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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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レベリング――4

 けれどもオーガは、まるで意に介してなかった。

 まあAIには感情の動きなどない。そのように感じ取れたということだ。

 そして俺の身体を透かし見れるかのごとく、ゆっくりと首を振る。

 視線は遮っているはずだが、その動きが何なのかは判った。まだリルフィーを追い続けている。

 ……奴も奴で、俺の背後を回り込んだのだろう。

 なんというか、大胆すぎないだろか?

 いまから新手の二匹を引き受けるのに、良いポジションを取れると判断したのだと思われる。

 だが、もし俺が失敗していたら、二人一緒くたに吹き飛ばされたはずだ。いっぺんに前衛が二枚も戦線離脱したら、パーティが崩壊してしまう。

 そうならないと賭けたんだろうが……ちょっと冒険心がすぎる。帰ったら軽く説教だ。

 馬鹿なことを考えてる間にも、再びリルフィーを追わんとオーガも動き出す。

 ……まだターゲットが変わってない。

 もしかして『頑固』か『愚鈍』の性格持ちか? ……『執心』だったら最悪だ。


 モンスターの性格は、色々なパターンが用意されている。

 いや、特徴と言うべきか?

 例えば『頑固』だったら最初の決定を固持、『愚鈍』だったら目の前のことに惑わされ易いなどだ。

 中でも『執心』はかなり珍しい。自分を傷つけた敵を死ぬまで追うのだが、最もコントロールしにくい部類だろう。

 さらに画一的に設定されているのではなく、個体差としてランダムに付け加えられる。それも稀な確率でだ。

 なんといってよいのか判らないが、種族ごとに基本的な性格とでもいうものがある。通常ならゴブリンはゴブリンらしく、オーガはオーガぽい動きや判断をしていた。

 だが稀に、その平均的な範疇から大きく逸脱した奴がいる。しかも外見上の違いはない。

 これはパターン化対策だが、大事故の原因となりがちだった。

 考えてもみて欲しい。『執心』の個性持ちのモンスターへ、『魔法使い』がFA――ファーストアタックを入れてしまった時の大混乱を!

 相手は味方のタンクなど――パーティの事情など全く考慮せず、あらゆる犠牲を払って『魔法使い』を攻撃しにくる。

 『鉄砲玉』作戦は対人戦でも効果的だ。それを全くリスクのないモンスターにやられたら……その惨状は、もはや喜劇的ですらある。

 機械的な狩りを排除したり、緊張感の維持には役立つが……このような現状では、待ったくをもって迷惑でしかない。


 慌てて渾身の力で棍棒を抑え込む。

 ……ギリギリか? ここで力負けしたらヤバい! せっかく技を成功させたのに、全てが水の泡になってしまう!

 内心、もの凄く焦ったが、すぐに事態は好転した。煩わしげな表情で、オーガが睨んできたからだ。

「ちょっとは俺のことも相手してくれよ?」

 ……モンスターに話しかけてしまった!

 もちろん相手に中の人はいない。だから話しかけるということは……PCモニターに語りかけたも同然だ。

 『教授』あたりなら「モンスターとの戦闘はゲームデザイナーとの会話なんだよ」ぐらいは言い出しそうだが……それは常識の限界を突破した者だから許される。俺のような青二才が言ったら噴飯ものだろう。

 思わず顔が赤くなりそうになったし、大声を出して誤魔化したくなったが――

「オガァーッ!」

 というオーガの応じた叫びで、なんとか格好はついた……としておこう。

 それにターゲットを変更させるのにも成功だ。


 ほとんどのMMOで通じる、いわば定番か常識なテクニックがある。

 システムによって『囲い込み』だとか『押さえ付け』、『通路ハメ』などと色々な名称で呼ばれるが、全て同じロジックを利用した攻略方法だ。

 それは『他のプレイヤーを相手にしないと、モンスターが狙っているターゲットを攻撃できない状況』を利用する。

 最も簡単な例で説明してみよう。

 例えば俺とアリサのような『戦士』と『魔法使い』でペアハントの最中、『魔法使い』が『執心』持ちのモンスターがターゲットを取ってしまった。

 ……もうアリサはそんな失敗をしなくなったが、あくまでも一例としてだ。

 それの簡単な解決方法は、通路ハメになる。

 まず二人して、どこか狭い通路状の場所へ逃げ込む。もちろん先にアリサを逃がし、しんがりは俺だ。

 そこに陣取って迎え撃てば、モンスターは俺を相手にせざるを得なくなる。

 AIなどの動きに詳しくないと、当たり前に思えるかもしれない。

 しかし、これが無いと不思議な現象が頻発することになってしまう。

 仮に通路へ逃げ込んだりしても、頑なにアリサ狙いを続けるAIだったとする。

 その場合、俺が邪魔だから接近できないし、俺は俺で無視されるから安全だ。

 もう相撲か何かの要領で押し返しながら、短剣か何かで攻撃し続ければいい。ノーリスク、ノーダメージで処理が出来る。つまり、ある種のハメだ。

 この手のロジックは枚挙に暇がない。

 ……まあ、ありとあらゆるMMOで、信じられないぐらいの熱心さをもって、歴代のプレイヤー達がハメを探した結果ではある。

 もちろん、いたちごっこの結果として、一つひとつ丹念に封じられているが。


 今回、俺が狙ったのは『押さえ付け』の亜種となる。

 最も簡単な方法でやるなら、素手でもいいから服などを掴んでしまえばいい。コブリンのような雑魚中の雑魚なら、それくらいは可能だ。

 結果、モンスターはターゲットへの攻撃ができなくなってしまう。いわゆる『押さえ付け』の成立だ。

 これでも頑なに狙いを変えないAIなら、ハメ放題にできる。……まあ、そんなのは光の速さで修正されるが。

 もちろん『押さえ付け』をしている奴を攻撃しはじめる。

 先ほどの例でいうなら、俺へターゲットを変更だ。

 ハメとしては成立しないものの、『魔法使い』から『戦士』にできた。狙いとしては成功だろう。


 さすがにオーガの褌を捕まえたところで、止められやしないだろうが……渾身の力で棍棒を押さえつけている。自由に動くことは――引き続きリルフィーを追うことはできない。

 苛立たしげな表情で、何度も武器を取り戻そうと奮闘している。

 もちろん、渾身の力で邪魔をしてやった。堪らず笑みが漏れたし、我ながら悪い顔になっているとは思う。

 終いには両手で、卓袱台を引っくり返すように跳ね上げてきた。

 さすがに両手を使われたら、力比べにもなりゃしない。それどころか本当に卓袱台よろしく吹き飛ばされてしまう。

 相手の力に合わせるように、軽くバックステップをしておく。

「よし。タゲは剥がせたぞ。引き続き、こいつを先に()る!」

 言うまでもないか?

 目の前のオーガは怒りの形相も露に、滅茶苦茶に棍棒を振り回して闘志を発散させている。誰が見ても、俺へ敵意を持っているのがありありだ。

 しかし、それでも後方のハイセンツと『HT部隊』のメンバーからも、気合の篭った返事があった。

 少し熱くなっているか?

 ただ、それは俺もかもしれない。なんだかんだ言っても、戦闘になれば燃えてしまう。MMOプレイヤーの性というやつだろうか?

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