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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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200/511

荒野――5

「さっきから流れてくるの……みんな同じ方向からじゃないか?」

 唐突に秋桜が、そんなことを言い出す。

 言われてみれば、その通りだった。中々に鋭い。……秋桜の癖に!

「流石ですわ、お姉様! お姉様の観察眼の鋭さには、この私、感心するばかりで――」

 すかさずリリーが、お追従を言う。

 ……この二人は自分達だけの時、ずっとこんな調子なのだろうか?

 少し見てみたい気もする。それに一つアドバイスもだ。

 甘やかしていたら、天狗になっちまうぞ? ただでさえ秋桜は、調子に乗りやすい奴なのに。

 そして無駄話してないで働け!

 いまこの瞬間も、リルフィーが変態的な動き………………天才的な動きで、モンスターを引き付けていた。その甲斐あって、原因を考える余裕がある。

 などと、色々なことを思ったが……もちろん、俺一人の心の中へ収めておく。

 ……誰だって痛い目に会い続ければ、未来予知が可能になる。見えてる地雷原へ進むのは、愚か者だけだ。

「でも、これじゃあ……いつまで経っても倒しきれないわよ? リルフィーくんだって、いつまでも続けられないだろうし……」

 思案気にリシアさんがいった。

 流石、リシアさんだ! リシアさんの気遣いの細やかさには、感心させられるばかりで――

「生きいきしてるリーくんを、もう少し見ていたい気もしますが……院長殿の仰る通りですね。何か手を打ちませんと」

 俺の思案を打ち破るように、ネリウムが酷いことを言い出した。

 やはり、『ブラッディさん』は、おっかない。このリルフィーの命懸けのダンスを、疲れ果てるまで御所望なのだろうか?

 しかし、それなのに……なぜか女性陣からは「はい、はい……」だの「ごちそうさま」などと、意味不明な感想が漏れた。さらになぜか、ネリウムは軽く赤くなっている。

 ……『女の人って、おっかない』が正しいのか?

 これは『過酷な責めにご満悦の女御主人様と、哀れな下僕の図式』なはずだ。

 しかし、そうでないとすると……俺もいつかは、あの命懸けのダンスか――それに類する危険なことを、要求されるのだろうか?

 そして、その命懸けの様子を……いまのような生暖かい目で、女性達から観られる?

 なんだろう……実は『あなたの知らない、本当は怖い女性の話』だったのか?


「私、少し偵察へ――軽く様子を見てまいりますわ。よろしいですわよね?」

 馬鹿なことを考えている内に、リリーから提案があった。

 ……ちなみに言っておくが、この馬鹿話をしながらも、俺達はちゃんと戦っている。

 リルフィー独りを働かせておいて、他の皆で馬鹿話――そんな酷いことはしてない。全員が熟練したプレイヤーで、無駄話をしながらでも動けるだけだ。

 ……誰もがいつかは、昨日観たテレビの話をしながらモンスターを八つ裂きにできるようになる。それが廃人への第一歩だ。まだ見習い以前ではあるが。

「待て、待て! その提案は妥当だが……偵察へは俺が行く!」

 慌ててリリーを止める。

 同時に狙い(タゲ)を確認するべく、少しパーティから離れた。

 ……上手い具合に、俺を狙うモンスターはいないようだ。これならすぐに動けるだろう。

「でも、タケル様……私には『隠密』のスキルがございますし――」

「いや、いや……近場のモンスターは、ほとんど集まっちまっているだろ。『隠密』を重視しなくても平気だ。それに、もし大量に隠れているようなら、それこそ俺が行った方がいい」

 多少、言い訳じみているが、筋は通っている……はずだ。しかし――

「えっ……で、でも……わ、私……その……守ってもらわなきゃいけないような、か弱い女と言うわけでも……」

 なにやらリリーはモゴモゴと、反対意見を言い始めた。

 しかし、俺もここで引くわけにはいかない。ここは譲れないポイントだ。

「気にするな……っていうか、俺がやりたいからやるだけだ。つまり、俺のワガママだな」

 ちなみに俺達の名誉と、リルフィーへの義理のために言っておくが……この会話の間も、きちんと戦い続けている。そんなのは当たり前だ。


 そして自分で行くのに拘ったのは、単純な理由がある。

 このままだと俺は……完全なお飾り、名前だけのパーティリーダーになってしまう! それだけは拙い! そんなことになったら、いわゆる『姫プレイ』だ!

 有名な俗言(スラング)にこんなのがある。『姫プが許されるのは、女子小中学生まで』と。

 たとえばカガチならば、中学生になったばかりの子供だ。

 多少ワガママなだけの、お飾りリーダーであろうとも、周りは許すだろう。それは子供をあやすようなもので、十分に理解できるはずだ。

 しかし、それを俺がやった日には……未来永劫に渡って、『姫プをしようとした男』の十字架を背負わされる! MMOは意外と評判が全ての世界であるから、名を惜しむのは大切なことだ。


 それにリスクを取らされる場面は、これまでにもあった。

 いまもそうだ。調べに行くか、現状維持で好転を祈るか……座死するかの、三つぐらいしか選択肢がない。

 しかし、他人を――特に女性を危険に送り出すのは、嫌だった。

 もちろん、感情論なのは理解している。VRMMOには男女差などない。精神の力だけが比べられる世界だ。

 そして、こんな考え方には弊害もある。

 裏を返せば「女だから弱い」という勘違いにもつながるし……誰にだって、自分の命を好きなように使う権利はあるはずだ。いまのような深刻な状況だからこそ、強くそう思う。

 それでも、嫌なものは嫌だ。

 秋桜やリリーが前線で戦っていることにだって、実は納得できてない。

 二人に「街で大人しくしていろ」といったところで聞きやしないし、俺が言う筋合いでもないだろう。

 だが、『デスゲーム』となったいまでは、とても当たり前には思えない。

 こんな身体を張るような――命を的にするような時に、自分でやれるのは……『戦士』が持つ圧倒的な強みじゃないだろうか?


「タ、タケル様が……そ、そこまで仰るのでしたら、こ、今回だけは譲ってさし上げますわ!」

 よし、上手く誤魔化せた!

 くだらない男の意地だが……いや、男の子の意地程度でしかないが、譲るつもりもない。なぜか軽く怒っているし、後々の交渉材料にされそうだが……とにかく今は、それだけで満足だ。しかし――

「今日は本当に……いい日で……満たさてしまいそうです」

「リリーちゃんったら……こうして妹達も大人になっていくのね。私、嬉しいけど……少し寂しいかも」

 などと冷やすのは、勘弁して欲しかった。もちろん、ネリウムと……珍しいことにリシアさんだ。

「あのなぁ、リリー……タケルはアレなんだぞ? 賢そうなこと言うけど……凄く馬鹿なんだぞ?」

「はぁ……タケルさん……やっぱり優しくてカッコいい……でも、もう……減らすしか?」

 などと意味不明な感想が続く。

 ……結局、女性には判ってもらえないのか。そう思ったところへ――

「なあ、いまの……わいが見ても良かったんか?」

「問題ありません。いまのは隊長にとって……通常運転に過ぎません」

 ジンとカイの会話も聞こえた。

 お前らもか! なんで同じ男なのに、共感してくれないんだ!

 ハチの野郎はいい笑顔で、親指を立てる仕草(サムズアップ)で返しやがるし!

 だが、まあ良い。これで目論見通りと言うものだ。

 そして聞き飽きただろうが、この雑談中にも俺達はきちんと戦いを――

「あ、あの……も、もうすこし処理に集中を……意外と大変なんっすよ!」

 と、リルフィーから文句を言われてしまった。珍しく、語気も荒い。

 ……少し、話に熱中しすぎてしまった。

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