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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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ドラゴン討伐――19

 一瞬遅れて、魔法の光と矢が降り注ぐ。

 ……まるで土砂降りのようだ。浴びれば死をもたらす危険な雨の、ではあるが。

 生き残った前衛も、慌ててドラゴンから離れている。

 あれだけ練習したのだから、誤射はないと思うけれど……まあ、気持ちは解らないでもない。

 それなりに離れている俺ですら、怯むほどの大攻勢だ。


 ただ、俺達前衛で積み上げてきたのとは、真逆の思想だったりする。

 前衛の作戦では相手の自然回復を考慮し、どれだけ上回れるかに腐心した。

 例えば総HPを一万点、自然回復が十秒毎に千点の仮定であれば――十秒毎に千点を、どれだけ上回ったかだ。

 言い換えると――

「相手の自然回復を上回り、その掛かる時間が現実的であれば、俺達の勝ち」

 という考え方になる。

 対するに、この一斉射撃は逆というか……全く違うアプローチをしている。簡単にいえば――

「相手を倒すのに、最小でどれだけのダメージが必要なのか?」

 を基点としていた。『即死狙い』といっても語弊はない。

 ちなみに先程の仮定であれば、最小で必要なのは一万点のダメージが必要だ。

 ……よく勘違いする者がいるが、一万一千点ではない。最初に自然回復されるまでに――十秒未満で一万点叩き込めば、一万点のダメージで足りる。

 そして自然回復されたとしても――

 二十秒未満に集中して叩き込めば、必要なのは一万一千点。同じく三十秒未満なら、一万二千点。四十秒なら一万三千点と……徐々に難易度は下がっていく。

 おそらく実現させる難しさの関係で六十秒で一万五千点のダメージ、これが最小ダメージ狙いの限界だろうか?

 これなら十秒辺りに直せば、二千五百点程度で届く計算となる。


 しかし、その十秒毎に二千五百点のダメージペースですら、俺達には用意できなかった。

 まず基礎的な力量が足りない。魔法や武器も適切なものを用意しきれず、有り合わせで挑んでいる。後衛一人ひとりの平均ダメージは、おそらく一桁が良いところだろう。

 だが例え一桁であろうと、それを数百人で行えば四桁に届く!

 ……といいたくとも、回転速度や持続力にも難があった。

 悲しいことに十秒間に平均二回の攻撃がギリギリ。それさえも後先を考えない全力が必要な上……頑張ったところで三十秒も続けられない。

 これが俺達の用意できる精一杯であり――


 つまるところ、この『即死狙い』では倒せそうになかった。

 かといって前衛に粘らせる方法でも、やはり倒せそうもない。


 そこで伝統に則って、両採用――異なる二つの戦術思想で挟み撃ちを狙った。


 相手のHPが一万点では、『即死狙い』が成立しそうもない。

 ならば……相手のHPが九千点だったら?

 いや、九千点でも無理なら……八千点なら?

 ハードルを下げていけば、どこかで必ず実現可能な数値になる。


 前衛で削りきる作戦では、相手より先の息切れが想定できた。

 では……相手のHPを残り五千点に削るまでなら?

 もう少し頑張って残り四千点では? いや、まだまだ削れる?

 ギリギリ限界な到達点まで考えれば、『即死狙い』が可能な数値にも届く。


 前衛で相手の注意を惹きつつ、HPを削り――

 後衛が全力を注いだ火力で息の根を止める。


 前衛だけでなく、後衛だけでもなく……俺達全員でドラゴンを倒す。

 これが作戦の全てだ。


 まあ今回は大規模なだけで、MMOでは伝統的戦術とすらいえた。

 ……実際のところ、成立しているだけで驚く規模ではあるれど。

 この狭い広場に、実は後衛数百人が布陣する場所などない。俺達前衛とドラゴンが戦ってるだけで、満員となってしまう。

 だから普通は、この広場を戦場になんて定めない。そのメリットがないからだ。

 やはり俺が最初に考えていたように、この広場を後衛の布陣場所とし、前衛は洞窟内で戦うのがベターだろう。

 しかし、先生方の発想は違った。

 一語一句違えずに繰り返せば――

「後衛の布陣場所がないのなら、作れば良いじゃない」

 と仰ったのだ!

 そして実際に布陣場所を、お作りに――いや、建築された!

 事実、このすり鉢状な広場の岩壁には、螺旋状のスロープが設置されている! 当然に先生方の謹製で!

 例えるのなら、闘技場が一番に近いだろうか?

 俺達前衛とドラゴンが戦っているのを見物するかのように、まるで観客席よろしく後衛の布陣場所が何段も設営されている。

 それは所々に梯子が使ってあったり、場所によっては広くなってたりと、色々な工夫が凝らされていた。さすがに少し窮屈ではあるけれど、作戦遂行には十分すぎるほどだ。

「VRでの建築なんて、ほとんどプラモだよ。大きなだけで」

 などと先生方は仰っていたが……この発想のスケールには帽子を脱ぐ他ない。

 我らがお馬鹿さん達(調査班&攻略班)も攻城兵器を発案したり、夜営や夜戦装備の制作に執心してはいたけれど……さすがに狩場の大改造なんて、発想すらできてなかった。

 ……触発されたのか「その手があったか! 今度は携帯型の簡易トーチカを作ろう!」などと言い出してて、早くも頭痛の種ではあるけれど。

 結局、MMOにおける戦闘の真髄が『()()()戦うかにある』のなら……()()MMOでは『戦場を()()()作り変えるか』まで含まれるのだろう。

 通常なら無理――人手が足りなかったり、何を作っても定期メンテで削除される――なので盲点だったが……この糞ったれな不具合を逆手に取ることぐらい、思いついて然るべきだった。

 またゲームデザイナーも、こんな手で討伐隊を組むとは考えなかったはずだ。明らかに想定以上の力で――数の暴力で挑めている。


 だが、なのにドラゴンは、倒れなかった!

 事前の予想の内、最も上手くいくケースでは、最初の一斉射撃で終わっている。

 それは前衛が粘りすぎたというか、頑張りすぎたというか――俺の決断が遅れた証拠にもなるのだが……それでもケリが着くなら万々歳だ。

 しかし、ドラゴンはゆっくりと――さすがに雨霰のように降り注ぐ射撃に阻害されながらも、再び前衛への攻撃を再開する!

 ……総攻撃のタイミングが早かった?

 カガチの『大声』によるカウント――総攻撃を開始してからの経過秒数を聞きながら、心臓を掴まれたかのような戦慄に襲われる。

 ……いや、まただ! 悲観するのは、まだ早い!

 本命は二回転目が終わる頃合――総攻撃を開始して十秒後だ!

 その時点でドラゴンが倒れていればいい!

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