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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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238/511

レベリング――6

「はい、タケルさん。どうぞ。ハイセンツさんも……コーヒーで?」

「うん? ああ、ありがとう」

 礼を言って、差し出されたコーヒーを受け取る。

 ハイセンツも何事かモゴモゴと口にしながら、同じように受け取った。

 アリサが相手でも、やや緊張しているか?

 まあ初めて会ったときは、この世のリア充全てを呪い、世界中の女性と決別せんばかりだったが……それなりに現状復帰できてるらしい。

 四股もかけられていたのだ。多少はおかしくなって当たり前だろう。

 むしろ持ち直してる方か?

 第一小隊のルキフェルのように、極度の女嫌いになってもおかしくはない。

「まあ、とにかく……その洋ゲーのハウスルールは知らなかったけど、このゲームでは前にいる奴を基準な。自分が動いて欲しい方じゃなくて」

「了解です! ……あの、さっきはやばかったですか?」

 気にしてそうな様子を、何気なく手を振って否定しておく。

 内心、冷や汗をかいているのは俺の方だ。

 さりげなく間違いを質して良かった。いきなり怒鳴ったり、怒りを露にしてたら……お互いに微妙な気持ちになっただろう。

 ハイセンツが『右左の基準』を覚えたというゲームは、残念ながら聞き覚えのないものだった。

 何でもアサライトライフルを持って匍匐前進しながら、スナイパーに狙撃されるゲームらしい。……どういう趣旨なんだ?

 そのゲームは運営母体が外国で、公用語にしてからが完全に英語という、典型的な洋ゲー――海外の常識やセンスで作られたゲームだ。

 なんでも味方から「進め、蛆虫(マゴット)! 走れ、蛆虫(マゴット)!」と罵声を浴び続け、最後には嫌気が差して引退したらしい。


 しかし、色々なMMOがある以上、細かな決め事は違っていて当たり前だ。

 特にいわゆる洋ゲーでは、同じ主旨のルールがまるっきり逆なことが多い……らしい。

 有名な例でいえば、マルバツ問題だろう。

 全世界共通で正しいことにはマル、間違っていることにはバツと考えるだろうが、実は大きな間違いだったりする。

 英語圏では完全に反対だ。マルは不正解を、バツは正解を意味する。

 まあバツという記号はなく、使うのはレ点ではあるが。それにマルの方も、間違っている部分を指摘する――丸く囲う用法をする。

 ……やや西洋式の方が合理的か?

 ここまでの違いは珍しいが、探せば似たような例も多いはずだ。

 まあ問題があっても、話し合えば済む。

 結局のところMMOは、人間同士で遊ぶから面白い。つまりコミュニケーションはいつでも可能だし、だからこそ重要でもある。


 そんなことを内心思いながら、静かにコーヒーを啜った。

 美味い!

 ここまで美味しいコーヒーは、リアルも含めて経験がなかった。これは商品として通じる程の出来ではないだろうか?

 ひどく感動しながらも、飲んでいるコーヒーの名前を調べる。

 少し前に、これの名前を知らなかったことに気付いていた。

 知らないのは何だか恥ずかしい気もしたし、覚えれば自分で購えるようにもなる。『食料品店』で公開販売されていればだが。

 しかし、『試作品二十八号』という、理解不能な名前が付けられていた。

 ……なぜだろう? ()()()()と同じ臭いがする。

 いや、鯖寿司の香りがするコーヒーという意味ではない。……そんな地獄の飲み物は、想像すらしたくなかった。

 ロットナンバーの付け方について、同じ発想を感じるという意味だ。

 しかし『試作品二十八号』ということは、それまでに二十七もの失敗作があるということか?

 いや、この世には食へ執念ともいえる熱意を持つ者もいる。

 このゲームの何処かに、並々ならぬ熱意を持ってコーヒーを登録し続ける求道者がいるのかもしれなかった。


「どうか致しました?」

「うん? いや、なんでもない。……ただ、このコーヒーは美味いなと感動していたところ」

「ふふ、やっぱり! ありがとうございます!」

 満面の笑みで返されてしまった。

 顔に出ていたのだろうか?

 だが、まあ……なんでも良かった。なぜかアリサはご機嫌だし、俺も美味いコーヒーを飲めて満足だ。そう思おうとしたところで――

「ちょっと! 聞きました、奥様!」

「ええっ! ラブですわ! コメですわ!」

 などと囃し立てる声がした。『HT部隊』の面々だ。さらに――

「み、みんな逃げて! ラ、ラブコメがっ! ラブコメの波動が第三の目を疼かせるの! もう止められないっ!」

 などと言っいながら、おでこを押さえて大袈裟に悶える始末だ。

 もう本当に彼女達は、俺をオモチャにするチャンスを見逃さないな!

 だいたい、何が『ラブコメ』だ。

 俺とアリサの間に、そのような浮ついた感情はない! 二人共に尊い目的に邁進する同志なのだ! 低次元の結びつきを超えた、真の友情とでもいうべきものをアリサとは持つことが――

「ちょっ……! ちょっと、ちゅ、注意してきますね!」

 と言ってアリサは、脱兎の如く『HT部隊』のメンバーの方へ向かう。……その顔は真っ赤だ。

 静かに何も言わず、コーヒーを啜る。

 俺も赤くなっている気はした。顔が熱かったからだ。

 いや、熱々のコーヒーを飲んでいるからか?

 そうに違いないだろう! 何も恥ずかしがることはない!

 こんな時は沈黙を守るべきだろう。アリサの恥ずかしがっていた顔は、とても可愛らしかったりしたが……それらの感想と一緒に、黙って胸に収めておくべきだ。

 特筆すべきことは何一つ起きていない。そういうスタンスで流してしまえば――

「うーん……いまのは合格点は与えられませんね」

「そうなの? あっ……お姉ちゃん達、怒られてる。しかも正座……」

「やりすぎはダメなのです。いいですか、カガチ? あけすけな事実の指摘も十分に効果的ですが――」

 などというネリウムとカガチの会話に、頭痛がしてきた。

 頭の中で『英才教育』というフレーズが乱反射している。長じてカガチは、ネリウムをも超える『ナニか』へ育ってしまわないだろうか?

 だが、何もできることはありそうにもなかった。

 もう手段は一つしか残されていない。それは――

 何もかもを、見なかったことにすることだ。

「おい、まだかよ。これなら迎えに行った方が良かったんじゃないか?」

 そう話しかけると、カイは憮然とした顔で振り向く。手には暗号表と呼子笛を持ったままだ。

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