表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

300/511

対面――4

「俺は何もルール違反をしていない!」

 挑むようにコルヴスは言い放った。

 その視線に込められた力から本気と伺える。人によっては不遜と捉えるかもしれない。

 ……不可解だ。

 確かに想定外な口火の切られ方で、思ったように話は進まなかった。それは完全に俺のミスでもあるだろう。

 しかし、それを考慮したとしても、コルヴスの態度は腑に落ちない。

 そもそも犯人との――コルヴスとの対決は不可避にしか思えなかった。

 俺の方でも脳内でシミュレートというか……色々な展開を想像している。

 しかし、立場を置き換えて考えると、泣き喚きながらの命乞いしか残されてなかった。

 決して短くない思考の筋道を、余人に説明するのは難しいが……この結論で間違いない。

 ……何かを見落としてる?

 それとも劇的な勝利を、都合よく夢想していた?

 何かがズレはじめているような、奇妙な違和感も覚える。

「わ、悪くないだと? き、貴様っ! 謝れっ! アレックス隊長に謝れ! それとボブに! チャーリーにも! 俺達みんなにもだ!」

 熱くなっていた『RSS騎士団』メンバーが叫ぶ。

 そのまま掴みかかろうとしたのを、同僚によって抑えられる。

 ……気持ちは痛いほど解った。

 俺はいつのまにか出来事に慣れていたのか?

「おい……取り消すのなら今のうちだ。それと必ずお前には償わせる。必ずだ」

 脳内で鳴り響く警鐘を意識しつつも、コルヴスに叩きつける。

 ……まずい。この結末は良くなかったはずだ。確か――

「はっ? 償わせるだぁ? これだから騎士団ゴッコに夢中な厨房は。いいか? 何をしようが、何を言おうが……ルールを守っている限り、それは許されるんだよ、この糞餓鬼どもがっ!」

 しかし、予見していた何かを思い出す前に、暴言でもって応じられる。

 そして煮え湯を飲まされる気分ではあるが、「ルールを守っている限り許される」とは事実でしかない。

 これはMMOで、いやネットゲーム全般で……それどころかネット上の全てで通じる。それが万人から『やってはならない』と判断されるようなことでもだ。

「……少佐。俺が囮をやります。ですから……こいつだけは……こいつだけは必ず――」

 そう言いながら『RSS騎士団』メンバーが剣を抜こうとする。

 ……熱くなり過ぎだ。

 もう怒り狂っているというより、奇妙な落ち着きすら感じさせて……完全に怒り心頭なのがよく判る。


 いまメンバーが口にした「囮をやる」とは、街中でPKを狙う方法の一つだ。

 この場でコルヴスに囮役が斬りかかったと仮定しよう。

 そんなことをすれば当然に、近くの衛兵全てが囮役へ目掛けて殺到してくる。

 無事に街の外まで逃げ延びられるかは、本人の技量次第となるが……まあ囮役は必死に近い。

 その囮役が必死の最中……別の誰かがPKを試みた場合はどうなるのか?

 システムごとに色々ではあるが、このゲームでは一時的な無法状態と化す。

 次の衛兵のターゲットに予約されるし、囮役が死ぬか街の外へ逃げ出すまでの僅かな時間だけとなるが……システムから邪魔をされないでPKが可能となる。

 実際にβの時に敢行したし、それでPK役だった俺の悪名も轟いた。

 だが、街中でのPKが可能といっても、囮役の負担は半端じゃない。

 あの時はリルフィーとシドウさんがペアで、それもサポートを何名もつけて、やっと数分の無法状態を作り出した。

 それに囮役だった二人はもちろん、PK役だった俺も衛兵からの手配(ペナルティ)解消の為に殺されている。

 誰かを街中で、それも数回連続でPK可能とはいえ……こちらも()()数人の犠牲では、基本的に採算は取れない。損得勘定抜きの時しか使えなかった。

 ましてや今は不具合の真っ最中だ。失うものは経験点などではなく、命になってしまう。


「おい、剣なんか抜くんじゃない。そんな方法で上手くいくわけないだろ」

 そう窘めながら、慌てて柄頭を抑える。

 ……すぐにシステムからの警告されなかったから、力は抜いてくれたらしい。

 多少は冷静さが残っている証拠なのか、俺を信用してくれてる結果なのか……とにかく誰かが爆発する前に、事を納めた方が良さそうだった。しかし――

「おっ? なんだ? お偉い騎士様は、口で負けたら剣を抜くのか? すげえな! 俺だったら恥ずかしくて死んじまうぜ。でも、もう俺は街から出ない。だからお前らは、俺に指一本として触れる事はできないのさ!」

 どこまで事情を理解しているのか、嵩にかかってコルヴスは煽る。

 そして、その場は奇妙な沈黙に包まれた。

 俺達が歯を食いしばって耐えていたのもあるが……周りのプレイヤー達からの無念も感じられる。

 贔屓目に見なくとも、俺達の方に共感を持ってるはずだ。

 多少、日頃の行いに問題はあったとしても、ギルドの仲間を殺されている。俺達の怒りに疑問を持つ奴はいない。

 だが、事実として報復すら難しかった。

 最大手ギルドの一つである『RSS騎士団』ですら、仲間を無残に殺され、ギルド総動員で犯人を捜した挙句に――

 結果として相手から暴言を吐かれたい放題だ。

 つまりは奴の言うことは正しく……何をしようと「ルールを守っている限り許される」し、「指一本として触れる事はできない」のか?

 そんな嘆きすら聞こえてきそうだ。


 これは俺達が――MMOプレイヤーが、諦めとともに受け入れざるを得ない問題だった。

 それこそVR技術が導入前なMMOの時代から……いや時代を問わず、全てのネットゲームが持つ構造欠陥ともいえる。

 先にやった者が、あるいは言った者が――突き詰めれば他人を不愉快にしても気にもしない者が、ただ一方的に勝つ仕組み。

 勝ち負けだけで物事を見れば――

「画面の向こうに人なんていないし、アバターの中にだって誰もいない」

 と考える奴の方が強い。

 ノーマナーでノールールに――ひたすら我侭に振舞えるからだ。

 これは大袈裟でもなんでもない。

 どんなに不愉快で屈辱的なことをされようと、相手がルールを盾に身を守れば何一つとしてやり返せなかった。

 できたところで、相手の言葉尻を捉えての裁判沙汰が関の山か。

 それも珍しい事ではなく、万が一に備えて各種メッセージが別サーバーに保管されてるほどだ。


 沈黙の中、ゆっくりと指を伸ばしコルヴスの額を突く。

 何をされるのか理解できなかったらしく、俺が手を伸ばす間、呆然とした顔をしていた。

 ……ようやく一つやり返せるか?

「お前は間違ってる。ほら……指一本だが、触れてみたぞ? 特にペナルティもないな? 次は何をして欲しい? なんならリクエストに応えても良いぜ?」

 我ながら意地の悪い顔をしていたと思う。

 馬鹿にされたと思ったのか、コルヴスは顔を真っ赤にした。

「……厨房どもには付き合っちゃいられんねえ。まあ騎士団ゴッコを頑張ってくれや。俺は忙しいから、もう行くぜ。――発動『帰還石』」

 そう言い捨て、懐から取り出した『帰還石』を顔の高さでかざす。

 当然、キーワードに反応してコルヴスの身体か光に包まれて飛んでいった。

 街中で使おうとも『帰還石』は、使用者を手近な街のリスタート地点へ……つまりは同じ街へ移動させる。

 あまり使う方法じゃないが、取り囲むような俺達や野次馬を無視できる分だけ便利か?

 自分の言いたいことだけ言って、相手との会話は徹底的に避け、最後には逃げる。

 ……不愉快極まりないが、手軽に勝つには最適な方法だ。

 そんな事を考えている俺を他所に、周りでは深い溜息が漏らされる。

「結局、『RSS騎士団』であろうと、やった者勝ちは対処できない」

 そんな落胆だと思う。

 認めてしまえば明日は我が身であり、この世界は無法状態へ舵を切ることとなる。

 ……殺すのを躊躇わない奴が強い世界だ。

 そんな重い空気を打ち破るように、声を張って宣言する。

「よし、それじゃ奴を『確保』しよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ