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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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424/511

需要――7

 全身全霊を込めて、たった一つの冴えた解決策を探す。

 ……いっそのこと、この依頼を引き受けてしまうか?

 その場合に不利益を被るのは……ネカマとバラされるターゲットに条約を反故にされるギルド『組合』――クピドさんだ。

 しかし、ターゲットは詐欺師でもなければサイコパスでもない。その部分をフォローしてやれば、致命的な結末は避けられるか?

 後は『組合』との折衝になるが……クピドさんの部屋での説教は不可避だろう。前々から誘われていた酒盛りに、お説教のオプション追加される。

 さすがに怒られるのを楽しいとは思えないけれど……明け方まで絞られる程度で済むかもしれなかった。

 対処は必要だが、至難でもないない。ただ、クピドさんには借りを作る。そんなところか。


 また、鼻の下を伸ばしながらも、ソワソワしているリルフィーが癪に障った。

 SKH作品を前に、興味を抑えきれないのだろう。同じ男の子として、気持ちは判らないでもない。

 この不具合でゲームの世界に閉じ込められ早や数週間、薄い実用書(男の子用)の需要は天井知らずだった。

 まあ当然といえば当然だろう。やはり、『人はパンのみにて生きるにあらず』であり――


 ()()()も必要なのだ!


 ……え?

 女の子も一緒に閉じ込められているのだから、()()()が必要な理由が判らない?

 誰しもがリア充と生まれついてないのだ! 滅べ! というか死ね!

 それに「しょうがないにゃあ」なんて返す奴は、全員が悪質なネカマだ!

 この毎日が衝動との戦いである過酷さを、少しは理解して欲しい! というか(おとこ)なら判れ!

 リルフィーに至っては薄い実用書(男の子用)の使用どころか、所持にすら厳しい監視の目が向けられている! 奴には憐れみをもって、「先に抜きな」と西部のガンマンばりな台詞で応えてやりたいぐらいだ!

 また先生方にだって、SKH作品を持ち帰れば褒めて貰えるだろう! もしかしたら手放しでの称賛すらあるかもしれない!


 嗚呼、何もかもが上手くいくのだ、きっと!


「だが、依頼は断る!」

 魂から絞り出すようにして吐いた言葉に、『ゆうた』とリルフィーの二人は驚いていた。

 ……当たり前か。もう依頼を受けるような流れとなっていた。勘違いするのも無理はない。

 しかし、依頼は断る!

 レア物であるSKH作品を入手できなくなろうとだ!

「何を驚いている? 少し考えれば当たり前のことだ。あんたは『アキバ堂』の前で騒ぎを起こした。あまつさえ、話題にすらなっている。だから『鑑定士』は……絶対に依頼を受けない」

 なんとかカッコつけて言い切ったが……その間もSKH作品のオーラは囁きかけてくる。「良いのか? 中身を見れなくても?」と!

 嗚呼、口惜しいが……俺の手には入らない定めだったのだろう。きっと酸っぱい薄い実用書(男の子用)だったのだ!

「そんな! 助けてあげましょうよ! タケルさんなら、簡単なはずっス!」

 リルフィーの発言は親切心が半分、SKH作品への未練が半分というところか?

 ……帰ったら先生のところで、薄い実用書(男の子用)でも買うか。二人で半分ずつ出し合って。

「そういう問題じゃない。これは悪しき前例になるから駄目だ! 万が一にでも……『アキバ堂』の前で『讃美歌十三番』を歌えば、『鑑定士』とコンタクトが取れる。そんな噂になったらどうする! 一応、言っとくとな? 『アキバ堂』の人達は、俺にとって師匠筋なんだぞ? ご迷惑を掛けれる訳がないだろうが!」

 この説明で、やっと『ゆうた』は得心したらしかった。

「……すまない。配慮が足りなかった」

 もう「策士策に溺れる」の典型例としか言い様もない。俺を呼び出せるだけの有能さが災いし、結局は目的を果たせないのだ。

「『鑑定士」を雇えたと話題になるどころか……断られたと、積極的に吹聴して欲しいぐらいだぜ」

 あまりにしょんぼりしているものだから、なんとなく切れ味の悪い感じになった。

 だが俺にしては厳しめだが、必要な選択をできたか?


 ……それを小さな成功と噛み締めつつ、もう少しだけ悪足掻きをしてみよう。


「まあ、ここからは雑談だ。あくまでも俺個人の感想なんだが……あんたが恐れているようなことは起きないと思うぜ? 真面目な話」

 ……伝わらなかったらしい。キョトンとしてやがる。

「あー……あんたが思いを伝えて、無事にオーケーを貰えるかはしらん。でも、それで()()()に遭うことはない。それは保証してもいいぜ」

 徐々に目に理解の色が広がっていく。

 ……これで十分なはずだった。

 『ゆうた』が恐れ、また『鑑定士』を呼び出す理由となったのは――

「残念だったな……ネカマだよ。この変態ネカマファッカーが!」

 と手酷く裏切られることだ。

 すでに自身も口にしているように、相手がネカマかどうかは二の次……どころか大した問題ではないとすら明言している。

 そしてターゲットが『組合』関係者であるのなら、ネカマであっても心は女の子だ。『ゆうた』は拒絶されることはあっても、痛めつけられることだけはない。


 『ゆうた』は裏切られることもなく、ターゲットは秘密をバラされず、俺も依頼を受けなくて済む。

 ……これなら落としどころとして十分だろう。


「ありがとう、『鑑定士』! やっぱり君は……俺の思った通りの(おとこ)だった!」

 感涙に咽ばんばかりだが、こうも手放しで喜ばれると……やはり心が痛む。

 万が一、『ゆうた』が全ての真実を知った暁には、俺は恨まれるのではないだろうか?

 しかし、厳密にいうと俺も、何一つとして嘘は言っていない。

 ……もう成るように成れか。

 差し出された手に握手で返しながら、そんなことを思った。

 それにベストではないかもしれないが、ベターではある。なによりも――


 初めて(誰か)を売らずに解決できたかもしれない! 大進歩だ!

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