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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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レベリング――2

 すぐに新手を視認できた。

 俺達の陣取っている開けた場所へ、のしのしと歩いて来ている。

 ややピンチになったか?

 いま居るのは通称で『西側』と呼ばれる、第二の街から西の森だ。

 オーガ狩りの人気スポットの一つではあるが……三匹と同時に遭遇なんて、ちょっと記憶に無かった。もの凄く運が悪くて二匹と同時ぐらいか?

 普段なら複数同時は珍しいどころか、疎らですらある。

 ポツポツと出現するオーガを待ち構えるように、休みやすみに対応が可能だ。大人数のパーティでは食い足りないといってもいい。

 それを逆手に取るように、ペアやトリオで利用されている。……あとは腕試し気分の前衛職ソロなどもか。

 今回はそれを期待して――低難易度を見込んで狩場の選考をしたのに、逆に窮地に陥っている。全く当てが外れた結果だ。

 ……いや安全マージンを取ったからこそ、この程度で済んだのか?

 しかし、想定外と嘆いていても始まらない。

 いまは作戦を立てることが優先だ。……それと指揮もか。

「若旦那、あたしが一匹引き受けましょうか?」

 そんな提案をするのは、『HT部隊』メンバーだ。

 クラスも『戦士』だったし、普段はタンク役を務めているのだろうか?

 一考の余地はあった。

 タンク役を決めるのに、女だ男だと拘っても仕方がないだろう。

 リルフィーが引き続き目の前のオーガを担当、俺が新手のどちらか、彼女が残った方のターゲットを――タゲを取るでも悪くはない。三人ともに一対一となる。それなら易々と後れはとらないはずだ。

 だが、ベストでもなかった。

 タゲの分散そのものが、優れた作戦ではない。大袈裟に言うのであれば、基本から外れてしまっている。安定行動に見えて、戦闘の長期化と事故の危険性があるからだ。

 密かに『HT部隊』メンバーの手並みを確認するつもりもだったが、いま危険を冒すこともない。

 軽く首を振って、反対の意思を伝えておく。

「た、隊長! そ、それなら一匹は俺が!」

 ハイセンツも名乗り出てきた。さすがに緊張しているのか、少し声が上ずっている。

 思わず一喝しそうになるが、ぐっと堪えておく。

 ハイセンツは殴れる『僧侶』な……俗にいう『第二王子』スタイルだが、それは『殴る』と『回復』の両方をできるのが長所だ。

 しかし、タゲを取ってしまったら、『守る』の役目までも負うことになる。

 それでは一人三役になってしまうし、そんなことができる訳もなかった。

 俺やリルフィーのような専門の前衛職でも、『殴る』と『守る』の両立は持て余すことがある。『僧侶』にタゲをとらせるなんて、下策の極みだろう。

 なるべく荒々しい動きにならないよう注意しながらハンドシグナルを送る。手の平を見せるサイン――待機だ。

 それにハイセンツにも『HT部隊』の彼女にも、何ら落ち度はない。

 まだスムーズに意思統一が図れないのは、仕方のないことだ。その辺りを補うのが、今回のテーマでもある。


 しかし、やはり新手のどちらかを、リルフィーに担当してもらうしかないようだ。

 目の前の一匹に追加のうち片方で、合計二匹を相手となるが……奴なら難なくあしらうだろう。

 それに倒してくれと頼むわけじゃない。

 俺達が残る一匹へ火力を集中する間だけ、時間を稼いでくれれば十分だ。すぐに三匹同時は二匹同時へ変わり、その後は一匹を処理する狩りに戻る。

 ただ、面白い決断ではなかった。

 リルフィーのリスクが上がるのはもちろんのこと、いままで叩き込んだ分が全てチャラになるからだ。

 新手の一匹を全力で倒しても、さすがに数分は掛かる。その僅かな時間で目の前のオーガは全快してしまう。これまでの苦労は水の泡だ。

 それほどまでにモンスターの自然回復速度は早かった。

 これは弱らせたモンスターを利用した攻略を封じたり、極端なヒット・アンド・アウェイ作戦を禁止するため……らしい。

 『教授』がいうには自然回復力の強弱で、『ソロでは絶対に狩れない』などの味付けも可能になるそうだ。何かのハメ封じが新しい要素となるのは、ゲームの常なのだろうか?

 必要悪ともいえる仕様らしいけれど、プレイヤーにとっては厄介なだけだ。

 そして最終的に「モンスターを倒すときには一気に倒す」がセオリーとなった。

 俺などが常日頃から戦闘の長期化を避けているのは、事故の可能性が高くなるのもあるが……時間をかけるほど、実質的にモンスターのHPが高くなるからでもある。

 これは計算してみれば誰にでも理解できる仕組みだ。

 例えばHPが千点のモンスターがいて、自然回復力は一分につき五百点だったとする。

 一分で倒せば実質的なHPは千五百点で、二分かかったら二千点だ。もし十分かけた場合には、なんと六千点にまでなってしまう。

 そもそも一分間に五百点以上の火力を叩き出せなければ、いつまで頑張っても倒すことはできない。

 ただ、これは判り易くするために大袈裟な数値にした。

 実際にはもっと小さな数値だし、最大HP以上にも回復しない。対応策も回復を開始する前に速攻をかけるなど、色々なテクニックが存在する。

 ……まあ大筋では、この理解で間違っていないが。


 話を現状に戻せば、もう一つのプランとして……俺が新手の二匹相手に囮役となり、残りのメンバーで目の前のオーガを処理もあった。

 そちらの方が安定する気がしたし、今まで叩き込んだ分も無駄にならない。囮役が稼ぐ時間も少なく済む。

 が、いまいち自信が持てない。

 いや、さすがにオーガ二匹程度、それも短時間の囮役ぐらいこなせる。

 しかし、さらに増えたらどうだろう?

 もう一匹増えたら、囮役で三匹を相手がベストとなる。リルフィーならできると思うが……俺にもやれるかは未知数だ。

 ゲームの時なら失敗しても問題は……あるが、少ししかない。

 何か挑戦的なことをしても、そのツケを払うのは俺だ。それに余程のことでもない限り、道連れもつくらないで済む。仮に全滅したとしても、数日も経てば笑い話になるだろう。

 だが、いまやゲームではない。損失は永久的で、決定的なものとなるかもしれなかった。

 さらにタンク役の失敗は、パーティメンバーの全員でツケを払うことになる。守り手であるタンク自身が壊滅の引き金になることだって、珍しくもなんともいない。

 自分だけが死ぬのなら諦めもつくが……誰かを巻き添えにしたら、死んでも死にきれそうもなかった。

 やはりタンクにミスは許されない。後退や逃げるのすら、本来ならダメだ。

 リルフィーが身をもって示したように、いざとなったら肉壁となってでもパーティを守らねばならない。

 そして命懸けだからこそ……自分の手に余りそうな役割を担ってはいけないはずだ。

 自らの弱さや限界を認めるようで悔しいが、そんな見栄では誰も守れない。ここで意地を張るのは、何かを間違えている。

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