表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

419/511

需要――2

「来てくれたのかッ! タケル君ッ! いやさ……『鑑定士』!」

 などと供述しだした待ち人は、早くも感極まってしまったらしい。

 俺へ駆け寄って手を取らんばかりな勢いだし、軽く涙ぐんでもいる。

 ……正直、勘弁してほしい。もう、この時点でお腹一杯だ。

「待った! 話は聞く。依頼を受けると確約はできないけれど……とにかく話を聞くのは承諾している。だけど、あんたと話をしているところを見られたくない。あー……適度に距離を取って……お互いに知り合いでも何でもない体で。これを受け入れられないのなら、残念だが話はこれで終わりだ」

 強いて作った真面目な口調での指示に、待ち人は真剣な様子で頷く。

 もしかしたら「三遍回ってワンと鳴け」といっても、素直に従ったかもしれない。

 ……ということは冗談や遊びでなく、こいつは本気らしかった。……さらに頭が痛くなってくる。

「そいつは……あー……俺の連れで、ボディガードみたいなもんだ。最近、色々と物騒だし。こうみえて口は堅い奴だから、安心してほしい」

 一応は紹介しておくと、曖昧な感じにリルフィーも会釈を返す。俺とは違って気楽なのもあるだろうが、さすがに慣れたものだ。

「了解だ。全て君の流儀に従おう。……こんな感じでいいか? えっと……自己紹介から始めれば?」

 飲み込みは良い方なのか、いわれるがまま大人しく距離を開け、横顔を見せるような角度で腰を下ろす。

 ……まあ、その程度の機転は利かせられるはずだ。

 この待ち人は――今回の依頼人は、()()()()()()()()タイプと聞いている。

 でなければほんの数日で通り名を獲得する訳が――『讃美歌十三番の男』なんてあだ名を献上される訳がなかった。

 ましてや俺と――ネカマ一級鑑定士としての俺とコンタクトを取れるはずもない。


 そもそも接触方法なんて用意していなかった。

 なので俺と――『ネカマ鑑定士・タケル』と話はできない。

 さらに『RSS騎士団』にいた頃はイケイケのタケル少佐として。いまは多少は影響力を持ったギルド『ラフュージュ』のマスターとして活動をしている。

 このゲームを始めてからずっと、決して話し掛けやすい人物像ではないだろう。

 その上、最近までは護衛役としてハイセンツが付き従っていてくれて、いまはリルフィーが後任を受け持っていてくれる。俺と密談をしたり、その約束を取り付けるのは容易なことではない。

 ……時々、単独行動をしていたのがバレて、カイやアリサに叱られているが……とにかく、基本的にはそうだ。

 また『ネカマ鑑定士・タケル』へのアポイントメントは、秘密裏に取り付ける必要があった。

 なぜなら自分が誰かにネカマ疑惑を持っているだとか、俺へ――『ネカマ鑑定士・タケル』へ依頼したことなどが知れ渡ると、その意味を失ってしまうからだ。

 ターゲットに疑っていると知られても構わないのであれば、わざわざ『ネカマ鑑定士・タケル』になど頼らなくてもよかった。

 ……誰にも知られず、その後ろ暗い疑念を払拭してほしい。

 『ネカマ鑑定士・タケル』への依頼には、常にそんな屈折した思いが付きまとっている。


 だが目の前の依頼人――キャラクターネームを『ゆうた』と名乗る、いまや『讃美歌十三番の男』と異名を持つ男は違った。

 なんとこいつは、先生方が経営されている『アキバ堂』の近くで『讃美歌十三番』を歌ったのだ!

 念のためにいっておくと、この『讃美歌十三番』だけれど……誰も知らない曲だったりする。

 いや、もちろん()()()讃美歌十三番という楽曲は存在する……らしい。

 だが、真面目にそれを歌い上げたところで話題にもならなかったはずだ。また本人や詳しい者以外には、何の曲なのかも解らなかったと思う。

 そこでなのか、何をどう閃いたのか……『讃美歌十三番の男』は、珍妙な手を考えついた。

 即興のような自作の詞を付けた『讃美歌十三番』を熱唱したのだ!

「じゅーさんばん! じゅーさんばん! 讃美歌じゅーさんばんったら、じゅーさんばん!」

 そんな連呼だったらしい。

 ……「権利者団体(怖い人達)に知られても、ママ安心」とでもいいたいのか? まるで洗脳ソングだ!

 目撃してしまった先生によれば、『春先に「新入社員への訓練」と称して駅前で歌わせる』みたいな痛々しい雰囲気というか……常軌を逸した何かを感じずにはいられなかったらしい。

 ……脳のネジが何本か抜け落ちてやしないか、検査の必要があるだろう。

 それでも心配のあまりに声をお掛けになった先生を通じ、まんまと『ネカマ鑑定士・タケル』とのアポイントメントを取り付けたのだから……この『讃美歌十三番の男』は、それなりにキレ者と判断できる。

 また『ゆうた』というキャラクターネームにも覚えがあった。

 我らがサブギルドマスターにして、君臨する女教皇、ネリウム猊下への贈賄リストに名前を連ねていたはずだ。

 つまり、自らを道化にすることも辞さず、贈賄などのダーティな手段すら躊躇わない……おそらくはキレ者。


 ………………め、面倒くさい! もう死ぬほど面倒な予感しかしない!


 普段なら怒鳴りつけてでも追い払うところだが……しかし、今回に限っては断ることはできなかった。

 先生方から――

「タケルも色々と主義主張があるんだろうけど……とりあえず面倒見てやれよ? なんだか可哀そうなくらい真剣みたいだぞ? ……歌はへんだったけど」

 と頼まれてしまっている!

 これは俺と先生方の関係を見抜いた『讃美歌十三番の男』を褒めるべきか、それとも先生方が情に絆されやすいというべきか。


 ……おそらく両方だ。賭けてもよい。


 相手は狡猾レベルに知恵が回るらしいし……おそらく依頼内容は、先生方にとって唯一の弱点といえるジャンルだ。

「まあ……とりあえずは用件を聞こうか」

 ……これだけで飛び上がらんばかりに喜んでいる。

 やはり、これ以上になく本気らしいし、本物の厄介ごとで決まりだ。

「も、もちろん! もちろん、その筋では名の知れた『ネカマ鑑定士・タケル』を呼び出したんだ! 話は鑑定の依頼に決まっている! 実は……実は一人、あんたのその名高い鑑定能力で調べて貰いたい人物がいるんだ!」

 ……愚問だったらしい。

 一縷の望みを賭けて訊いてはみたものの、全く予想通りな答えが返ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ