混迷――2
なんとか対応できたのは、その程度だった。
そして対処しきれなかった色々なことは、予想通りに悪化の一途をたどっている。
ここへ来る道中にしても、最悪の光景と言わざるを得ない。
街中のそこらかしこで団員達が、聞き込みをしていただけではある。
だが、殺気だって血に飢え、それこそ目に付いたら片っ端にで……どうしても高圧的になってしまう態度は、非常に剣呑な雰囲気を作り出していた。
気持ちは解らないでもない。俺だって怒りに震えている。
しかし、ここまで強硬なやり方は、明らかにマイナスだ。
無関係な人々からも反感を買ってしまう。それは決して得策ではない。すでに正体不明の敵を抱えてしまっているのだから。
いや、この程度で済んで御の字なのか?
目に余って堪らず制止してみれば……それは第二小隊のメンバーだった。そんな吃驚するようなことすら起きている。
ハンバルテウスを筆頭にイケイケだった第一小隊ではない。普段は礼儀正しい第二小隊のメンバーまでも荒々しくなっていたのだ。
……情報部の奴らにしても、俺に遠慮してるだけか。
結局のところ、誰も彼もが煮えたぎってしまっていた。いつ爆発してもおかしくないぐらいに。
これは俺の――俺とヤマモトさんの責任でもある。
共謀で『捜査は情報部の管轄』にしようとして……失敗していた。
この見込みの薄い調査は、冷静に落ち着いて取り組む必要がある。いまのように総動員で――人海戦術でやっても、大して捗りやしない。
情報部のメンバーも憤ってはいるが、まだコントロールできる余地は残っている。
……最悪の手段として、『鋭意調査中』とお茶を濁すことすら可能だ。
やはり情報が少なすぎた。
犯人は三人前後。一人は大きな鎧。もう一人がレザー系。所属ギルドはもちろん、個人名すら不明。
これだけの情報で探し出すのは、至難の業だ。不可能にすら思える。
また、現時点で判明している謎も多い。
なぜ団長は――ジェネラルは危険な戦争用の区画内へ?
そしてジェネラルほどの使い手を、どうやって三名程度の少人数で?
はっきりいってジェネラルは、俺よりも強い。少なくとも一枚は上手だ。
確かにゲームシステムを活用する知識やテクニックには明るくない。
しかし、戦うためのコツを体得しているような――生き抜く力に秀でているようなところがあった。
もしくは生命力が溢れすぎというべきか……死んだなんて、いまだに信じ難いぐらいだ。
そのジェネラルが殺られた。
苦も無く……ではないはずだ。相手も相当に奮戦しただろう。
しかし、ほんの数名を相手に、ジェネラルが逃げることすら叶わない?
俺だったらと考えてみても……一対三までなら、ぎりぎり対処可能に思える。
何も返り討ちにする必要はない。ただ逃げてしまえば良いだけだ。
……となれば敵側に手練のいた可能性がある。そうでなければ平仄が合わない。
少なくとも俺より強いのは確定で……場合によってはサトウさんやシドウさん、リルフィーあたりと同レベルと想定するべきだった。
しかし、それでは危険すぎる。無策で仕掛けていいような相手じゃない。罠に掛けてでも、きっちりとハメ殺す必要がある。
……たとえ卑怯者と呼ばれようとも、犠牲をだすよりはマシなはずだ。
いや、もう一人の犠牲者も――団長を守って戦った護衛役もいたからか?
お互いを庇いながらの撤退……その不利をつかれた可能性は高い。
見捨てることなど出来やしなかっただろう。
考えただけで煮え湯を飲まされた気分になる。どうあろうと必ず仇は討つ。報いを受けさせる。
消極策ばかりで腰抜けとすら思われているが……これを有耶無耶に済ますつもりは毛頭なかった。必ずケジメはつける。
だが、いままでの失策も省みないわけにもいかない。
俺は――俺達『RSS騎士団』は、最速で教訓を与えられている。第三小隊の――アレックス達の犠牲によってだ。
不具合が発生して以来、この世界では何をするのも命懸けとなっている。
誰であろうと殺せば死ぬ。
それは仲間が永遠に失われる危険もあるということだ。
実際にアレックス達は死亡した。半ば事故のように感じられようとも、殺されたことに違いはない。
それをいまになって臍を噛むなんて……真摯に受け止めていなかった証拠だ。
この不具合が始まった時から――全体メッセージが停止した瞬間から、この世界は変質している。
それを俺は、言葉だけで理解した気になってただけじゃないのか?
結局、いまだにアレックス達の仇もとれておらず、さらに団長と護衛役の二名を失った。
……俺は本当に参謀役に――ギルドの舵取り役に相応しい人材なのか?
世界中から非難されている気にすらなる。
聞き込みに奔走する『RSS騎士団』団員達、色々と利害関係のある他のギルドの奴ら、街をいく名も知らない誰か……とにかく全ての人達からだ。
さらに誰もが怯え、惑い、恐れているようにも見える。
……自分以外のプレイヤーをだ。
『囚人のジレンマ』は信頼に足るのか?
誰かが先制攻撃を選択したら?
もしかしたら俺は、いまようやく『デスゲーム』を実感したのかもしれない。
そして渇いた笑いと共に、カガチの言葉を思い出す。
「ゲームに閉じ込められちゃって、凄く大変だよね。それはカガチも判ってるんだ。カガチは子供だから、大したことないけど……大人は凄く困ってるんでしょ? でも、それはそれとして……とりあえずゲームを楽しめば良いのに!」
約束の狩りへ連れて行ってもらえなかった腹立ちからか、道中のカガチは文句が止まなかった。
まあ実に子供な考えだ。
ゲームに閉じ込められたのなら、諦めて大人しくゲームを遊ぶ。その方が面白い。大人は――俺達は、自分から楽しさを台無しにしている。
……そんなところだろう。
しかし、そこまで無邪気になれやしない。単純にゲームとしても考えても、現状は危険すぎる。
だが、一理はあった。
俺達のように殺すの殺さないのとしているより、ずっと建設的だ。




