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正式サービス開始初日

 いよいよ本日の正午、通称『セクロスのできるVRMMO』の――いや、これからは『セクロスのできないVRMMO』と呼ばれるゲームの正式サービスが開始される。

 VRマシーンに座って、これからの手順に思いを巡らす。

 だが、正午になるまではやるべきことがほとんど無い。残っているのはキャラクター再作成だけだ。

 念のために運営が設立しているメールサービスを最終確認しておく。

 一週間前にオープンβテストが終了して以来、俺達の連絡手段はこのメールだけとなっている。このサービスはゲーム内からでも、現実からでも利用できる優れものだ。あっても無くてもゲーム性は変わりやしないのだが、こういった細かい気配りが顧客満足度というやつを高めるのだろう。

 心配していた緊急連絡のメールは無かった。つまり、予定通りに作戦を遂行しろということだ。

 時間もあるし、アリサからのメールに返信をしておく。

 アリサは筆まめというか、メールまめというべきか……何かとメールを送ってくれる。毎日ゲームで会っているのだからと思わなくも無いが……嫌な気はしないので何となくメールでのやり取りも続いていた。

 しかし、たった一週間しか経っていないのに、なんだか随分とゲームから離れていた気がする。考えてみれば当たり前か。驚くべきことに俺はこの一週間、まったくVRゲームをしていない。

 ご無沙汰だった『最終幻想VRオンライン』をする良い機会だったはずなのだが……何となくそんな気にはなれなかった。我ながら不思議ではある。

 まあ、この一週間も『セクロスのできるVRMMO』の為に費やしたのだから、ゲームをしていたも同じか。

 最初の一日は睡眠不足を解消するだけで潰れた。

 続く数日はオープンβテスト潜入に使った仕込みの後始末――兄貴の名前を三八四四(さばずし)から元に戻すのに、家庭裁判所へ通う羽目となった。いつまでも兄の名前が三八四四では体裁が悪い。ばれない内に戻しておくべきだった。ちょうど夏休みになったばかりで助かったとも言える。

 そして今日からはじまる正式サービスに備えて、リアル関係の用事を片付けておいた。

 もう十年以上も学生をしている。夏休みの課題をなんとかするのに苦労はしなかった。……課題を提出可能にするのと、課題を真面目に取り組むのは別の問題でしかない。

 苦労したのは家族サービスの方だった。

 実は妹が一人いるのだが、これが典型的な末っ子の甘ったれな上に、中学生にもなって夢見がちなことばかり言っているので困りものだ。俺はありとあらゆる高尚な趣味を否定しないが、『妹萌え』だけは理解できそうもない。

 だが、まあ……一回家族サービスするだけで兄貴に貸しを作れて、妹も満足だったのだから一石二鳥だろう。これで夏休みを丸々『セクロスのできるVRMMO』に費やすことができる。後顧の憂いは無いというやつだ。

 アリサへメールの返信をしたついでに、掲示板の方も閲覧しておく。

 ごく普通のインターネット掲示板の類だが、これも運営が用意している。やはりゲーム内からでも、現実からでも利用できて便利だ。

 これはプレイヤー間の情報交換の場として重宝するし……情報操作の場としても活用される。人によっては第二の戦場と呼ぶし、俺もその戦場に身を投じている者だ。

 しかし、たいした情報は流れていなかった。なんとなくだが、全員が息を殺してこれから起きる出来事――正式サービス開始を待ちわびている印象を受けた。……少し考えすぎか?

 なぜだか解からないが、とてもソワソワした気分だ。

 いや、理由は判明している。正午からの正式サービス開始が原因だ。

 待ち遠しくもある。楽しみでもある。でも、何よりも不安だ。

 俺達は最善を尽くした。抜かりは無いはずだ。でも、しかし、万が一にでも――

 解析に間違いがあったら?

 立案した作戦に誤りがあったら?

 予想外の仕様変更が為されていたら?

 ……まずは落ち着こう。自分で不安を生み出して、それに押し潰されるようではいけない。大丈夫だ。俺達はベストを尽くした。だから大丈夫のはずだ。

 そう自分に言い聞かせながらも……オープンβテストの頃を思い返さずにはいられなかった。

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