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仙人の群れ――1

 次の目的地へ移動中に観察してみると、確かにプレイヤーの男女比率は変わっていた。

 まだ男の方が多いが、明らかにβテストの頃より女性プレイヤーが増えている。

 違和感を覚えたのも、これが原因だろう。うちは直接の影響は少ないが、監視対象のギルド――ゲームを通じて、男女交際への発展を考えている奴らだ――は活性化するか? ……色々な意味で荒れなければいいのだが。

 道中の大通りでは、気の早い者達が露天商を始めていた。

 売り物など『基本溶液』が関の山だ。

 ざっと見た感じ、投売りにはなっていない。順調に市場介入は進んでいるようだ。

 つい、『服屋』を探してしまい、さすがに苦笑いしてしまう。まだ開店しているわけがない。しばらくはお仕着せの服で我慢しなくては。

 平服状態は粗末なチェニックとズボンを選んだ。まるでその辺にいるNPCの様だが、それでもやや目立つ。当たり前か。ほとんどのプレイヤーは初期装備姿だ。

 人見知りしない奴などは、事情を聞いてきたりする。

 今日から始めたプレイヤーだろう。βプレイヤーなら見ただけで判るだろうし、要注意人物である『タケル大尉』は敬遠されている。

 だが、話しかけられても、邪険な扱いなどしない。敵と定めていない相手には、友好的に接することにしている。

 味方以外は全て敵と考えるメンバーもいるが、それは間違っていると思う。

 『RSS騎士団』の評判ははっきり言って悪い。

 完全に恨んでいる奴すらいるし、復讐のチャンスを見逃さない者も多いだろう。「『RSS騎士団』とはトレードお断り」程度の……緩やかな敵対表明をされることもある。

 だからといって、一般プレイヤーの全てが俺達の敵とは思えない。

 それどころか潜在的な……本人も気がついていないレベルでの味方は多いはずだ。それは簡単な質問をすれば判明する。


 リア充の奴ら、うざくないか?


 究極的には、これを完全否定する者だけが敵だ。

 「気持ちは解からないでもない、でも――」「だからと言って、しかし――」なんて答えるのであれば……すでに共感している証拠でしかない。なんといっても、当のリア充ですら認めることがある。

 かといって、俺達が正義である――正義を自称することはあるが、それは方便だ。自分達を悪と認定したまま動けるほど、人は強くない――とは思わないし、必要悪だとか、確信犯だとか主張するつもりもない。

 ただ、感じるがままに憤りをぶつけているだけだ。

 実に迷惑な集団だろう。まるでワガママな子供だ。そんなことは自覚している。でも、しかし――

 それのどこがいけないんだ?


 いつもの本拠地――『食料品店』前の広場――で、すぐに相手は発見できた。ただ――

「ニューフェイスちゃんは……なかなかポイントが高いでござるな!」

「さすが運営……正式サービス開始に合わせてデビューとは……侮れん」

「……ロリガーターはちと邪道ではござらんか? ロリにはハイソックスが至高!」

「それよりも……本名に『タン』付けは趣が……」

「拙者も思っておりました! 『タン』の尊称は我ら民草から献上すべきで、自称してしまうと……」

「それを踏まえての評価でございましょう。自ら名乗るだけの胆力を察するべきかと」

 などと白熱した議論をしてらっしゃる。

 おそらく、議題は『食料品店』のNPCメイド達だ。

 このメイド達は『セクロスのできるVRMMO』のマスコットキャラクターも兼ね、公式HPでも観ることができるし――

 『先生方』のアイドルでもある。

 メインとでもいうべきメイドは『MMO(もも)子』。

 なんというか……テンプレメインヒロイン臭がする感じだ。設定年齢は十七歳以外あり得ないらしい。

 サブとでもいうべき方は『MMO(もも)美』。

 こちらはお姉さんタイプなんだが……先生方の間でも「二十歳越えはあり得ないです十九歳説」、「切ない二十四歳説」、「超えちゃってるよ二十五歳説」、「大台目前だよ二十九歳説」、「大台乗っているよ、だがそれが良い三十歳説」と意見が分かれていたはずだ。

 ……会うたびに力説されれば、誰だって覚えられる。

 で、見慣れない三人目がいるわけだが、名前は『MMO(もも)タン』だった。

 なんというか……いわゆる「ちんちくりん」だ。「違法に若い感じ」とも言う。……おそらく設定年齢は十二歳。先生方ならそうする。聞くまでもない。

 そう、いま述べた設定年齢は全て、先生方が勝手に決めていることだ。

 心の目で見て、心の耳で聞けば容易いというから……それは先生方の『魔法』なんじゃないだろうか?

 『MMO(もも)子』はちょっとドジだけど真面目な頑張り屋、『MMO(もも)美』は口は悪いが実は優しいなんてのも、先生方には自明の理というから……『魔法』って凄いな!

 それよりも、だ。俺はこれから『そこ』に突撃しなきゃいけないのだが……根性が決まりそうもない。

 事情が飲み込めているβプレイヤーには単なる風景だが……新規プレイヤー達には異様な光景だろう。その反応を見るまで、俺も慣れきっていることに気がつかなかった。

 よく考えればそりゃそうだ。

 邪な目的でこのゲームを始めるプレイヤーは少なくない。少なくないが、しかし……その情熱をNPCメイドに注ぐのはどうだろう?

 いや、漫画やアニメの登場人物を贔屓するのが、理解できないとは言わない。俺だって好きなキャラクターの一人や二人はいる。

 あのNPCメイド達も、確かに出来は良い。変なところを無駄に凝る運営らしい、入魂の傑作といえる。

 しかし、結局はNPCで……それも決まった台詞を一つ二つぐらいしか喋らない。この手の愛情を注がれるには、圧倒的に物語性が足りないと思うのだが……なんの問題もないようだ。

 先生方の愛情は広すぎて、深すぎて……俺の様な若造では足元にも及べない。

 一人ひとりは良い人だし、実は含蓄に富む常識人である。話していて面白いし、可愛がられている方だとも思う。

 だが、集団になるといけない。

 この人達は色々な意味で『本気』だ。

 人を動かすには、物事を変えるには本気であたらねばならない。それを行動で教えてくれたのはこの人達だ。『先生方』の呼び名は決して悪口ではない。……心の中でしか使っていないが。

 その先生方が白熱した議論をしている。

 そして、そこを訪れなければならない。

 おそらく問われるはずだ。「お前はロリガーター派か? それともロリハイソックス派か?」と。

 どちらと答えても、怒られはしないだろう。先生方はそんな心の狭い人達ではない。

 だが、真剣に答えなければ、滅茶苦茶に怒られる。万が一にでも、「どっちでもいい」などと答えた日には……。

 心が折れてしまいそうだ。というか、すでに折れている気がする。

 ………………。

 先に用事を済ませよう。

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