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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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新しい日常――1

 もう時刻は夕方となっているはずだが、太陽は正中へ入ったばかりだろうか?

 ほぼ倍速で昼夜は変化していくから……今夜眠る頃に、ちょうどゲーム世界も夜。朝起きる頃には昼下がりと、再びすれ違っているだろう。

 この一件以来、努めて現実世界と同じサイクルで生活しているけれど、まるで慣れられそうもない。こんな風にズレを感じてばかりだ。

 何を言っているのか、理解に苦しむ?

 それは俺も同じだ。皆がこんがらがっていると思う。

 などということを考えていた俺へ、カガチが話しかけてくる。……頭上からだ。

「お兄ちゃん、あっち! あっちだってば! あっちの方、なんか面白いことしてる!」

 頭をポカポカとリズミカルに叩くオマケ付きだ。

 俺の隙をみて無理やりにおんぶ。そこから攀じ登るようにして、勝手に肩車。

 頭上からカガチの声がしたり、俺の頭が太鼓代わりにされてる経緯だ。

 ……なんだろう?

 カガチは全く俺のことを恐れてなかった。

 いや、別に怖がられたい訳じゃない。こんな子供を脅かしても、楽しくとも何ともないだろう。

 しかし、これで泣く子も黙る『RSS騎士団』のタケル少佐なのだが……その辺は全く考慮されてなかった。付け加えるに、俺の体面もだ。

「タケルさん! いま買い希望ありましたよ! 『魔』のエッセンスの! でも、少し安過ぎるかなぁ……うーん……」

 などとリルフィーは思慮深げに言うが……むしろ少しは空気を読むべきだ。

 まあ、久しぶりのレアドロップが嬉しいのだろう。

 その証拠に街へ戻ってからずっと、『魔』のエッセンスをお手玉代わりに玩んでいた。とても楽しそうにだ。

 ……真の廃人は定期的にレアドロップの禁断症状がでるという。MMOが――ネットゲーム全般が、デジタルドラッグと呼ばれる所以だ。

 しかし、リルフィーは満足しているようだが……レアドロップといっても、それほどの実入りはない。

 まず参加人数が多過ぎた。二パーティを通じてだから、総勢二十名近くでの頭割りとなる。

 これはMMOではよくある不具合というか……痛し痒しな問題点だ。

 多人数の過剰な戦力で、狩場を大回転させたとしよう。

 その速度と効率は、容易くレアドロップをもたらす。

 しかし、その人数が災いし、価値を大きく薄めてしまう。

 今回の例でいえば……いかに高額な『魔』のエッセンスであろうと、二十名で頭割りしたら大した金額にはならない。

「あのリルフィーさん……ですらから、それは私達で買い取っても……まだ予算も余裕ありますし……それよりもカガチちゃん? そろそろ降りよ? タケルさん、迷惑しているから」

 再びアリサが買い取りを名乗り出てくれる。

「うーん……でも、昨日や一昨日よりも、相場は上がっているような? 高く売れそうなら、売ってしまっても……」

 『噴水広場』からの大通りを――あちこちに立てられた商売用看板を観察しながら返事をする。

 ……少し上の空になっていたかもしれない。アリサの台詞が気になっていた。

 アリサ達の――『HT部隊』の予算を段取りしたのは俺だ。

 例の『スライムゼリー』に『スライムプリン』が財源のはずだが……そんなに儲かっていたのか?

「姐御! もう『魔』のエッセンスは要らないですよ! オーバーエンチャント祭りでもする気ですか!」

 ……さらに予想の斜め上な情報が、『HT部隊』のメンバーから提供される。

 現金だけではなく、『魔』のエッセンスなどの――レアアイテムの備蓄まであるのか? 祭りが出来るほど? 『RSS騎士団』ですら、まだ後衛の装備強化は完了していないというのに!

 どのくらい儲かったのか――もしくは現在進行中で儲かっているのか、訊ねてみたくてたまらない。

 しかし、そんなことをしたら……まるでヒモのようで――金を無心するみたいに受け取られるか?

 それどころかお裾分けか何かと称し「一緒にオーバーエンチャント祭りを楽しみましょう!」などと持ちかけられたら……俺は二秒で陥落する自信がある。

 やはり『HT部隊』の資産状況はパンドラの箱らしい。開けない方が平和が保たれそうだ。


「いつも悪いな、買取を頼んじゃって。それに今日のことも助かったぜ! アリサ達が仲裁してくれて」

 物欲を振り払うように、そして話題をガラリと変えるようにアリサへ話しかける。

 ……なぜかアリサが、ぶつぶつと独り言を言い出していたからだ。

 「やはりタケルさんは、小さい子供が……」だとか「もうこうなったらタケルさんを――して、私も……」などと、よく聞こえないのに怖い内容な気がする。

 ……アリサを長く自分の世界へ入らせたらいけない。それはようやく体得できた教訓の一つだ。

「い、いえっ! 大したことはできませんでしたから! ほ、本当にっ!」

 顔を赤くしたアリサは、慌てた素振りで謙遜するが……多少は自慢しても良いと思う。

 仲裁は驚くほど簡単に進んだ。あっけないほどと言ってもいい。

 その理由は四人組(カルテット)の女性陣が、アリサの()()を知っていたからだ。

 知り合いや顔見知りだったのではない。相手が知識として、アリサや『HT部隊』の名前を記憶していたということだ。


 さすがに驚かさせられた。

 絡んだことのないプレイヤーやギルドの名前は、利益がなければ憶えられやしない。その価値がないからだ。

 例えば『RSS騎士団』の名前などは、避けるべき対象として憶える奴もいる。おそらく噂話を聞いたりしてだ。その価値があると――危険と認識するのだろう。

 つまりアリサの名前は――『HT部隊』の存在は、このゲーム世界で知っておくべき知識だったらしい。それが危険回避のためかは判らないが。

 ……なぜ栄えある『RSS騎士団』の情報部の長である俺の耳に届いてなかったんだ? これには何者かの陰謀すら感じる。


 さらに『団長の長い手』や『地獄の華』、『破滅への案内人』、『縁を斬る者』などの『HT部隊』へ付けられた華々しい通り名に、新しいものが追加された。

 それは『守護者(ガーディアン)』だ。

 いままで判明した中では、一番に由来を聞きやすそうな代物ではある。

 何よりも四人組(カルテット)の女性二人が、アリサの名前を確認するなり態度が激変していた。

 強い敬意を感じさせるものだったし、それで二人がアリサの名前しか知らないことも判明した。

 名前だけは知っていた有名人への――それも畏怖の念すら抱いた態度。

 そんな対応だったからだ。

 ……一体全体、『HT部隊』はどんな活動をしているんだ? 俺の知らないところで!

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