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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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232/511

変化――11

「口を挟んでもよろしければ……向かうのなら東南――細かくは東南東が良いと思いますね。それこそ大発見が見込めるでしょう」

「そうなんですか? 大発見ってどんなですか!」

 カイの説明に、思わずリルフィーが食いつく。

 ……もの凄くソワソワしてやがる。冒険の高揚感を抑えきれなくなっているのだろう。ネリウムが捕まえていないと、そのまま走り出してしまいそうな感じだ。

 ただ、気持ちは解らないでもない。俺だって同じ気持ちだ。

 結局のところ、俺やリルフィーはガキと大差がない。おそらく『冒険』という言葉に心がときめかなくなった時、俺達は大人になるのだろう。

「もう、リーくんは……『手引書』に、そのような情報があったでしょう。そちらに『王城』か、少なくとも有力者の『城』がありそうだと」

 そうネリウムは窘めるが、満更でもなさそうだ。

 まあ、それはそうだろう。

 いつもリルフィーと一緒にいるのに、この程度を許容できない訳がない。むしろ奴のそんなところを、楽しんだり愛でたりする度量が必要に思われる。

 ……これが『女は度量』というやつか?

 ただ『手引書』はオフィシャルハンドブックではなかった。

 攻略チームの努力の結晶で、門外不出の極秘資料だ。読むのは黙認していたが、前提知識とされるのは抵抗がある。

 それについては、後で抗議しておこう。……リルフィーに。

「お城?なんですよね? 私たちも――プレイヤーも入れるんでしょうか?」

「ああ、ファンタジーMMOで『城』が実装されるのは珍しくないんだ。心配しなくとも大丈夫だ。イベントの時には入れると思うぜ。今度は一緒に行こう。……大舞台になるだろうし」

 不思議そうなアリサに説明する。『城』と言われても、ピンとこないのだろう。

 だが『砦』の争奪戦をするくらいだ。間違いなく『城』でも支配権を賭けた戦いに、それも盛大なものになるだろう。

 それに前の『戦争』では、『HT部隊』のメンバーに割りを食わせてしまった。

 埋め合わせというわけじゃないが、その辺の曖昧さをクリアしておくのは俺の役目だ。次の機会には堂々と参陣してもらいたい。

「タ、タケルさんと一緒に……それもイベントでお城へ……」

 ……なぜかウットリしてる。どうしたことだ?

「あっ……これ姉御……勘違いしているパターンだ」

「『舞踏会』的な? 若旦那も罪な言い方するし……」

 なぜか『HT部隊』の面々から、聞こえるように非難される。

 陰口を言われるよりマシだが、俺の方針は間違っていないはずだ。

 『戦争』だろうと『武闘会』だろうと……仲間を日陰者扱いする方が、どう考えてもおかしい。


「俺も同じ結論だぜ。向かうのなら東南だってな。まあ同じ情報源なんだから、当たり前か」

 そうウリクセスも応じるが、リルフィーは不思議そうにしている。

「あー……情報部は全てのNPCの台詞を記録して、総合的に解析したんだ。南に都会的な街があって、この地は王政が布かれている。それは何人かが王に関して言及していることから判る――『税金が高い』だとか『辺境は省みてもらえない』とかな」

 まだ首を捻っている。何が疑問なんだ?

 しかし、この件について掘り下げる気は――少なくともウリクセスの前で論じる気は無かった。

 説明した俺ですら疑問は感じる。あまりに曖昧すぎる情報だ。

 『砦』の時などは……『砦』が実装されてから、住人は前々から知っていた体の発言に変わった。

 それでは明らかに順番がおかしい。因果律が逆転してしまってる。

 しかし、それがゲームというものだし、未完成で常に変化するMMOならではだ。

 『城』だって実装されるまでは、どうなるのか判ったものじゃない。

 南東どころか真逆の北西に位置することもあるだろうし、そうなったところで……各NPCは、昔からのことのように振舞うだけだ。

 結局、いまNPCが何と言っていようとも、全て参考にしかならない。

 ただ何処へ向かっても似たようなものだから、気休めにしたのだろう。

「気を遣ってくれなくて良いぜ。俺らも解ってる。でも何の当ても無い方向は……かなり()()だろうしな」

 そうウリクセスは言って、軽く肩を竦める。

 やはり誰よりも理解しているのは、ウリクセス自身か。

「……止め役になっても良いんだぞ?」

「いいって、気を遣わなくても。タケルも知っているだろ? 俺らは……止まると死んじゃうタイプの人間なんだよ」

 そう自嘲気味に言われては、返す言葉が無かった。

 ウリクセスとその仲間達は、自他共に認める廃人だ。

 最高峰に近いといえるし、リルフィーなどでは届かない境地へ到達している。……いつかは届いちゃう気もするが、まだ廃人界ではルーキー程度でしかない。

 そんな廃人達だが、いくつもの言葉で形容されてきた。

 人生がMMOになっている、頭がおかしい……あまり大っぴらには使えない言葉まで含めたら、数え切れないほどの悪口がある。そもそも『廃人』という呼び方からして、否定的なニュアンスだ。

 しかし、それでも廃人が勤勉なことは否定できなかった。

 考えてみても欲しい。どんなことだろうと毎日三時間――ことによったらそれ以上だ! ――も頑張ることの難しさを。

 それを依存症だとか、努力中毒と言う者もいるが……並大抵の者に可能な業ではない。

 いまだって無駄になるかもと知りつつ、地道にレベリングをしている――していた。

 無為に過ごすことに耐え切れなかったのだろうし、気を紛らわす意味もあったとは思う。しかし、それでも努力の一種ではある。

 そしてレベルキャップに到達してしまったので、こんどは探索行を決意だ。

 だが、危険すぎる。『果て』への旅は命懸けになるし、リスクとリターンが見合っていない。

 やはり無謀な挑戦は止めるべきじゃないだろうか?


「で、情報の確認が取れたら満足なのか? なぜか今日は優しい気分なんだ。多少はサービスしてやってもいいぜ」

 ……こうじゃない。

 だが何が正しいのかは、誰にも解らないことだ。ウリクセス達の選択が、たった一つの正解な可能性もある。

 そもそも命懸けで何かをしようとする奴に対して、俺の言葉は薄っぺらな気すらする。

「いや、情報の確認はついでというか……念の為だな。物資の取引も頼みたい。重さ効率を優先するから、装備もギリギリまで絞る。『回復薬』系統も中級中心になるな。要らない物は、できれば買い取ってくれ」

「それぐらい手持ちの金貨で賄えるだろう? お前たちなら――」

「ついでだから『翼の護符』も売っていくぜ。他の貴重品とかもな。抱え落ちになったら……勿体無いだろうからな」

 面白そうにウリクセスは言うが、こちらとしては言葉に詰まる。

 これは間違いなく命懸けだ。少なくとも本人達は、そう覚悟している。まるで形見分けでもしているかのようだ。

 やはり止めるべきじゃないか? だが、なんと声を掛ける?

「担保として預かるのならいいぜ。その分だけ金貨でも物資でも、なんだろうと提供してやろう。何かうちの備品が欲しかったら、カイと相談してくれ。返却前提なら、秘匿装備でも貸してやる」

 ……違う。そうじゃない。もっと考え直せるようなことを――

「おっ? テントだとか、その類の物あるか? なんとか寝袋は用意したんだけどよ……とにかく夜営用品が足りないんだ」

「いくつか流用できる物はありますね。隊長の許可は下りてますし、後でお見せしましょう」

 なんだか上手くいかない。むしろ話は順調に進んでしまっている。

「聞いときたいんだが、どうして明日の午後なんだ? もっと相応しいというか……意義のある日時はないのか?」

「おいおい、何を温いこと言ってんだ? 大丈夫か? 明日は定期メンテの曜日だぞ……あるのならだけど。これ以上の区切りはないだろ」

 その指摘には何も言い返せなかった。これでは「温い」と言われても仕方がない。

 確かに週に一回のペースで、定期メンテナンスが実施されていた。

 このままで定期メンテがあるのか微妙だが、物事の判断基準にはできるはずだ。少なくとも何かを決断する切欠にはなるだろう。

 定期メンテがあるようなら、俺達は全員解放される。

 だが何のリアクションも起きないのなら、定期メンテどころじゃないということだ。そして不具合は長期化の可能性も濃厚となる。

 それで出発を明日と決めたのだろう。

「……確かに考えが足らなかったかもしれない。だが、一つだけ言わせてくれ。やっぱり危険だと思うし、止めた方が良いと思う」

「解ってる。でも、考え抜いた結論なんだ」

 ……結局、俺ではウリクセス達を止められないらしい。

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