗品も常に一定数を確保できている。

 この条件での『ゴブリン』百人組手ならば、リルフィーのような変態でなくとも対応可能だろう。おそらく俺でも楽にこなせる。

 そして俺やリルフィーのような『戦士』でなく、『魔法使い』だったら話はさらに単純だ。

 細かいことなど気にせず『ファイヤーボール』などの範囲呪文を、ぶっ放し続けるだけで処理できてしまう。

 ましてやパーティ単位で、最初に円陣でも組んでしまえば……もう殺される方が難しくなる。


 ようするにMPKは集めれば集めるだけ火力が大きくなる長所もあるが、そのモンスターを処理可能な相手には効果が薄かった。

 そして、これには二つしか対応策がない。

 一つは『対処できないほど弱かったり、知識のないプレイヤーを狙う』選択だ。

 ……つまるところ『初心者狩り』の類と変わらない。

 もう一つが『プレイヤーに対処されにくい、強いモンスターを駒として集める』なのだが……これはこれで問題があった。

 強いモンスターを集めようとしたら、それだけで命懸けとなってしまう!

 その上、強いモンスターほど『引き』や『釣り』は対策済みだ。

 『オーガ』や『トロル』などを例に挙げると、おおよそ二割――五匹に一匹はプレイヤーよりも僅かに足が速い。

 つまり、引っ張りまわそうとしても、その五匹のうち一匹がプレイヤーに追いついて攻撃してくる。

 もちろん、それを喰らって転倒でもしたら、即座に大ピンチだ。死亡すらあり得る。

 しかし、見事に避けてみせたところで……その間に同じ移動速度の『オーガ』や『トロル』にも追いつかれてしまう。

 さらに仕組みとして数多く集めれば集めるほど、プレイヤーより足の速いモンスターの数も増えていく。

 これは数が火力に直結するMPKでは大問題だ。

 結論として『引き』や『釣り』には――特にMPKには適さないといえる。

 ……リルフィーレベルの変態だと、『トロル』の『引き』程度なら実現してしまうけれど。

 まあ普通は集めやすい『ゴブリン』だったり、荒野の奥の方にいる『スケルトン』や『ゾンビ』、湖の近くにいる『ジャイアント・リザード』などを選ぶ。

 ただ、このラインナップで殺せるプレイヤーやパーティとなると……だいぶ限定されてしまうが。


 だが荒野などは、MPKの舞台として最悪だ。

 障害物がほとんどないものだから、数を集めれば目立つ。かなり離れた位置にいる時点で、「ああ、MPK野郎が接近してきたな」と判明してしまうだろう。

 その上、他のパーティと連携しやすいのも上手くなかった。

 MPKをするような奴がいたら、その場の全員にとって迷惑な訳だから……臨時に協力して、集めてきたモンスターを蹴散らしてしまうことも珍しくない。

 そういった臨時共闘をするのに――申し合わせるのに、障害物のない開けた場所は御あつらえ向きといえる。

 ……好戦的なプレイヤーだった場合は、問答無用で先制攻撃すらあるか?

 大量のモンスターを引き連れてMPKをしようとしたら、逆に先制攻撃を受けて蹈鞴を踏まさせられる。

 その停止せざるを得ない僅かな隙は、自ら集めたモンスターにひき殺される原因にしかならない。

 最初にして唯一の被害者が自分では、笑い話にもならないだろう。


 身体を張った笑いでなく、MPKを成功させるのであれば……

 集めやすいモンスターがいて――

 その戦力で倒せるターゲットが一般的にいる狩場で――

 ターゲット以外の人が少なく――

 不意を討てるよう適度に視界も悪く――

 と、多くの前提条件をクリアする必要がある。

 ……不具合によって歪なまでにプレイヤーレベルが高くなった現在、条件を満たす場所など数えるほどしか無いかもしれない。

 うん。これはリルフィーでなくとも「MPKとかマジですか?」とツッコミむのも無理はない………………か?

 まあ、「誰かにムカついたのなら、MPKなんて胡乱なことしてないで、さっさと殴りにいってこいよ」がMMOのスタンダードだし?

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