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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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作戦会議――2

「それから、リリー……斥候を頼めるか?」

 礼儀として質問の形にしたが、確信はあった。

 戦争の時に本陣強襲してきた度胸と技量から考えたら、リリーのクラスは『盗賊』といっても……先行偵察兵(スカウト)よりな性格付けのはずだ。得意分野での要請と言ってもいい。

「お安い御用ですわ。なんでしたら長距離偵察も――」

「待った! 斥候は賛成しない!」

 なぜかウリクセスが、止めに入った。

 おそらくリリーは『隠密』のスキルを持っている。それならモンスターに気付かれることなく前方の様子を確認し、報告に本隊へ戻るのも可能だ。

 先に数だけでも判明しているのと、遭遇してからプランを考えるのでは天と地の差がある。やや難易度は高いが、偵察は常套手段な必須テクニックだ。

 どうしてウリクセスは反対するのだろう?

「いや、ほら……うーん? いまって、ちょうどメンテ明けと同じだろ?」

 それで言わんとすることが理解できた。

 確かに斥候へ出すのは、危険すぎるかもしれない。


 大半のネットゲームでは週に一回、決められた時間に、定期メンテナンスを実施する。この『セクロスのできるVRMMO』でも同様だ。

 メンテ明けとは、その定期メンテナンス明けの意味で……MMOでは特に、狩場の状態について大きな意味を持つ。

 定期メンテそのものは、仕方のないことではある。

 ゲームとして成立し続けるためには、定期的に保守点検の必要があるだろう。だが副産物として、狩場には異常事態が発生する。

 基本的に狩場は『常にプレイヤーが使っている』前提だ。

 これはこれで正しい。一週間の内でほとんどは、その前提に沿っている。

 しかし、定期メンテナンス終了直後は――メンテ明け直後は、誰一人として狩場に居ない。

 当たり前だ。定期メンテ開始の段階で、全てのプレイヤーは強制ログアウト(キック)されている。居るわけがない。

 結果、前提が覆されて……狩場は異常な事態となってしまう。

 これは狩場のモンスターを割り振ってしまえば、簡単に理解可能だ。

 ある狩場に百匹のモンスターが湧くとする。

 日常的に十パーティ前後が狩場を使用していれば、一パーティ辺りの割り当ては十匹だ。それで楽勝なのか、それとも苦戦するかはパーティの実力次第だが……ゲームバランスは取れているだろう。

 しかし、その狩場へ最初に――メンテ明け直後に赴いた場合はどうなるか?

 最低最悪な結果を想定したら……一パーティ対モンスター百匹の、地獄絵図になってしまう!

 メンテ明けに狩場へ行くときは要注意。

 システム側で色々な配慮された今日でも、いまだに通用するセオリーだ。


「となると……牛歩か?」

「その方が無難だと思う。斥候でしくじっても、即死はないだろうが……『翼の護符』で緊急離脱にでもなれば、ただ戦力を減らすだけだし。さらに最悪なことに、パーティメッセージも使えんから……その連絡すらできない」

 さすがにウリクセスは、トップ廃人ギルド『ヴァルハラ』のリーダーだ。

 作戦立案も合理的だし、安定重視なのも好感が持てる。声を掛けたのは大正解だった。リルフィーの奴も、これぐらい頼れる相談相手になってくくれば。

 そんなことを考えながら横目で見てみると……我関せずとばかりに、『奇剣(おもちゃ)』で遊んでやがった。

 ……少し見直したのに、油断するとすぐこれだ。トレードは『ヴァルハラ』の奴らが応じないだろうから……もう自由契約でいい気がしてくる。


 そして牛歩の結論にも、全員が落胆を隠しきれてない。……まあリルフィーの奴は、アレだが。

 『牛歩』は行動方針の一つで、文字通りに牛歩――極端にいったら一歩進んでは確認するという、地味な作戦だ。

 だが『一気に大量のモンスターと!』なんて遭遇を――大事故を避け易くなる。

 つまり、一匹でもモンスターと遭遇したら、いったん引きつけて各個撃破を狙う。それもモンスターを発見する度にだ。

 しかし、当然のことながら進軍速度は遅くなるし、精神的にも疲れやすい。……一歩ごとにピリピリしながらでは、仕方がないことだろう。

 普通は未知の狩場、それも高難易度が確定しているような場合にしかやらないし……人気もすこぶる悪い。

 俺なんかは考える時間は多く取れるし、負けが回避しやすく、逃げも打ちやすいという……至れり尽くせりな作戦に思えるのだが、その辺は人それぞれか。


「……詳しいですね」

「そうですわね……慣れている感じがいたしますわ」

 カイとリリーがそんなことを言い出した。

 まあ、俺だって同じ感想は持ったから、おかしくはないが……軽く流して欲しいところだ。そんなのは脇道でしかない。「後にしろ」と言い掛けたところで――

「はぁ……さすがに気付くか。ああ、経験済みだ。メンテ明けダッシュは、やったことがある。あまり成功しなかったけどな」

 呆れながらのウリクセスが、先回りの告白をした。

 いま現在は共闘中だが、本来、俺達はお互いが競争相手だ。

 ときにボス狩りで先を争い、美味い狩場の取り合いで揉め、効率の良い攻略法を盗みあっている。

 カイとリリーの反応は、その習性ともいうべきだが……苦笑いしかでない。結局、俺達はMMOプレイヤーということか。

 そしてウリクセスのいった『メンテ明けダッシュ』も、古典レベルの作戦だ。

 ボスの出現タイミング――時間は、場合によってはかなり正確な時刻を特定できる。

 その特定できた時間が、たまたま定期メンテ終了直後だった場合、出現したボスはどうなるのか?

 なかなか興味深いテーマだが、もちろん早い者勝ちに決まっている。つまり、倒したかったらボスの出現位置まで走るしかない。

「一応いっておくけど、協定のできる前のことだし……そんなに成功もしてないからな? ただ、まあ……意外とゴリ押しでも行けた。でも、そんときは斥候を立ててたし、他のチームと競争に――危険を分け合う形になったからな」

 なかなか貴重な情報だ。

 つまりは可能な範囲の難しさで、達成したものもいる。細かく言うのであれば、今回は競争じゃない。その分だけ楽にもなる。

 ……単独の一パーティな分だけ、難しくもなるが。

「あー……とにかく、そういうことにして流せ」

 そういうとカイは無言で肩を竦め――

「タケル様がそう仰るのなら、お顔を立てて差し上げますわ」

 とリリーも応じる。

 ……俺が何か埋め合わせする流れなのか?

 そうなんだろうなぁ。激しく納得はいかないが、リリーは例の……凄く邪悪な顔で微笑んでいるし。

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