日常――2
「ところで……これからどこいくんです?」
リルフィーの奴は今日も通常営業だった。
「なんで今更その質問なんだよ! 集合かかった時に疑問に思え!」
「え、そうなの? ボクも……とりあえず呼ばれたから来ちゃったんだ……」
カエデは相変わらず可愛いかった。
「……とりあえず、リルフィーは少しは考えて行動しろ! カエデはそのままでいいんだぞ? 仲間からの緊急招集を最優先するのは、MMOプレイヤーとして当然だからな」
「同じことをしたのに……」
「まあ、リーk……ルフィーさん、細かいことは気にしないのが……。しかし、私も本日の目的は聞いてませんね」
「リー……く? ……リーくん? ……いいな。私だったら……ターくん? ターさん?」
アリサが変なことを言い出しているのが気になるが……相変わらず自由だな、みんな!
「今日は『ドワーフの街』まで行こうと考えている。とりあえず、あちこちのテレポーターを開けて回らんと不便で仕方がない」
俺の宣言は、全員の拍手と歓声で応えられた。しかし――
「って……この人数とレベルで行けますかね?」
「みんなはけっこうレベル上がったの? ボクなんてまだ一レベルだよ?」
すぐに疑問も提示される。
「ギリギリだがいけると思う。何より、いま、『砦の街』と『ドワーフの街』の道中は人通りが激しい。とにかく『ドワーフクエスト』さえ開始しちまえば、当面の予定は立つからな。考えることはみんな同じだ」
「それでもギリギリ厳しくはないですか? ヘルプ頼りは不粋かと……」
ネリウムが言うヘルプとは、文字通りの救援要請のことだ。
他のプレイヤーにモンスター処理を助けてもらう方法で、一般的に受け入れられている。場合にもよるが、見栄を張ってヘルプも掛けないような奴は逆に迷惑だ。
視界内で他のパーティが壊滅したら、そのモンスターは確実に自分達に襲い掛かる。そんなモンスターをなすり付けられる結果になるなら、余力のあるうちにヘルプを求めて貰ったほうが対処しやすい。
「大丈夫! 秘密兵器を用意した」
そう言いながら取り出して全員に見せ付ける。
「『鋼』グレードの『ノーマルソード』ですか?」
「ただの『ノーマルソード』じゃないぞ、これは『コボルト・スレイ』の『タレント』を入れてある。つまり『コボルト・スレイヤー』だな!」
全員が歓声と拍手で応えた。なぜかアリサだけが不思議そうに首を捻っている。
「おー! ってそれ、凄いの?」
「条件限定で強いんじゃないですかね。でも、確一殺は……無理かな?」
「他の強化がまだだから、確一殺は無理だな。エンチャントを貰って、確二殺じゃねぇかな? アリサ、どうしたんだ? 不思議そうな顔をして?」
「その『タレント』はβであのおんn……『不落の砦』に出し抜かれたはずでは?」
「ふふ……いつまでもやられっぱなしの俺じゃないぜ? 色々あって……向こうに頭を下げさせて、貰ってやったんだ!」
多少、脚色してあるが、大筋では間違っていない説明だ。……この解釈でなんら恥じることはない! だが――
「あの女……回りくどいアピールを……」
なぜか怖い顔をしたアリサは、ブツブツと何か言い出し始めた。
……時々、アリサはこんな風に怖い顔になって、自分の世界に入ってしまう。何か悩みでもあるのだろうか?
「凄いね……これはタケルの……『番長連合』のアイテムなの?」
カエデにかかると『RSS騎士団』も『番長連合』呼ばわりだ。
不良で乱暴者だけど、たまに良いこともする。そんな判断で『番長連合』と思っているのだろうが……凄いセンスだ。可愛い!
「番ちょ……とりあえず、今日の予定をカイに話したら、貸し出してくれたんだ」
「……カイさんですか」
カイの名前でネリウムが渋い顔をした。
これには訳がある。
なぜなのか全く解からないのだが……カイはリルフィーに甘い。そもそも、カイの『あっちの趣味』疑惑の発端はそれだ。
真剣な顔でネリウムに「あの方は……その……男色とか……そっちの方ではございませんよね?」と聞かれたことがあるが……ちょっと笑いにくい。
「……で、『ゴブリン・スレイヤー』はリルフィーが使え。ついでに盾も貸してやる。カエデは俺の『ダガー』な」
「あ、いま腰にぶら下げているの、ダミーじゃないんですね。……そうだ! 俺らにも武器くださいよ!」
ダミーをぶら下げてたのは伊達や酔狂ではないし、それを吹聴されたら困る。が、それよりも言いたいことがある。
「なんで俺がお前に武器をやらなきゃいけないんだよ! 欲しかったら金を払え! あっ……カエデは良いんだぞ? カエデ一人分の装備くらい、なんとでも……。まあ、気になるならローンだ。ローンを組んでやる。先に武器と防具があれば稼ぎも変わるからな」
「ひ、贔屓だ!」
「うっさい、はげろ!」
「さ、さすがにそう言うのは良くないよ。ローンは……か、考えちゃうけど」
複雑な表情のカエデだが、手段は目的によって肯定される。こうやって外堀から地道に埋めていくことが、明日の勝利に繋がるのだ!
「……タケルさんに頼まなくたって……カイさんに頼めば段取りしてくれるはずです!」
リルフィーはリルフィーで自信満々でそんなことを言い出す。最近、余計な知恵がついてきたな。
「大丈夫なのでしょうね? 大丈夫なのですよね?」
ネリウムが心配そうに喚くが……俺に言っても仕方がないだろう!
「で、アリサとネリウムさんには『中級MP回復薬』をいくつか持ってきた。面倒臭いだろうが、コスト効率良いからな。さらに前衛の俺達も保険で『中級回復薬』を――あれ? 忘れてきちまったか?」
「はい、タケルさん」
メニューウィンドウを探す俺に、アリサが『中級回復薬』を差し出してきた。やっと自分の世界から戻ってきてくれたらしい。
なぜか解からないのだが……俺に『回復薬』系統を渡すとき、いつも嬉しそうにする。その時の顔は密かに気に入っているから良いんだけど……なんでだろう?
「あれっすよね……『酒もってこーい!』っていつも聞こえるんですよね」
「私には『貴方……お酒は控えるってあれほど約束したのに……』と」
「酒浸りになる旦那と、その酒を買ってくる嫁……悪いのはどっちなんですかねぇ」
「どちらが悪くても……二人は幸せなのかもしれません」
リルフィーとネリウムが変なコントを始めやがった。
「俺は『回復薬』中毒じゃねぇ! そんなこと言ったら、リルフィーだって似たようなもんだろうが!」
「俺は違います! 俺はネリー……ウムさんが回復してくれます!」
はいはい、ごちそうさまだ。リルフィーには一度、俺が『RSS騎士団』の一員なのを解らせた方が良いかもしれない。それにアリサも――
「私もこの機に『僧侶』に転身しておいた方が――」
などと、もう一度、自分の世界に入り始める。
このままでは、いつまで経っても埒があかない!
「とにかく! 今日は『ドワーフの街』へ行くぞ!」
「おー!」
それには異存がなかったのか、全員が賛成の意を唱和した。
やっと決定だ。目的地を決めるだけで大騒ぎになってしまう。……まあ、いつものことか。




