凡そ人らしい手順を選ぶ――2
さらに大きな問題も残っていた。
未だ相手を見つけれていない。見当すらついてない有様だ。
何を考えていようと、全ては相手を特定しないと始まらない。
しかし、『RSS騎士団』にいた頃から総力を挙げて捜索しているのに、その尻尾すら掴めてなかった。
……どこに隠れている?
狙いの三人組の内、主犯格らしき甲冑野郎はともかく……手下らしき二人は、似顔絵まであるのに!
これは途中で『RSS騎士団』をBANになったり、ドラゴン討伐なんて寄り道をしたのもあるが……ようするに人海戦術では駄目ということか?
砦の街、第二の町、ドワーフの街、エルフの街と……システム的な安全地帯だけでも、それなりの数がある。
隠れた人間を探し出すには、広すぎる?
いや、逆に……数えられるほどしかないのに、なぜか見つからないと考えるべきか?
それとも……どうやってか人海戦術をすり抜ける方法がある?
もう人海戦術以外の方法論を、視野に入れるべきだろう。
しかし、自慢じゃないけれど、俺にその手の才能はない。悲しいほどになかった。
もし資質があれば「あれれー? おかしいぞぅ?」などと煽ったり、「爺ちゃんにナニかけた」と特殊性癖をカミングアウトしたりと……何かしらの方法で特定できたと思う。
まあ要するに――
頼みの人海戦術が通じず、かといって特殊な才能にも恵まれてない!
訳だが、そんなのは俺にとって、日常にすぎなかった。
もう中学二年生じゃない。ある程度は自分というものも理解し始めている。これが諦める理由とはならない。
また才能が必要であるなら、持つ者から借りればよいだけだ。
幸運なことに俺にはダース単位で賢者が――先生方がついている。
カイやリリー、ついでにいうのならジン、さらに未知数だがハチの野郎も当てにできるだろう。
……リリーに頼るのだけは、少し考えてしまうけれど。
陰険の権化のような性格でも女だし、「犯人を指差すだけでよい」と頼んだとしても……あれだけ賢ければ、その結果も察してしまうだろう。
さらに先生方も、なぜか常識を頑なに固持されることがある。
……まあ悪ガキに毛の生えた程度の俺には、どうしても教育的立場でお考えになられるのかもしれない。
やはり相談するとしたら、もう引き返せないほどに物事を進めてから――全ての必要な情報を集め終えてからだろう。
……そう全ての必要な情報は、まだ揃っていない。
これは簡単に証明できる。なぜなら――
ほぼ俺と同じ情報を得ているカイが、いまだ正解へ辿り着けてないからだ。
つまり、賢かったり才能があったとしても、まだ誰にも探し出せない。
何がなのかは解らないけれど……足りないのだろう。真実へ至るだけの情報が。
そして『解らないこと』を一つひとつ明らかにしていくだけなら、俺にもできる。
小さなことをコツコツと積み上げ続ければ、いつかは届くはずだ。
いや、べつに俺自身が、でなくとも構わない。……欲しいのは手柄ではなく、結果だ。
ようするに俺の選択は、最も面白みのない『凡人であろうと、可能な手段を選ぶ』といったところか?
だが、この地道で華麗さの欠片もない方法だけが、俺を目的地へと導いてくれる気がする。
……などということを、昨夜一晩かけて考えた。
その後、明け方になるまで『解らないこと』をリストにし、一つひとつをどうするべきか――誰へ質問しにいくかも決めておく。
しかし、これを聞いて万が一にでも「さすタケ、さすタケ、抜かりがないぜ!」などと勘違いをしないで欲しい。
この結論に達するだけでも、徹夜だった訳だし……その上、栄えあるリストの最初、まず話を聞きにいくべきと思った人物は――
なんとデックさんだった。
『RSS騎士団』にいる頃から俺達の装備制作を担当してくれて、ありがたいことにギルド『ラフュージュ』にも創設から帯同、いまだ装備の調整や新調を請け負ってくれている……あのデックさんだ。
いや、お前……毎日デックさんと同じテーブルでメシ食ってる仲間だよな?
そう仰る方もおられるかもしれない。
もう自明なことにも思えるが、敢えて答えておこう。
仰る通りだ!
情報部として『アキバ堂』二階の『詰め所』に居たころから、俺達は大きな円卓に全員揃って食事をしていた。
まあ、その頃のデックさんとヴァルさんは、『RSS騎士団』のギルドホールで生活していたし……ヴァルさんも行方不明となってなかったけれども。
だが、『ラフュージュ』として合流した後は、毎日のように顔を合わせている。
そして円卓で食事する習慣も、場所はギルドホールの目の前へ移したが、変えてはいない。
もちろんデックさんと話だってしている。ギルド的な用事で話すこともあったし、普通に雑談をすることもあった。
おい、マジかよ? それなのに大事な質問が、まだだったのか?
そう問われる方もおられるはずだ。
察しの良い方なら、すでにご理解のことに思えるが……それでも口に出して答えよう。
………………まだでした。
ずっと前――この不具合の起こる前、先生に叱られた記憶が蘇ってくる。
「坊主……お前は才能がないとか拗ねる前に、やれることをやってから嘆く習慣をつけろ!」
……これで何度も怒られた。
どうやら俺は、全く成長していないらしい。
そんな内心では赤面ものな気分で、ギルドホール内にあるデックさんの工房へ向かうと……意外な人物達に出迎えられた。
まあ、部屋の主であるデックさんは、おかしくともなんともない。
なんといっても自分の部屋なんだから、そこに居るのは当たり前の話だ。……苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、措いておくとしても。
そしてカガチも……いまや同じギルドのメンバーなんだから、ギルドお抱えな武具職人の工房を訪れていても不思議ではない。
だが、どうして『RSS騎士団』第一小隊副隊長であるルキフェルが?
さらに、なぜカガチとルキフェルの二人が、デックさんの工房でチェスに興じている?
また、それをアリサにネリウム、リルフィーの三人が観戦しているのは、どうしたことだ?




