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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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277/511

終わり。または始まり。――2

 頭の中で考えていたのは、本日の昼食のことだったりする。

 つまり、いかにしてリリーの飯を分捕るか――どうやって久しぶりの和食にありつくかだ。

 誤解されたくはないのだが、アリサの仕度してくれる食事には何の不満もない。

 それでもたまには、他のものが食べたくなる。それだけの他愛もない話だ。

 誰だって似たようなものだろうし……これで甲斐性無しだとか、浮気性だとか詰られることもない……たぶん。

 ……後ろめたい気分になるのは何故だ?

 とにかくファイトプランも考えてある。

 人数が少なくなっているのを利用すればよかった。

 いま俺に同行しているのはカイと外交担当の団員、アリサと『HT部隊』のメンバーで総勢十名にもならない。

 そこでアリサへの日頃の感謝と労いと称し――

「今日は俺が食事を奢る! 選ぶのも任せてくれ!」

 なんて話を切り出せば、上手くいくはずだ。

 そこからの流れでリリーの食事にまで話を広げ、途中で上手いこと唆す。リリーはともかく、秋桜なら必ず引っ掛けられる。

 ……完璧だ。勝利のビジョンしか浮かび上がってこない。


 それに失敗しそうになったら、『聖喪』の姉さん方と先生方を頼ってもいい。

 ……どう考えても諸刃の刃だが、斬れ味だけは保証されている。俺も斬られるだろうが、諸々の障害物も真っ二つだ。

 最悪『僕の、私のお薦め食料品』なんてイベントに発展してしまうか?

 まあ、誰しも『食料品』には一家言あることだろうし、暇潰しとしては悪くない。

 途中経過で必ず和食が……少なくとも味噌汁ぐらいは口にできる。なによりも広い意味で情報交換にもなる。

 馬鹿騒ぎで一日を過ごしたって悪くはない。


 そんな緩みきった気分が、一瞬にして冷える光景が目に入った。

 血塗れだ。身体中から血を流していた。

 返り血ではあり得ない。すぐにそうと理解できるくらい、全身あちこちが斬り裂かれ()()()()だった。


 だが、この程度なら実は驚くにも値しない。MMOではよく目にする日常に過ぎなかった。

 例えば狩りや()()()()死亡(エンド)しそうになったとする。

 事情にもよるが、『翼の護符』を使って緊急回避も一つの解決方法だ。一瞬の内に危機を脱し、街へ帰還できるのだから。

 それを逆から――街に居る者側から見れば、突然に血塗れのプレイヤーが出現となる。

 さすがに初見は驚くだろうが、それだけだ。いずれは日常的な風景と認識するようになる。

 現状で安全マージンを取らない奴は少ないから、珍しくなりつつあるが……MMOとしては不思議ではない。


 さらに走っていた。

 これだけで幾つものことが想定できる。

 まだ()()は終結していないのだろう。

 ()()()()()()()の戦いであろうと、個人戦は珍しかった。

 それにそんな戦いなら、緊急回避で即終結だ。続きがあるとしても、それは第二ラウンドでしかない。

 しかし、集団での戦いだった場合、高確率で仲間を置き去りにしている。

 そして『翼の護符』を最大限に活用しようと思ったら、()()()()()()()使うのがベターだ。

 絶体絶命のピンチに陥ったとする。

 例えば『魔法使い』なのに敵に接近を許し、味方の前衛職も手一杯なんて状況だ。

 そんな場合、粘らず即座に『翼の護符』を使うのもセオリーとされている。

 防御力に劣る魔法使いが粘っても、決して事態は好転しない。

 そして粘っている間は、ずっと回復役のフォローが必要となる。

 さらに回復役の負担となることで、前衛職への回復も薄くなってしまう。

 まさに負のスパイラルだ。その上、遠くない将来に自分は打ち倒される。

 その打開策として『早期の緊急回避』は、重要な選択肢だった。

 しかし、正しい選択であっても、仲間を置き去りにして平気なわけがない。急いで現場へ戻り、助けに行ってしまうのは……当然の心理だろう。


 しかし、残念ながら走っても無駄だ。

 街の帰還ポイントから走って間に合うような場所に、高難易度の狩場は存在しない。

 『翼の護符』を所有できるようなプレイヤーが、絶体絶命のピンチになる。そんな厳しい狩場は、全てが街から遠くにあった。

 どんな窮地なのか予想もできないが……いまから走っても、確実に間に合う距離ではない。

 それに独りで辿り着けるわけもなかった。

 全ては終わっている……もしくはこれから終わる。どちらにせよ、もう手の平からは零れ落ちた後だ。

 それでも人は走ってしまう。

 ゲームの時ですら共感できたのに、この不具合であれば……痛いほどに共感できる。


 それに冷静に割り切やしなかった。

 目の前で走っているのは仲間で、自分達が当事者と判ったのだから!

 気付けば、いつのまにか腰を浮かしていた。構わず、そのまま椅子を蹴って駆け寄る。

「まて、何があった!」

 血塗れで走る団員を呼び止める。

 ……泣いていた。その顔面はくしゃくしゃになるほど泣き崩れている。

「だ、団長が……団長がやられて……」

「倒れるな! お願いだから倒れないでくれ! ――誰か回復魔法! ――ど、どこだ? 狩場か? 団長は狩りへ出てたのか?」

 ふらふらなのを支えるようにしながら、問い質す。

 だが、その視線は虚ろだし、嫌な予感しかしない。

 俺も現実感がどんどん薄れていく。

「街で……街で襲われて……まだ敵が……団長を助けに行かなきゃ……俺はやられそうになって……ジェネラルが先に()()って……」

 それを聞いて腰の力が抜けた。へたり込まないで済んだのは、偶然に過ぎない。

 真っ青な顔のカイが、震える手で呼子笛を取り出す。何かの合図を吹くつもりだろう。

 どうして俺は、平穏などと思ってしまったんだ?

 依然として俺達は、危機の真っ只中にあるし……何一つとして好転もしていない。

 笛の音を聞きながら――あちこちでリピートされながら広がっていく笛の音を聞きながら、そんなことをぼんやりと考えた。

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