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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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175/511

預かり受けたもの――1

「……何してんですか?」

「なんだ隊長か。ちょうど良いところに来た。ちょっと手伝ってくれ。それと何か用か?」

 兵站課へ赴いた俺を出迎えたのは、血塗れのヴァルカンさんだった。手には風変わりな長剣を持っている。

「まさか模擬戦か何かを?」

「違う。さすがにそんなことをしないぜ。自爆ダメージばかりだから、見た目ほどHPは減ってない。半減されるしな」

 自分で自分を攻撃してもHPは減るが、パーティ内攻撃と同様に半減される。……だからといって、安全な訳でもないのだが。

 兵站課の部屋には、手狭だが武器を振り回せるスペースを設けてあった。団員へ支給する武具を、この場で確認できるようにとの配慮だ。

 その簡易練武場とでもいう場所の中央で、奇妙な剣を振っていたらしい。しかし、剣の試し振りで自爆――自傷とは不可解ではある。

 また、その剣の刀身は見たこともない形状だった。

 若葉マークが縦に並んだというか、槍の穂先を積み重ねたというか……なんとも言いがたい。それでも凸凹は殆ど無く、真っ直ぐだ。最初に長剣と思った理由でもある。

 片手専用なのか指環付きの拵えに……柄頭から、肩幅より長い程度の鎖が伸びていた。鎖の反対側は輪っか状で、ちょうど電車やバスの吊革に似ている。事実、ヴァルさんは逆の手で、その輪を持っていた。両手用の武器なのか?

「あれだ。また奇剣作りさ。史実に無かったから駄目とは言わないが、現実化が不可能なのはズルだと思うぜ」

 そう否定的な解説をするのは、もう一人の武器防具制作担当デックアールヴさんだ。

「まあ、良いじゃんか。ゲームの武器防具は絶対壊れない。防具は多少、攻撃が抜けることはあるが……それにしたって簡単に直せる。それを利用しない手はないだろう。絶対に切れない鎖とか、凄い事実なんだぜ?」

 すぐさまヴァルさんが反論する。

 史実やリアル感に拘るデックさんと、ゲーム的な便利さを最優先にするヴァルさんの、いつもの言い争いだ。

 終わり無き論争をしている割に、お互いの主義主張を認めている節もある。『喧嘩するほど仲が良い』の典型例か。

「インチキはインチキだ。まあ……目指している形にはロマンあるけどな。で、タケルは何の用だ?」

 諦めたような感じにディクさんは論争をお終いにすると、話を戻した。

「武器のバランス調整と廃棄を」

 そう答えながらメニューウィンドウから剣を一振り取り出す。さらに腰に佩いていた方も鞘ごと差し出す。

「……『アキバ堂』製か? それに……オーバーエンチャント品じゃないか」

 受け取ったディクさんは不審そうにしつつも、説明無しで製作者を当てた。

 訊いてはいないが、先生の愛用品だ。『アキバ堂』謹製に決まっている。しかし、一目で判断できるとは……その道の者には署名があるも同然なのだろうか?

「しばらく預かることになりまして」

 この説明で二人は黙った。

 そんなことはあり得ないからで……普通じゃない理由と察したのだろう。


 VRMMOにはよく、オーバーエンチャントというシステムがある。

 和訳すると限度超魔力付与だろうか? 版権やオリジナリティの問題で色々と目先は変わるが、要するに似たようなものだ。

 この『セクロスのできるVRMMO』では、武器や防具に『魔』のエッセンスを封じ込めると『魔法の武具』となる。

 しかし、この『魔法の武具』へ、さらに重ねて『魔』のエッセンスを封じることができた。もちろん二重に封じた分だけ、強力な『魔法の武具』となる。

 だが、この二つ目の『魔』のエッセンス封入は……必ずは成功しない。失敗することがあった。技術は全く関係ない。単純な確率の運で決まる。

 もう、この段階からギャンブルではあった。

 しかし、ここまでは大きなペナルティは無い。

 ……封入しようとした『魔』のエッセンスは失われるが、その分だけの損害で済む。

 だが、成功し、強力な『魔法の武具』となった後も……三つ目の『魔』のエッセンス封入が挑戦できた。もちろん、さらに強力な『魔法の武具』となる。……成功すれば。

 三回目の挑戦からは成功、失敗のパターンのほかに、大失敗が追加される。

 その大失敗の内訳は、三つ目の封入をしようとした対象の――すでに二つの『魔』のエッセンスの入った『魔法の武具』の喪失だ。真っ白い灰になって、文字通りに消えて無くなる。

 成功すれば『魔』のエッセンスが三重に封入された、強力な『魔法の武具』の入手。

 失敗すれば――非常に高価な『魔法の武具』の損失。

 ……伸るか反るかの大博打となる。ややリスクにリターンが見合わないか?

 ちなみに俺は大嫌いだ。大損しかしていない印象がある。


 この不条理にも思えるオーバーエンチャントだが、実はMMOでは定番中の定番だ。

 用語を変えたり、ルールを変えたり……何かと似たようなシステムが実装される。それというのも、MMOという仕組みそのものが要求するからだ。

 特に対策を講じければ、金貨が溢れてハイパーインフレになるのと同じように……武具などのアイテムも、定期的に減らさないと溢れかえってしまう。

 タダ同然で一級品の武器防具が売り買いされる世界……考えただけで無茶苦茶だ。

 そうなると運営は、常に次の新しいアイテムを供給し続けなければならなくなるが……限界はある。また、それに飽きられてしまったら、MMOとしては熱死だ。

 最も単純な対応策はNPCによる買取であるが、それも限界がある。却って金貨が溢れかえるのも、本末転倒だ。

 そこで『強力な武具が手に入る!』などという夢物語で射幸心を煽り、プレイヤー自身の手で処分させてしまう。

 これがまた麻薬的な魅力で、生産中毒などと並ぶ感じで……オーバーエンチャント狂としか言いようの無いプレイヤーもいる。

 日々、オーバーエンチャントの為に狩りをし、資金が貯まったら挑戦。その成否に一喜一憂しながら、脳内麻薬をドバドバと浴びるスタイルだ。

 成功したの時の嬉しさといったら、レアドロップ獲得時と比べても勝るとも劣らない。オーバーエンチャントに狂うプレイヤーの気持ちも判らないでもなかった。


「バランスねぇ? 隊長は少し神経t……拘りすぎなんじゃないか? 『アキバ堂』製なら、ちゃんとしてるはずだぜ? まあいいや……気になるなら仕方ない。俺が見るよ」

 ヴァルさんはそう言いながら、手に持った奇妙な剣を俺へ投げて寄こす。

「それじゃ、俺はタケルのお古を溶かしちまうか。溶かすで良いんだろ?」

 ディクさんは処分の方を引き受けてくれた。

「はい。また必要になったら頼みますけど……その剣を預かっている内は不要になったんで、すいません。それと預かり物なんで、デザインは弄らずに……バランスだけ合わせる感じでお願いします」

 二人とも色々と聞きたいことはありそうだったが、無言で肯いてくれた。

 先生から預かった剣は、俺が使っていたのと同じ『バスタードソード』――片手両手の兼用だが……なんと『魔』のエッセンスが三重にも封入されたオーバーエンチャント品だ。

 いずれトップレベルプレイヤーは、当たり前のように所持するだろうが……現状では貴重品となる。おそらく数えられる程度しか存在しないだろう。

 これはお二人が景気付けと挑戦したのが、見事に成功したものだ。

 「無駄運を使った!」だとか「成功したら逆に未練が!」などと、お二人は嘆いていらしたが……俺は吉兆だと思う。

 こんな貴重品を俺に預けたままなんて、そんな温いことをされるはずがない。きっと受け取りに戻られるだろうし……俺も利息を沢山せしめられるはずだ。

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