表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

223/511

変化――2

「まあ、とにかく……この手の微調整系の技は、意外と練習いるからな。遊んでんじゃないぜ……暇潰しではあるけどよ」

 説明はここまでと、切り上げてしまう。

 カイは軽く肩を竦めて返してくるけれど……きちんと誤魔化せたのか、それとも批判する気が無くなったのかは不明だ。

「カイの方こそ、さっきから何してんだ?」

「私は……今までに起きたことを、書き記しています。昨日、市場で良さげな物も見つけましたし」

 そう答えながらも、こちらに背表紙を見せてくれる。

 予想よりも立派な装丁だった。

 ノートだとか帳面などというよりも本、それも手書きの一品物といった印象を与える。つまりは正真正銘の手記になるのだろうか?

「なんだか意外だな……日記でも書く習慣があるのか?」

「想定外の長丁場になったので、細かな出来事は忘れてしまいそうで。これは……どこかその辺に保管させて下さい。私が持っていると……万が一の場合に無駄となりますし」

 妙な言い回しをする。

 そう感じながらも、流しかけて……危ういところで意味を理解できた。


 カイが心配しているのは、万が一の場合……つまり自分が死んだ時のことだろう。

 装備品なんかと同じように、アイテムとして持ち歩いたとする。

 そうすれば勝手に見られることもないし、無くすこともないし、場所もとらない。

 だが死んでしまった場合に、忘れ去られる可能性があった。

 何を書き記したのかは知らないが、ある程度なら予想できなくもない。

 本人も言うように、備忘録がメインではあるのだろう。

 しかし、それだけではないはずだ。親やきょうだい、親類縁者、友人などへの――現実側で安否を気遣う人達への言葉もあると思う。いや、あって然るべきだ。

 ……物事の元凶である誰か――もしくは何か――への恨み言も、あるかもしれない。

 そして万が一の場合、そのまま最後の言葉にすらなりかねなかった。

 さらに考えたくはないけれど、この世界にいる全員が悲劇的な結末を迎える可能性もある。その時にはカイだけでなく俺達全員の顛末を、誰かに伝えるかもしれない。

 しかし、せっかく書いた手記を、自分のアイテムとして仕舞い込んでいたら?

 誰かがサルベージしない限り、存在すら知られぬままとなるかもしれない。

 だが保管場所を『詰め所』にしておけば、俺や他のメンバーでも管理可能だ。……カイと一緒に、手の届かぬ何処かへ行ってしまうことがない。


 「趣味が悪いぞ」と言い掛け、口を噤む。

 麻痺してしまっている感はあるものの、現状は依然としてシビアだ。

 死と隣りあわせといっても過言じゃない。俺達もカイを見習って、何か書き残しておいても良いぐらいだ。……まるで遺言みたいで、ぞっとしないけれど。

「いまさら奇妙な物の一つや二つ、増えても気にしないけどよ……俺は盗み読むぜ?」

「べつに構わないですよ? 読まれて困る内容ではありませんし。……それでも隊長の悪口には、もう少し力を入れておきましょう」

 軽く冗談を言ったら、見事に嫌味で返された。

 性格の悪さで勝てる気がしない。なぜ作戦立案に役立ててくれないのだろうか?

「なんだか解りませんけど……がんばって、カイさん! あと、俺も読んで良いっすか?」

 能天気にリルフィーが会話に入ってきた。

 最近になって察するという能力が芽生えだしたが、いかんせん幼稚園児レベルだ。多くは期待できない。

「リルフィーが読んで面白いことは無い! というかお前のことが書いてあったら、九十五割が悪口だ!」

「それじゃあ一冊まるまるが、俺の悪口じゃないっすか!」

 真剣なクレームに、その場に居た全員から失笑が漏れた。

 こんな風に狙って笑いを取れるのなら、リルフィーには『お笑い』の才能がある。

 ただ、まあ……()()だからなぁ……。プロに言わせると『笑わ()()』と『笑わ()()』には、天と地の開きがあるらしいし。

「だあっ! うっさい! それより! もう練習は良いのか?」

「バッチリですよ、タケルさん!」

 目先を変えたら、すぐに食い付いてくるのは……素直というべきか、騙されやすいというべきか。

 ただ、|握り拳から親指だけを立てるサイン《サムズアップ》で、自信満々な顔付きにはムッときた。

「はーん? 本当か? それじゃ、いくぞ? 最初はグー! ジャンケン、ポン!」

 掛け声と共にジャンケンを仕掛けてみた。

 不意討ちにも遅れることなく、見事に着いてくる。それに練習の成果も出ていた。

 互いの手役は俺がグーで、奴はパー。俺の負けだ。

「勝った! パーで勝てた!」

「……基本はできるようになったみたいだな」

 ここで褒めないのはフェアーじゃない。癪だが認めておくべきだろう。

「あの……先ほどから謎だったんですけど……なんでジャンケンの()()なんですか? ジャンケンって運否天賦の遊びですよね?」

 不審そうというか……頭の弱い人間を見る目でカイが、訊ねてくる。

「もちろんだ。純粋に運を競うからこそ、ジャンケンはエクストリームなんだぜ? でも運ゲーにする為のテクニックも、習得しておく必要がある」

 理路整然と説明してやったのに、ますます不審そうな顔になりやがった。

「なんだよ……カイも知らなかったのか? そんなんじゃ悪の『ジャンケン握り』に騙されても知らないぜ? 聞いたことはないか? 『最初はグー・必勝法』というのを? そこから生まれた……(アンチ)『最初はグー・必勝法』があるんだよ」


 『最初はグー』という方式は、非常に優れた機能を持つ。

 それは対戦相手同士のタイミングをアジャストする――つまり不正タイミングで起きる『後だし』などを、簡単に抑止することだ。

 やり方も簡単極まりない。

 「最初はグー」と掛け声をかけながら、対戦者全員が手役のグーを出すだけ。

 いわば練習、前哨戦だ。多少はタイミングがずれても構わない。目的は次のタイミングを周知することだからだ。

 やってみれば判ることだが、意外とタイミング合わせなしでのジャンケンは難しい。

 それまではタイミングの合わないことで――『後だし』で揉めたという。相手にバレない程度に遅れてだすのが、テクニックですらあったというから驚きだ。

 とにかく『最初はグー』というシステムは、その簡単さもあって広く受け入れられた。

 だが、定番になるにつれ……『最初はグー』の特性を利用した必勝法が編み出される。

 それが『最初はグー・必勝法』だ。

 『最初はグー』をした場合、全員が最初の手役はグーになっている。

 当たり前のことだが、これがミソで……手役はグーのままか、グーから他へ変わるしかない。

 相手の手役がグーのままならば、自分はパーを出せば勝てる。

 グーから変わるのであれば、チョキかパーで確定だ。自分はチョキを出しておく。相手がパーなら勝ち、自分と同じチョキでも引き分けで済む。

 この理屈が、とある有名な作品で説明されてしまった……らしい。たしか曾じいさんの時代のことだ。

 もちろん相手の手は、ある程度素早く動かされる。見切る動体視力が必要だ。

 しかし、その条件さえ満たしてしまえば、必勝の名に恥じない勝率を誇った。

 そして仮想世界では――アバターでなら、必要十分な動体視力を確保できる。

 あらゆるゲームは、必勝法の確立と共に廃れる定めだ。

 なのにジャンケンは、終わらなかった!

 (アンチ)『最初はグー・必勝法』が編み出されたからだ。

 『最初はグー・必勝法』は、非常に単純な理屈に拠っている。

 それは最初の一回目が――タイミング合わせの一回目の手役が、グーに固定されていることだ。

 すべての理屈はそこに立脚している。ならば崩すのは簡単なことで、最初の手役をグーにしなければいい。

 ただ、なぜか『最初はグー』方式では、最初にグー以外を出すと負けと決まっている。つまり、単純にパーやチョキを出すのではダメだ。

 そこで緩くグーを握る。

 正拳を握るようにであり、決して親指は握りこまない。そして人差し指と中指は、指の根元から開いてしまう。ただし、第一関節と第二間接は開かない。

 ポイントは伸ばせばすぐにチョキであり、ギリギリでグーの範疇に留まることだ。

 感覚的に表現するのなら……グーとチョキとパーの中間点になる。


「これは『ベーシック握り』と呼ばれているテクだな。さらに『裏ベーシック握り』とかもあるけど……まあポイントは、ジャンケンには王道が無いってことだ。何か必勝法が生まれても、すぐにそれを破る方法は編み出されるし――」

 そこまで説明したところで、全員が呆れていることに気付いた。

 なんともショックなことに、アリサまでもが苦笑いをしている!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ