預かり受けたもの――2
「バランスは……確かに隊長のと違う。理由はステ差……か? でも、コンセプトは同じだと思う。飾りが少しあるけど、設計思想もだろうな。これ、隊長式の剣?」
「逆。俺が影響受けて真似した。元々、俺は火力型なら両手武器を振り回す――シドウさんみたいなスタイルだったんだ」
腕力を長所にした場合、最大の売りは攻撃力――火力の高さとなる。
キャラクター側で最大火力となるようにしたのだから、武器選択も同じように。それが基本的なセオリーとなる。まあ、俺の場合は剣を選択で、少し妥協をしているのだが。
しかし、先生は俺と同じ剣類を選択なのに、両手剣ではなかった。半端もいいところの『バスタードソード』だ。
おそらくは、いくつかのVRMMOを経験した上での結論だと思う。
それを俺は見よう見まねで盗み、なんとなく自分のものとして今に至る。……考えてみると、よく先生に文句を言われなかったものだ。
いや、坊主、坊主と未熟者呼ばわりされたが、その分……俺は色々と見逃してもらってたり、さりげなく気遣ってもらっていた気もする。昨日のことだってそうだろう。
……なんだか沈んだ気分になってしまいそうだ。首を振って気分を入れ替えようとしてみる。
見れば二人とも、『先生の剣』の観察に熱中していた。
技術屋的な興味が尽きないのだろう。急かすこともないし、大人しく飽きるのを待つことにした。その内、作業開始してくれるだろう。
必然、手持ち無沙汰になったので、渡された『奇剣』を観察してみる。
全体的には真っ直ぐすぎるほどの、いわゆる直剣のシルエットだ。
しかし、その刀身は若葉マークを逆さにして、縦に積み重ねたというか……超横長な『く』の字を、横倒しして積み重ねたというか……非常に独特な形になっていた。
軽く振ってみると、よくしなる。というよりも、しなり過ぎるぐらいだ。
やはり『逆さ若葉マーク』は模様や柄ではなく、パーツとして独立していた。
打鞭の類だろうか? 絡み取ったりすることより、叩くことに主眼を置いた……棍棒のように使うタイプがある。しなりを持たせて、エネルギー伝達を高効率にするはずだ。
それにしては、しなりが少ない気する。ぎりぎり剣として使用を出来そうな、確りとした硬さ。
それに握りに付いた指環には、『トリガー』があった!
『剣』で、『指環付き』。さらに指環には引鉄が――『トリガー』が付いている。
男心をくすぐり過ぎるというか、厨二力が全力全開というか……少し楽しくなってきた。
「この引鉄……引いてみても良い?」
「良いぜ。でも最初は、振りながらは止めた方が良い。それと先に鍔のハンドルで、鎖を巻き上げといた方が良いな。で、ここの意匠は、俺が思うに――」
ヴァルさんは答えてくれたものの、こちらを見もしなかった。二人して観察に夢中だ。
軽い溜息に留め、言われた通りに鍔元を観察する。鍔元は丸くなっていたが、それはどうやらデザインではなく機能の故らしい。折りたたみ式のハンドルが収納されていた。
これはどうなんだろう? まるで釣具のリールみたいな感じだか……期待と不安で一杯になりつつも、折りたたみハンドルを展開し巻き上げる。
鉄の――鋼鉄製のギアが動き、鎖が巻き上げられていく……そんな無骨な音がした。
……アリか? ギアード・ウェポン。言葉にするとそうなるのだろうか? 期待が高まってしまうじゃないか!
ついに鎖を全て巻き上げきると、内部で鋼鉄が跳ね上がったような音がした。ストッパーか何かが起動したのか? あわせて柄の親指側に、これまた鋼鉄製のボタンが跳ね上がってきている。
おそらく、このボタンを押すと鎖のストッパーが自由になって、また先ほどのように鎖が伸びるのか?
全く用途が読めない。いざと言うときには輪っかを握り、鎖を操って防御したりするのだろうか?
とにかく『奇剣』は、パッと見は普通の直剣となった。
柄頭の輪っかはデザイン――明らかに無駄ではある――と見做されるだろう。良くしなる特徴も、使い手にしか影響しないはずだ。
試しに二、三度振ってみる。
やはり、剣だ。俺の好みだと少し重心が均一すぎる。もしくは僅かに剣先に偏っているのが気になるが……剣で間違いない。
いよいよ『トリガー』の操作だ!
ワクワクしながら、剣先を突きつける姿勢で引鉄を引いてみる!
しかし、なんというか……思いっきり期待は外された。鎖がじゃらじゃらと擦れる音を立てながら、剣は――
フニャっと折れ曲がってしまったのだ。
どうも『逆さ若葉マーク』は鎖で繋がれていて、その鎖を引っ張っていたから棒状になっていたらしい。いまや刀身ではなく、『逆さ若葉マーク』を数珠繋ぎにした……なんだろう? 鞭か何かへ様変わりしていた。
呆然としながらも、意味を考える。
唐突に理解できた。これは変形武器だ! それも……これは『アキバ堂』よりの設計思想だろう!
元ネタとか、正式名称だとか――俺にはちょっと特定できないが、創作で見たことがある。
日常的には剣のように使う。しかし、突然に鞭のように長く、そしてしなり……戦闘スタイルごと激変するのだ。
そうと判れば、輪っかの用途も想像がつく。とにかく引っ張れば良いはずだ。
数珠繋ぎ状態の『逆さ若葉マーク』が、次々と合体していく。硬い鋼の跳ね上がる音とともに、指環と一体化してしまっていた『トリガー』も飛び出てくる。予想通りに鞭バージョンから、剣バージョンへ変形だ。
……剣と鞭の二形態を持つ、ギア式変形武器。
これこそVRゲームでしか――決して壊れない素材でしか製作できない代物だ。
現実では要求に耐えうる強度の鎖が作れない。それにギア内蔵の接近戦武器、しかも変形機能付きなど……一合か二合で、どこかおかしくなるに決まっている。
「な、インチキだろ?」
ディクさんが同意を求めてくる。
……どうだろう?
実利主義ともいえるヴァルさんの作品にしては、ロマンを求めすぎとは思うが……悪くもないと感じた。
どこかで見かけたヒーローの持っていた武器。それを欲しいと思うのは、人として普通なんじゃないだろうか?
「うーん……巻き上げ機構が気になりましたけど……それを除けば、人それぞれかと。好きな奴は好きだと思いますよ。……シビアな戦闘では考えもの……いや、隠し技としてはアリなのかなぁ……」
「まあ、俺も手動はアレとは思った。電動式が使えれば良かったんだが。……『アキバ堂』の作品に、かなり感銘を受けてな。それで試作してみたんだ」
ヴァルさんは渋い顔をしながらも、説明してくれる。まだ完成の手ごたえは無いのかもしれない。
影響を受けたというのは初耳だったが、理解も出来た。
先生方はああいう人達で、我が道を行く感じだが……その分だけ影響力もある。俺やヴァルさんが影響を受けたのが、その証拠だ。
意外と剣以外にも、俺達は預かっているのかもしれない。
その先生方にしても、未熟な頃はおありだろうし……誰かしらの影響も受けていらっしゃるはずだ。そのうち俺だって、誰かに影響を与えるだろう。
結局、誰一人として、一人ではこの場に辿り着いていない。そんなところだろうか?




