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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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捜索――2

 南から城壁を出れば、すぐに荒野なのだが……どうにも様子がおかしかった。

 まず、夜なのに――ゲーム世界は夜なのに、かなり明るい。

 戦国時代の物語に登場するような大掛かりな篝火が、いくつも用意されていて……それこそ隈なく照らしているからだ。

 そして、その篝火には見覚えがあった。

「……アレ、うちのか?」

 カイに訊ねてみても、険しい顔で首を振られる。関知していないという意味か?

 しかし、戦訓を元に開発した野戦用装備のうち一つなはずで……攻略チーム謹製なのは間違いないと思う。つまり、厳密にいえば秘匿兵器だ。

 さらにその場のプレイヤー達も、かなり奇妙な振る舞いをしていた。

 いくつかの行列に、行儀良く並んでいる。

 ……MMOに慣れていれば、理解は難しくない。もう、定番の行動様式ともいえた。説明されなくても推測できる。

 これは順番待ちを始めているに違いない。

 眺めていた僅かな間にも、奥の方から――荒野の方からプレイヤーが戻ってくる。手には『基本溶液』をいくつか持っている。おそらく『あかスライム』からのドロップだろう。

 そして先頭の辺りを通りしな――

「お待たせしました。次の方どうぞ」

 などと声を掛けている。

 話し掛けられた先頭だった奴も何か返事をしながら、入れ替わるように荒野の方へ向かっていく。

 おそらく比較的安全な『あかスライム』狩りに人が押し寄せた結果、狩場が飽和してしまったのだろう。

 そこでモンスターのリポップ――再出現をコントロールというか、阻害しないように全員で協力しているのだ。


 実はMMOに出現するモンスターには、登場シーンが存在しないのが普通だ。

 稀にボスなどの重要モンスターなら、固有の登場用エフェクトを持っていることはある。

 例えば炎の巨人であれば……どこからともなく炎が渦を巻きながら一点に集まり、それから爆発するように広がって、最後には巨人の姿へ変化するなどだ。

 しかし、そういうのは少数派で珍しい部類となる。

 ゲームデザイナーの表現したいことは判るし、初見では感動や興奮ものでも……簡単に悪用できてしまうからだ。

 例に示した炎の巨人などで言えば……空気中に炎の渦が発生した途端に、前衛職が先を争うように駆けつける。

 それはもちろん、その渦の中にボスが登場するからだ。

 普通は目撃するのも大変なのに、わざわざ出現場所を予告……それは「取り囲んでください」と言っているのに等しい。

 出現前から完全に取り囲まれた上に、さらに出現と同時に――どころか、当たり判定が発生する前から攻撃開始され、文字通りに瞬殺される。

 登場エフェクトが華麗だったり、かっこよかったりしたら……その分だけ惨めで涙を誘うことだろう。

 もちろんボスではない雑魚にも、同様の攻略法が通じてしまう。

 その問題に対応した結果、MMOのモンスターは出現エフェクトを持たなくなった。

 苦肉の策として、モンスターは『近くにプレイヤーが居らず、誰も見ていない瞬間』に再出現する。これは定番の仕様といってもいいだろう。


 だが、このシステムには弊害もあった。

 いま現在の城壁周辺のように、大量のプレイヤーが押し寄せると……『近くにプレイヤーが居らず、誰も見ていない瞬間』が発生しなくなってしまう。

 これを人為的に引き起こす『湧き潰し』というテクニックもあるにはあるが、普通は非常に困る。

 新しく湧かない状態で、すでに出現している分を倒し続けたら……狩場のモンスターが枯渇してしまうからだ。再出現の条件を満たせないのだから、追加はされない。

 結果、誰一人としてモンスターを狩れないどころか……目撃すら困難となる。

 狩れたところで非常に効率は悪いし、取り合いでギスギスした空気にもなるだろう。発見したモンスターの所有権を巡って口論になったり……最終的にPK沙汰へ発展すら珍しくない。

 そんなときの解決策に、行列を作る方法があった。

 全員で狩場に散らばっていたら『近くにプレイヤーが居らず、誰も見ていない瞬間』にならない。ならば固まって待機することにして、狩場へ行くのは一人ずつ順番にというシステムだ。

 故意に空白地を作れば『近くにプレイヤーが居らず、誰も見ていない瞬間』も発生する。上手にやれば、新たに湧く場所や個体数のコントロールすら可能だろう。

 そうやって再登場させたモンスターを、交代制で順番に倒していく。

 極めて作業的だが、意外と不平は少なかったりする。無秩序に取り合いをしたときのストレスに比べたら、遥かにマシだ。

 例えば『あかスライム』を一匹狩るのに一時間掛かったなどになったら……煮えたぎってしまうだろう。それなら大人しく並んていた方が、精神衛生上には良い。


 それに『あかスライム』待ちの行列ができるのも、初めてではなかった。

 正式サービス開始初日にも、自然発生したと聞く。

 ……もちろん俺達『RSS騎士団』と『不落の砦』が共謀して、『ゴブリンの森』を封鎖したのが原因だ。

 ただでさえ初日で混雑は必至だったところへ、初期狩場の半分を潰された結果、プレイヤーが『あかスライム』狩りへ押し寄せれば飽和してしまう。取り合いや喧嘩なども、けっこうあったらしい。

 その結果としてのブレーキは――自分達以外の全ライバルの遅れは、さらなる俺達の利益となったのだが……いまは逆に厄介事の種となりそうだ。

 少なくとも初日に割を食わされた奴らが、古い怨恨を思い出していてもおかしくはない。


 また、ちゃっかり『モホーク』の奴らが並んでいて、微妙な気分を助長させられる。

 トレードマークの世紀末野盗ルックなままだから、すぐに『モホーク』の一員と判別できた。その姿で行儀良く並んでいるのは、乾いた笑いすら誘いそうだ。

 もし平時のモヒカンが、この風景を見れば……即座に襲撃を企画したんじゃないだろうか?

 無秩序に暴れるのが好きな奴らで集まったのが、『モホーク』というギルドだ。この予想は失礼ですらないし……実際、初日には襲撃したのか?

 だが、ゲームと同じ感覚での無差別攻撃など、もはや許されることではない。

 現状ではやられる方も黙っていないだろう。当たり前だ。ぼんやりと死を選ぶ奴なんていない。

 そして襲撃する側だって、命懸けとなる。

 視界内全てが――自分達以外は全員が敵なんてのは、ゲームや遊びでなら面白いかもしれないが……リアルで考えたら絶体絶命のピンチでしかない。


 そして行列から離れた位置には、なぜか数名が屯っていて――

「一人三匹までで、お願いしてます! 三匹で次の方へ回しましょう!」

 などと『大声』で触れ回っていた。

 急遽作られたハウスルールだろうか?

 『あかスライム』三匹からの収入など、少な過ぎて泣けてきそうだが……完全にノーリスクで金貨を稼げて、暇つぶしと考えればアリかもしれない。

 念のために仕切り役の所属ギルドを調べてみれば、『自由の翼』の名前が浮かび上がる。ジンが裏で糸を引いているのか?

 ……下手に口を挟まない方が、平和裏に治まりそうな気はする。

 仮に俺が――『RSS騎士団』が仕切ろうとしたら、マルクのような奴が文句を言い出すに決まっていた。それはもう、先の話し合いで思い知らされている。

 『モホーク』の奴らや、俺達『RSS騎士団』はやり過ぎた。

 いまや一般の奴らとは、話し合いに持ち込むのすら困難に感じる。モヒカンが守りに入ったのも納得だ。

 混乱状態ないま、俺達のような……いわば悪役(ヒール)は、大人しく口を噤んでいるべきなのだろう。

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