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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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新しい日常――6

 その様子から先生のお話を思い起こしてしまった。

 俺の巡り会わせが悪いのか、よく『大人なのに全く譲らない人』に出くわした。MMOを――『ゲーム(遊び)』を通じてだ。

 長らく「大人だけど子供な人」と考えていたのだけれど、どうもそうではないらしい。

 まず俺みたいな学生と大人――社会人との大きな違いに、『全ての時間に値段を付けられる』が挙げられる。

 先生方が仰るには「ほとんどの職業で一時間辺りの値段を特定できる」そうだ。

 その考えに基づけば社会人は、身銭を切って『ゲーム(遊び)』をしている……らしい。

 これはオフの場合でもだ。……いや、だからこそか?

 無益で不快な時間を過ごすぐらいなら、何もしないで寝ている方がマシらしい。その分だけ身体を休めることができる。

 言われてみれば子供の相手でも……いや、むしろ子供相手だからこそ、全く妥協しない人もいた。ごく普通の落ち着いた人物なのにだ。

 ……有料でガキのお守りなんて、謂れの無い罰ゲームなのだろうか?


 しかし、それすら前提に過ぎないという。

 社会人になると色々と大変らしいけれど、その最たるは『実際に悪事を強要される』こと……なようだ。

 程度の問題もあるけれど、商売で勝つには――儲けを得るには、誰かに負けて――損をしてもらわねばならない。

 MMO(遊び)の商売でも通じるところはある。少し渇いた意見にも思えるが……納得できなくもない。

 だが、これを突き詰めれば「俺の為に、お前が死ね」と大差がなくなってしまう……そうだ。

 現実に血が流れなくとも、千人の人間を千分の一ずつ殺せば――その人生を台無しにすれば、それは人ひとりを殺すのと変わらない。そんな理屈だと思う。

 そして全ての仕事は商売だ。例外は存在しない。

 遅かれ早かれ社会人は、覚悟を完了する。

 直接的にではなくとも、どこかで間接的に。そして自覚はせずとも、無意識の内に。


 これを踏まえると、『全く譲らない大人』の印象も変わる。

 廃人の中には「MMOは遊びじゃない」と称して、ありとあらゆる方法論を肯定する奴もいるが……社会人プレイヤーにすれば苦笑いしか出ないはずだ。

 完全にノールールでシビアな競争をしたければ、実社会でやればいい。社会人プレイヤー達は経験済みだ。それに――

 貴重な時間を費やして――身銭を切って、現実と同じ妥協と我慢を?

 それは遊びと……娯楽といえるのか?

 御免被るとばかりに、行動規範を厳守するプレイヤー――それが『全く譲らない大人』の真実かもしれなかった。

 ゲームでぐらい、曲がらず正直に生きる。妥協はしない。

 ……ある意味、最も正しい『ロールプレイヤー』か。


 この説明をされた時には、解ったような解らないようなで……結局のところ理解していなかったと思う。言葉の意味を追っていただけだ。

 いまは違う。

 この先、将棋やチェスなどを遊ぶこともあるだろうけれど……以前ほど無邪気に『捨て駒』を使えるとは思えない。

 あの戦争でヤマモトさんは「必要最小限にするべきだし、使った以上は絶対に勝たなきゃ駄目」なんてアドバイスをくれたが……まだ足りないと思う。

 『捨て駒』を使う重みは、想像を超えていた。

 俺が経験したのは、たかがMMO(遊び)の小競り合いでに過ぎず、取り返しも可能な範囲なのにだ!

 経歴に謎のあり過ぎるジェネラルだが、きっと似たような経験をしている。……俺などでは比較にもならず、それこそ何度とかもしれない。

 もちろんジェネラルは、嫌だからと判断を間違えやしないと思う。そういうタイプの人じゃない。かくいう俺だって、覚悟だけはしているつもりだ。

 結局、誰かが『犠牲を決める役』にならねばならない。それから逃げるのは、仲間への裏切りだろう。

 そうだからこそ……遊びでは、理想を追い求めてしまう。妥協に意味を見い出せない。

 『全く譲らない大人』と理屈は同じだ。

 これを甘えという人もいるだろうが、俺は嫌いじゃない。

 ……「散々好き勝手にやっているじゃないか!」というツッコミは、聞き流すしかないとしてもだ。


 感慨に耽れたのも一瞬だけだった。

 のらりくらりと対戦相手の叱責をかわすジェネラルと、目が会ってしまったからだ。挨拶に行こうか悩んでいたところだったし、反射的に会釈で返す。なのに――

 犬や猫に対するかのように、しっしっと手を振られた!

 しかし、酷い対応には思えない。むしろ反応に困る。なぜなら――

 ジェネラルは照れていた!

 これをツンデレなんていうのは的外れだが、赤面する中年オヤジなんて扱いに困る!

 ……どうしよう?

 何も見なかったことにして、言われた通りに消えるか?

 ……むしろその方が、禍根を残しそうだ。

 ここは何も気がつかなかったフリをして、厚顔無恥に大騒ぎしながら挨拶へ行くか?

 ……ベストではないとしても、ベターかもしれない。

 ジェネラルなら何となく捌く気がするし、後にも引かないはずだ。問題はどう騒ぐかだが、そこはリルフィーの真似でもして――


 覚悟を決めて歩を進める寸前、サトウさんも居たのに気付く。俺に向かって、さり気無く手の平を見せるジェスチャーもしていた。……軽く苦笑いもしているが。

「ここは任せて行きなさい」

 なんてところだろうか?

 サトウさんが一緒なのは、察するべきだった。というよりジェネラルに単独行動されたら困る。

 現状が特別に危険というのもあるけれど……どこのギルドマスターだろうと、ギルドマスターという理由だけで狙われるからだ。

 有名人と絡みたがる小物の理屈だが、うちのような武闘派ギルドでは顕著ではある。

 まあ、それも平時での感覚だから、逆にいまは安心か?

 どちらにせよ護衛は付けた方が安全だし、その任もサトウさんなら信頼できる。

 そしてルキフェルが居るのも、何となく事情が読めてきた。奴もお供として――護衛として、連れてこられたんじゃないだろうか?

 第一小隊は現在、後詰の任にあるけれど……謹慎処分も同然だ。

 しかし、いつまでもそんな待遇にしておけないし、可哀想でもある。……俺だって第一小隊が憎くい訳じゃない。

 そこで何かと用事を見繕って、第一小隊の連中に息抜きをさせている。そんなところじゃないだろうか?


 サトウさんへも会釈をし、大人しく立ち去ることにする。

 俺が口を挟まない方が上手くいきそうだ。他にも居るだろう第一小隊の奴らも、居心地の悪い思いをするだろうし。

 再びバランスを崩しそうになったカガチが、何やら悪態を吐きながら抗議をしてくる。こめかみをグリグリをしてくるが、まるで痛くない。

 カガチの用件も、今日中に片を付けておきたかった。

 そもそも肩車なんていう屈辱も、見方を変えれば確保となる。逃げられない事実に気付かれる前に、連行してしまうべきだ。そう思いなおした矢先――

「アンタ、何処へ行っていたのよ!」

 目を三角にして怒り狂うタミィラスさんと遭遇した。

 ……これ俺にとばっちりこないよな?

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