作戦会議――1
「よし! それじゃ行くぞ! ……もう余計な用事は無いよな?」
「余計な用事も何も……タケル『くん』が、幼女と遊んでたんやないか」
「う、うるせえ! そんな言い方するんじゃねぇ! ガチだと思われるだろうが!」
ジンの容赦の無いツッコミに、精一杯の抗議をしておく。
だが、やっと出発となったものの、まだ全然進めていない。背後には『あかスライム』狩りの行列や、篝火が見えるくらいだ。
確かに、一番に脱線していたのは俺かもしれない。
カガチを追い払うのに――自分も連れて行けとゴネたのを説得させるのに、少しだけ時間は掛かった。……なんで俺が、カガチに土産を約束しなくちゃいけないんだ?
しかし、素晴らしく短時間で難問解決したはずで、むしろ賞賛に値してもおかしくない。なのに女性陣からは――
「も、もう減らすしか手段は残って……」
「やっぱり……タケルは……小児性愛者さんなのか?」
「違いますわよ、お姉様。タケル様は……博愛主義者なんですわ!」
などと好き勝手な意見が上がるし――
野郎どもは何もコメントしないで、さり気なく目を逸らしやがった!
失礼だとは思わないのか!
……いや考えようによっては、礼を弁えた態度……なのか?
「とにかく! 出発するぞ! とりあえず、当面の目的地は『岩山』だ! その結果で、計画の再検討をする。さらに狩場を進むか、そこで切り上げるかだな」
もう一度号令を掛けたら、やる気の感じられない声が返ってきた。
さすがにムッとしたが……いまは流すのが正解だ。いま議論をしたら、絶対に大火傷の予感がする。
「じゃ、リルフィーがメインタンクで……秋桜、サブいけるか?」
「できるに決まってるだろ!」
……なんで「できるよ」だとか「任せて」と返さないんだ? 秋桜がもっと素直になってくれれば、いちいち口喧嘩にならないで済むものを。
だが、いまは意地の張り合いをする時間は無い。軽く肯き返すだけにしておく。
「それでウリクセス、お前は……何してんだ?」
「うん? いや、夜の『荒野』なら、こっちの方が良いだろうと思って」
そう言いながらウリクセスは、メニューウィンドウから大きなハンマー――戦鎚を取り出した。
一瞬、戦鎚から赤い光――炎のオーラみたいなのが見えたから、『火』のエッセンスを込めてあるのか?
「……お前、剣じゃないんだ?」
「剣も使うぜ? でも剣には『水』を入れてんだ。ここでは『火』の方が有利だろうし……骨を相手に剣とか、いまいちに感じるんだよな」
などと、さらっと凄いことを言われた。
おそらく剣には『魔』のエッセンスが二重、そこに『水』を追加してあるのだろう。それが序盤でのセオリーだし、リスクの高いオーバーエンチャントを回避可能だ。
そして、さらに『火』版として戦鎚も所持している。そういう意味だろう。
だが、そのどちらか片方だけでも凄い。
『鋼』グレードの武器に『魔』のエッセンスを二重に込め、何かしらの属性を付けるのは……前衛クラスにとって、最初の大目標だ。
いくら便利といっても、気軽に二種類も用意できるものじゃないし……廃人の本領発揮といったところか。
「確かにスケルトン相手に剣だと、いまいち効果が薄い感じはする。でも、知ってるよな? その手のルール無いの?」
「もちろん知ってる。たんなる気分の問題」
確認を取っておくと、肩を竦められたが……貧乏に喘ぐ前衛職が聞いたら、ムッとしたと思う。
いや、その辺の機微すら理解できなくなるから、廃人と呼ばれるのか。
「うーん……悩むな。それじゃあ、俺が三枚目のタンクになるかな。要するにアタッカータイプなんだろ?」
「うん? 違うぞ? 俺がタンクでも良いぜ? タケルは完全にアタッカーなんだろ? あれなんだよ、俺は火力型じゃない。『体力』トップでバランス取って、スキルも広く習得した……タケル達の分類でユーティリティータイプ。盾も持ってるぜ?」
それで理解できた。
ギルドマスターのウリクセスには、大将型がベターだが……抗争や戦争を主眼に置いてなければ、無駄ともいえる。
そして大将型でなくても良いなら、好みで選べばいい。だが、そこでギルドの事情に配慮したのかもしれない。
つまり、アタッカーとタンクの両方ができる万能型を――ユーティリティータイプを選んだのだろう。
これならパーティ編成に融通が利く。ギルドハント中心なら、その手のバランサーは貴重なはずだ。反面、奴自身には尖った長所が無くなってしまうが。
「お前は後衛ガードな!」
期待に満ちた目をしたハイセンツに、駄目を出しておく。
俺を含めて四枚も前衛がいるのだから、第二王子とはいえ『僧侶』の出番は無い。
そして不思議そうな顔のカイに、問い質しておく。
「――で、何を考え込んでんだ?」
「いえ……気のせいかもしれませんし、後で……」
なんとも煮え切らない返事だ。
しかし、カイが後でも良いと判断したのなら、その判断に従うべきか。
「そうなのか? ――それじゃ次は『魔法使い』のエンチャント分担な。アリサが武器系を受け持って、『エンチャントシールド』をカイとジンで」
「そりゃ……えらく偏らんか? もう少し分担したほうが――」
実際、ジンの言うように偏っている。
「『ファイヤーウェポン』とかの……属性付与も習得してるのか?」
「うへ……そういうことかいな。了解や」
「マジで? まだ無属性武器は用意できてないぜ……」
ウリクセスは素っ頓狂なことを言い出す。こんな序盤に、三本目の武器まで用意できてたまるか!
なぜこんな話になるかというと……『ファイヤーウェポン』の魔法は『エンチャントウェポン』の完全上位互換ではあるが、対象の武器が無属性でなければ使用できないからだ。
この仕様がエンチャンターが不遇というか、報われない理由なのだが……俺なんかは最初からエンチャンターに――アリサに合わせているから平気だったりする。
「とにかく! ウリクセス以外は『ファイヤーウェポン』な!」
俺の決定に、アリサが肯く。




