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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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201/511

荒野――6

「じゃ……後衛陣はMPを満タンに。念の為、『MP回復薬』も心に留めておいて。前衛陣は一旦、『回復薬』使ってでもHP全快な。それから少しペースダウンしても、物事がハッキリするまで無理しない感じで――」

「わかったから、はよ行きいな! 上手くやっとくさかいに」

 ……ジンの奴に話の腰を折られてしまった。

「タケルさん、ご武運を――『プロテクション』」

 話は終わったと判断したのか、ネリウムが守りの魔法を掛けてくれる。数分しか持たないが、単独行動では心強い。

「お気をつけて……『ファイヤーウェポン』」

 そしてアリサも付与魔法を掛け直してくれた。

 用心のしすぎだと思うが、これで持続時間の上書きが――更新ができる。

「軽く調べたら、すぐに戻ってくる。何か危険があったら……あー……叫ぶなり、なんなりしてみる。やばいと思った時は、『翼の護符』で飛ぶ。そっちも、いざと言うときには離脱してくれ」

「了解、了解、かしこまりました、や! さっさと行き! それからタケル『くん』はドジなんやから……叫ぶよりも、『翼の護符』を優先するんやで?」

 いつもの憎まれ口のようだが、少し違った気もした。

 自分の安全を最優先にしろ。そんなアドバイスか?

 ……まさかな。そんな配慮をされたら、今後、どんな顔で奴の悪口を言えばいいんだ?

「ちっ……判った、判った。いま行くところだろうが! ――リルフィー、そういう訳だから、もう少しだけ耐えてくれ。……あまり無茶するなよ?」

「任せてください! 朝になるまでだって大丈夫っす! ……タケルさんこそ、無茶し過ぎないでくださいよ?」

 威勢の良い返事だったが、さすがに朝までは無理だろう。苦笑いしか出てこない。


 普段なら何でもない、ほんの少し面倒なだけの斥候。それが危険な任務となっていた。

 こんな不具合の起きる前なら、ここまで深刻に扱われてない。

 結局のところ、失敗しても死ぬだけで済むからだ。

 これは諦めだとか、自暴自棄な考え方とかではなくて……ゲームとは、そういうものだろう。失敗したら、失点する。それはMMOに限った話じゃない。

 しかし、現状で失点がいかなる代償を求めてくるのか……それは誰にも判らなかった。

 おそらく大丈夫だ。『決定的な結果』になるなんて、ちょっと荒唐無稽すぎる。

 ……ただ、そう断定するだけの論拠もない。


 そして皮肉なことだが、『セクロスのできるVRMMO』が()()()ゲームだったことで……俺達は助けられていた。

 『甘えている』とは『教授』の評だ。『教授』にいわせると「ゲームデザイナーは、『翼の護符』に頼り切っている」らしい。

 いかに『翼の護符』での『逃げ』を戦略に組み込むか。どうやって相手に『緊急離脱』させないで、PKせしめるか。この二つは、ゲーム上の肝といっても過言じゃない。

 だが、そういったプレイヤーの視点でなく、ゲームデザイナーの立場でいうと……とんでもなくご都合主義な――()()()アイテムなのだそうだ。

 MMOでは、稀によく――

「ダンジョンのドアを開けると、モンスターがみつしりと詰まつてゐた」

 なんて大惨事がある。

 もちろん、開けた時点でプレイヤー達の全滅は不可避に近い。

 数押しに耐えきれるシステムは、少数派だし……失敗作扱いされがちだ。もしくはコンセプトが、一般的なMMOとは別物というべきか?

 そんな不運にも、稀にだったらMMOプレイヤーは耐える。コアなファンに至っては「不条理こそMMOの本質」などと嘯くかもしれない。

 だが、頻繁には駄目だ。それでは廃人ですらキレる。いずれゲームバランスの悪さは、糾弾されるだろう。

 それへの万能にして究極の回答が、『緊急離脱』だ。

 この『セクロスのできるVRMMO』であれば――

「いや、『翼の護符』使って逃げろよ」

 と冷静にツッコミをされるだろうし……内心ではヒヤヒヤもののゲームデザイナーも、曖昧な笑いを浮かべるだけだと思う。

 『教授』に言わせれば「対処不能時は『翼の護符』を使ってもらう。持ってないのは自己責任!」なんてのは甘えた設計思想で、ゲームバランス調整の放棄でもある……そうだ。

 俺などでは到底、その考え方にまで到達できない。カイでようやく入り口程度か?

 しかし、一プレイヤーとしては、強力な選択肢を使わないなんてあり得ない。

 ましてや、こんな異常事態だ。なんの躊躇いもないし……『翼の護符』がなければ、狩場へ出撃なんてできやしなかった。

 どんな窮地に陥ろうと『翼の護符』さえ使えば、たちどころに安全圏へ戻れる。

 それで思考停止は危険だが……リスクを冒している俺達の数少ない慰めで、心の拠りどころなのだから。


 右手に抜き身の『バスタードソード』を、左手には新たに火を点けた松明を持つ。

 いわゆる片手半武器――片手でも両手でも使える武器の、隠れた長所だ。その気になれば、常に逆手は空けることができる。

 リルフィーのような剣と盾の王道スタイルも悪くないが、この汎用性の高さは捨てがたかった。

 おそらく多種多様な場所での実戦経験から導かれた、片手半という結論。

 そしてファンタジーRPGならではの、『剣』という選択。

 この二つが先生流の極意なはずだ。直接教わったわけじゃないが、俺はそう考えている。

 二刀流へスイッチしたり、『格闘術』を混ぜたり、『スローイングダガー』を使うのは……ただ主力を――『バスタードソード』を光らせるためだ。要するに、俺の本質は『ツゥハンド』じゃない。


 ……先生はいまごろ、何をしてらっしゃるのだろう?

 もう首尾よくログアウトなさって……俺達が現実へ帰還できるよう、色々と奔走してくださってる最中だろうか?

 慌てて頭を振って、油断を戒める。

 それはいま考えるべきことじゃない。先生には先生の、俺には俺のやるべきことがある。いまはパーティの安全を確保するべく、斥候の任務に専念するべきだ。

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