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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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荒野――2

 リルフィーが手に持った松明を、前方へ力一杯に投げつけた。俺の返事すら待たなかったから、ほとんど号令と同時になったか?

 その判断は大正解だった。なぜなら明かりが――俺達の領域が、広がるからだ。

 予想通りに『スケルトン』に『ゾンビ』と、雑魚ばかりだが……尋常な数じゃない。

 すぐに確認できるだけで、二桁以上はいる。そして明かりの外にも、まだいるようだから……見えている倍以上はいるか? いや、もっとかもしれない。

 ……最悪だ。

 誰か走った結果なのか? それとも狩場を使わないと――過疎化すると、集まる性質でもある?


 なによりも数押しは厄介だ。

 モンスターの強い弱いの問題よりも先の話となる。

 俺達『戦士』なら、がんばれば一人当たり四匹は受け持てるだろう。リリーも――『盗賊』でも三匹いけるか?

 その計算通りにいっても、前衛陣で十九匹の対応が限度となる。

 漏れた分は後衛で対応となるが……上手いプレイヤーで二匹、普通は一匹に取り付かれるだけで手一杯だ。

 しかも、その間は前衛へのサポートも止まってしまう。それで前衛はさらに苦しくなり、処理に余計な時間がかかる。なかなか後衛を助けに行けない。

 いつまでたっても前衛がモンスターを剥がしてくれないから、後衛は身を守るので精一杯の状態が続く。

 そして後衛のサポートが止まりっぱなしだから、さらに――


 いったん負のスパイラルに陥ったら、脱出方法は無いに等しい。

 どうにもならないハマリ回避のためにも、可能な限り事前に対応策を練っておく。結局はそれに尽きる。

 MMOの……というよりも、マルチプレイヤーゲームの鉄則だ。

 いまから相談しても良いアイデアなんて出ないし、そんな時間も無い。もう各自のセオリー任せにするしか……いや、最終プランを使うか?


 このゲームにも緊急離脱の方法が実装されている。

 オフラインRPGなどでは定番の極みだから、すぐに理解できると思う。いままで遊んだRPGゲームにも、必ずあったはずだ。使うと即時に戦闘から離脱できるアイテムや魔法、スキル、コマンドが。

 簡単に言えば『にげる』のコマンドがあるだけで、それは緊急離脱の一種と見做せる。


 ただ、MMOでは、単純に『にげる』ことはできない。

 これは一回でも試しただけで、すぐに納得できる。

 モンスター相手――まあ、プレイヤーでも同じだ――から逃げたとしよう。当然、相手は追いかけてくる。

 ここで相手より移動速度が遅かったら、絶対に逃げられない。

 だが、相手より速ければいいのかというと……それも微妙だったりする。

 一瞬でも圧倒的な距離を取れれば、それで逃げおおせそうにも思えるだろう。しかし、それだけ一気に移動したら……必ず別のモンスターに発見される。

 新手のモンスターから再び逃げても、その際に別のモンスターからターゲットにされるのが落ちだ。

 そして、それを数回ほど繰り返してしまうと……どの方角へ逃げてもモンスターが居るという、どん詰まり(デッドエンド)へ追い込まれる。

 ……プレイヤー間で『走った』などと表現される結果だ。


 そしてシビアでハードなMMOなどでは、一切の緊急離脱を実装していない。または条件が限定的過ぎて、実用的じゃないシステムもある。

 そんなゲームで絶体絶命の窮地に陥ったら、どうなるのか?

 驚くほどシンプルな回答が用意されている。

 「残念ながら貴方達の冒険は終わってしまった」だ。

 死がゲームに組み込まれている以上、無謀な挑戦への見返りは過酷なものとなる。いや、なにひとつ責任のない不運が原因だろうと……ただの言い訳にしか見做されない。

 それが『ゲーム』というものだし……要するに、たんなる味付けの問題だろう。


 しかし、俺達がいましているのはゲームじゃない。

 ゲームはゲームでも『デスゲーム』な、命懸けのサバイバルだ。死因が「ツイてなかった」では、納得できる訳がない。

 だが幸いなことに、『セクロスのできるVRMMO』は辛口なゲームではなかった。緊急離脱の方法は実装されている。それも比較的簡単で、確実なものが!

 それが『翼の護符』だ。

 使えば瞬時に無敵となり、最も近くの街へと飛ばされる。どんなに絶望的な戦況だろうと、これさえあれば死なないで済む。

 もう全員で『翼の護符』を使い、即時撤退もありか?

 こんなところでモンスター相手に意地を張っても、なんの得にもならない。

 仲間の命と利益だけが至上命題だ。たとえ臆病者と謗られても――


 撤収を号令しようとした矢先、リルフィーの奴が数歩前進した。

「ネリー、ちょっときついかも! お願い!」

 後ろも見ずに、そんなことを言う。何をする気だ?

「……気をつけて、リーくん。『防御』(プロテクション)

 あれだけで通じたらしく、ネリウムが『プロテクション』の魔法をかけた。

 『プロテクション』は持続時間とMP効率の問題で、常用は厳しいが……ダメージを軽減してくれ、それなりに頼りになる。

 ただ、ネリウムが使うのは珍しかった。普段はたった一人の『僧侶』だから、そんな余裕はない。

 それで軽く驚いていたところへ、さらに驚愕させられた。

「ありがとう、ネリー! ――『威圧効果』」

 なんとモンスター集団のど真ん中、正面へ向けて『威圧』のスキルを使ったのだ!

 もちろん、十数匹にもなろうというモンスターは、リルフィーへ狙いを定める。なにを考えてんだ? 死ぬ気か?

 だが、危ういところで叱責の言葉を飲み込めた。奴の方が正しい。


 全員で『翼の護符』を使えば、安全確実に緊急離脱はできる。

 しかし、それだけだ。状況は何一つとして好転しない。

 かといって、『荒野』の探索も諦めたくない。少なくとも『岩山』までは確認しておくべきだ。それが正しいと思ったからの、遠征でもある。

 だが、仮に再出撃して戻ってきても、全く変わらない状況と遭遇するはずだ。

 そのときにも……また緊急離脱を繰り返す? それでは未来永劫、『岩山』へ辿り着けやしない。全く意味のない堂々巡りだ。

 結局、どこかでなんとかして、状況を変える必要がある。

 その最初の一回が今なのだし、メインタンクとして初手をきったリルフィーは正しい。その勇敢さは賞賛にも値する。

 とにかく奴が動かなければ、全員が動けない――何も始まらないのだから。

「よし、俺は左な! 『不落』の!」

 そうウリクセスは言いながら、やや左側へ向けて松明を投げる。

「えっ? じゃ、じゃあ私は右……なの?」

 秋桜は軽く挙動不審になりながらも、やや右側へ松明を投げた。

 それで状況は、より明確になったが……案の定、モンスターがさらに確認できただけだ。これは……俺達の数倍はいるかもしれない。

「二人は少なめに取れよ! それからリルフィー! 無理するな……っていうか、死ぬな! 危なくなったら躊躇わずに『翼の護符』を使え(とべ)! 他の奴も……リルフィーが飛んだら、すぐに飛べ! 迷うな、誰かを道連れにしちまう!」

 そう言いながら、俺も松明を放り投げる。

 ……激戦が始まろうとしていた。

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