表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

206/511

『岩山』――4

 双方に同じギルド所属が居たことで、話はスムーズに進みだした。

 ジンの方は、相手の顔を憶えてなかったようだが……それは奴が人非人だからじゃない。いや、奴が外道なのは明白だが、それでも無理からぬことだ。

 『RSS騎士団』ですら、総員で三桁に届く。より人数の多い『自由の翼』なら、確実に百人を超えてるはずだ。

 いくらサブギルドマスターの重責を担うとはいえ、全メンバーの顔と名前を把握は厳しすぎる。俺にしても、顔と名前の一致しない団員がいなくもない。

 これが大手ギルドの抱える、大きな問題点だ。

 所帯が大きすぎて、同じギルドでも知らない奴がいる。

 これは珍しくもなんともない。中規模以下なギルドの奴には、納得しにくいとは思うが……これは笑い話でもなんでもなく、単なる事実だ。

 同じギルドなのに他人行儀だったり、内部で仲良しグループが作られたり……そんな煩わしさを嫌い、大手は避けるプレイヤーがいるくらいだ。


 さらに四人が留まっていた理由も、単純明快だった。

 たんに帰れなくなっていただけ。

 全員の手持ちを合わせても……『帰還石』が一つに、『翼の護符』が二つしかなかった。しかし、それだけでは一名が帰れなくなる。

 となると、残る手段は荒野を強行突破だが……運の悪いことに、そう考えた頃には『レイス』がウロウロしていた。とても倒せそうもなく、歩いて帰還も不可能と悟る。

 そんな流れだったらしい。

「……四人だけなのか?」

「四人だけって……最初は、俺とさやタンだけだったんだぜ?」

 何を勘違いしたのか、ジョニーはそんな風に答える。

 俺が聞きたかったのは、他の残留者についてだが……ジョニーはそう受け取らなかったらしい。

「たまの休みで、さやタンとペアハントしてて……休憩に戻ってみたら、ここにゃ誰もいねぇしよぉ……ログアウトもできねえわ……全体メッセージも止まってやがるわ……」

 なんて愚痴まで飛び出す。

 相当の見栄っ張りなのに、こんな風にこぼすなんて……よっぽど大変だったのか。


 それに不運にも格差があったのを、今更ながら思い知らされた。

 俺が不具合の発生を認識したのは、全体メッセージが停止した――亜梨子の泣き顔が大写しにされた瞬間からだ。

 こんな状況に追い込まれて、俺だって不運には違いないのだが……それでも安全な街に居たし、比較的冷静に対応できていたと思う。

 しかし、『あの瞬間』を忙しい時に……例えば戦闘中に迎えていたら?

 狩りの最中なんかは、全体メッセージをオフにしている奴も多い。()()()作業の時もあるが、俺も集中したい時には停止させている。

 全体メッセージを止めていれば、不審に思う切欠がないはずだ。何か思ったところで――

「なんだか今日は個別メッセージが来ないし、ギルドメッセージも全くだな」

 と疑問に感じる程度だろうか?

 だが、それだと初動は大幅に遅れてしまう。

 下手をしたら、不具合を認識すらせずに――『決定的な結果』の可能性があるとは、夢にも思わずに……そのまま死亡(エンド)する悲劇も考えられた。

 ……何名かは、その運命を強要されただろう。

 もう正直に言って、不愉快だ。喉に何か押し込められたような不快感も感じる。

 MMOで死亡(エンド)は特別なことじゃない。

 やや大きな失点ではあるが……絶対に避けるべき特異点でもないだろう。むしろ、適度に死亡(エンド)しないプレイヤーは、ゲームを楽しめてない証拠。そんな感想すらある。

 だが、あの不具合が発生した瞬間から、各自が異常事態と認識するまで。

 その短い間にも、どれだけ大勢のプレイヤーが死亡(エンド)してしまったことか!

 思うまい。いまは考えまい。そう固く誓っていても、抑えきれない怒りがある。

 結局、『デスゲーム』なんて企てる奴は糞野郎だ。


「僕らは少し遅れて、この『岩山』へ戻ってきまして――」

「そこでは若い二人が、大喧嘩しとったという訳じゃ」

 ジョニーの説明を、若いのと爺さんとで補足してくれた。

 ……ジョニーと()()()()()()は、二人で一つしか帰還用アイテムを持ってなかったのか?

 おそらくそうに違いない。きっと、どちらが使うかで揉めたのだ。それでなければ、喧嘩になる理由がない。

 しかし、後から来たという二人も……かなりのお人好しに思える。

 二人はちゃんと、自前で帰還用アイテムを持っていたはずだ。そうでなければ、全部で三つという話と勘定が合わない。

 明らかな異常事態だし、喧嘩しているバカップルなんぞ見捨てて、自分達は安全な街へ戻っても良かったはずだ。まあ……そうしなかったから、ここに残っているのか。

「お節介のしすぎは、良くないと思いますよ?」

「そうじゃな。しかし、お主の親切のお陰で、また婆さんの顔が見られそうじゃ! ありがとうな、『RSS』の!」

 人間、無駄に歳を取っても、余計な知恵しか付かないようだ。実に可愛げがない。

「……べつに俺達は、爺さん達を助けに来たわけじゃないぜ?」

「なんじゃ……男の癖にツンデレか? 男のツンデレは、食通陶芸家にしか許されんと思うぞ?」

 周りから失笑が漏れる。

 いかん、これは年季が違うってことか? どうしてやろうか悩んでいるうちに――

「しかし、疑問なのですが……なぜ一人を街へ戻して、救援を募らなかったので?」

 不思議そうなネリウムのツッコミが入る。

 それもそうだった! そんな単純な解決方法、最初に思いつくべきだ!

「……で、聞きたいんじゃが……いったい、何が起きとるんじゃ?」

 さすがの年の功と言うべきか? 爺さんは聞こえなかったフリをしやがった! というか……いま言われて、初めて気付いたのか?


 しかし、いつまでも爺さんと遊んでいても埒は明かない。

 追い詰めるのは止めにして、真面目に質問へ答えてやりたかったが……残念ながら、俺達にも解らないことばかりだ。

 何を聞かれても「解らない」か、「おそらく」と枕をつけての返答になる。

 四人も四人で、必死に知恵を寄せ合ったのだろうが……俺達と同じか、それ以下の検討が関の山だろう。俺達にしたところで、ドングリの背比べだ。

 結局、何が起きているのか、誰にも説明できない。


「じゃ、気をつけて……は変か。とにかく、その『帰還石』は俺の奢りだ。気にしないでくれ」

「いや、でも――」

「早く使えよ! 俺達は予定が支えてるんだよ!」

 通り一遍の説明が終わって、四人に『帰還石』も配り――わざわざ貴重な『翼の護符』を使わせることはないだろう――あとは帰らせるだけ。

 そうなったのに、ジョニーの奴が駄々をこねた。

 大方、俺に助けられるだとか、借りを作るだとかが気に入らないのだろう。

 気持ちは解らんでもないし、ゲームの時なら応じる余裕もあるが……いまはそうも言ってられなかった。悪いが気付かなかったフリをするしかない。

「ほっほっ……わしは遠慮なく奢られておこう」

 この爺さん、本当にいい性格してやがんな。意外とこんなのと一緒だったから、絶望しないでいられたのかもしれない。

「そのサブマス、それじゃ……この分は、あとで……」

「あー……かまへん、かまへん。わし、便乗して来ただけやから」

 ジンは鷹揚に対処していた。

 ……この余裕な態度。これは真似したほうが良いのだろうか?

 が、時間がないのも事実だ。

「とにかく、早く帰還しろよ! 次の移動先があるんだよ!」

 と怒鳴ると、ようやく四人は『帰還石』を使用した。瞬く間に光に包まれ、街へと飛んでいく。


「なんや……マジでまだ捜索するんか?」

「ああ、『南の泉』にも行こうと思ってる。あの辺も簡単な休憩場所になってなかったか? ついでだし、見ておこうぜ」

 そう答えるが、あまり良い反応じゃなかった。

 見回ることそのものよりも、残留者が居るとは思えないからだろう。正直、俺も可能性は低いとは思っている。

「でもよ、俺は『岩山』ですら、あまり期待してなかったからな。まさか本当に人が取り残されているとは――どうしたんだ、ウリクセス?」

「うん? ああ……すまない。出発か?」

 なんだか様子が変だ。

「どうしたんだよ?」

「……いや、向こうには……何があるのかなって」

 ウリクセスの指差す方向には、鬱蒼とした森が――大森林が広がっていた。

 しかし、何も無い方向と――どこまで行っても森しかなかったと聞いている。

「何も無い……はずですよ?」

 カイが代表して答える。カイが言うのであれば、それは最新の情報に等しい。

「ああ。だよな。うん、何も無いよな。……気にしないでくれ! ちょっと疲れただけだ!」

 そう奴は言い繕い、おどけたように手を大きく振った。

 もう遠くを見てはいない。ただ、遠くを見ていたときの表情は、俺の心に残ってしまった。……あとできちんと、問い詰めておこう。

「よし、それじゃあと少しだ! 『南の泉』までな! そこに着いたら帰還する! もうちょっとだけ頑張ってくれ!」

 そう、皆を発奮させる。いまは不明者の捜索が先だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ