幹部会議――1
「いまこそ団結し力を示すとき! 我らが同胞を弑したリア充を必ず探し出し、報いを受けさせる! そして、この世界には秩序を!」
発言が許されるや否や、ハンバルテウスの奴はぶち上げた。
……ささくれた俺には、やたらと癇に障る。
予定通りな早朝の幹部会議だったが、しっかりと睡眠をとって臨む……とはいかなかった。正直、あまり眠れた気はしない。
昨晩、先生方お二人のお見送りをしてから、色々なことを考えている内に朝になってしまった。
……お二人は生きる為の選択をしたのだから、『見送り』が正しい表現だ。決して『送別』ではない。
それにアレックスの仇のことも、軽視はしていなかった。
探し出すのに異存はないし、何らかの方は付ける。……PKまでは躊躇ってしまいそうだが、それは確定事項だ。
しかし、派手に立ち回っても良いかというと……そこは意見が分かれる。
「既に説明した通り……現状ではメリットとデメリットが混在してんだ。この際、倫理的な問題は脇へ置くとしよう。確かに敵対者を一回殺せば排除できるようになった。でもそれは……俺達側も同じということなんだぞ?」
いまや俺達の命はリアルと同じ……いや、比べ物にならない危険に晒されていた。
同じく死が取り返しのつかない損失としても、現実の世界で剣などの武器を持ち歩く奴はいない。当たり前ではある。護身用のものですら眉をひそめられるのに、この世界のものは明確に凶器だ。
更に言葉を発するだけで火の玉を飛ばせたり、爆発を起こせる奴までゴロゴロしている。
カガチのような中身は中学生になったばかりのお子様であろうと、実際は一騎当千の兵と見做すべきだった。いや、人生経験が浅い分……中身が子供の方が、より恐ろしくすらある。
……俺が厨二真っ盛りの頃に、こんなアクシデントに見舞われたら……考えるだけで肝が冷えてしまう。
それに二つの理由で俺達は――『RSS騎士団』は危うかった。
一つは俺達が君臨していたことだ。
憚らずにいえば、俺達はゲーム世界を制覇しつつあった。王者となるのも夢ではなく、完全統制まであと一歩だっただろう。
それは敗北者の恨みとセットでもある。勝利には、そんな負の側面があった。
おそらく『RSS騎士団』は……俺達では一生理解できない深さで、酷く恨まれているに違いない。それは確信を持って断言できた。
不特定多数の一騎当千の兵が、自分達へ恨みを抱いている。さらに状況は千載一遇の好機だ。
これが危機でなければ、何を以って危機と言うのだろう?
二つ目は、それでも尚『RSS騎士団』が、この世界最大の戦力を保有していることだ。
最低最悪な『デスゲーム』の見解というのがある。
それはバトルロイヤルだ。
何と説明すれば良いのか悩むが、自分以外は全て敵とされる。個人対個人対個人と……多人数が一遍に戦う形式だ。一般的には最後の一人になるまで続く、生き残りゲーム。
現状を無理やりにバトルロイヤル形式の『デスゲーム』と認識するのなら……プレイヤー同士の殺し合いとなるだろう。
五桁もの人間が居る状態で、最後の一人になるまで殺し合うのは事実上不可能かもしれない。
だが、最後の十人になるまでなら? 百人なら? それとも千人なら可能か?
足きりが一万人としても、半数以上は死なねばならない。それは苛烈な殺し合いに――地獄絵図になるだろう。
もちろん、そんなアナウンスはされていない。そんな予想も出来るというだけ。
だが、そう考える者が出てきてもおかしくなかったし……バトルロイヤル形式になったら、最も不利なのは俺達だ。
バトルロイヤルでは、最も強い奴を他の全員と協力して倒すのが定石となる。つまりは俺達狙いだ。
荒れ始めたとき、『RSS騎士団』の立ち位置が磐石とは思えなかった。むしろ最も危険な位置に居るはずだ。
「『参謀』どのは弱腰――失礼、慎重に過ぎるのではありませんか?」
ここぞとばかりに、ハンバルテウスが当て擦りを言ってくる。
……なぜだ? どうして俺とこいつは、上手くいかないんだろう?
ハンバルテウスとてアレックス同様、しばらく所在不明だった。
アレックスが奇禍に見舞われた以上、ハンバルテウスだって安全なのかは判らない。ようやく無事が確認できたのだから、俺は諸手を挙げて喜ぶべきだ。
だが、そんな気になれない。
なによりタイミングが悪すぎる。お二人のことで俺は沈んでいたし、朝になっての追い討ちまであった。
先生の予想が、皮肉な形で立証されてしまったのだ。
明らかに今朝は、切断事故が多かった。調べずとも街を少し歩いただけで、騒がしくなっていたのが判る。
どれくらいプレイヤーが、災禍に遭ってしまったのだろう?
全体のほんの一パーセントだったとして……百人単位での犠牲者だ。
切断してしまった人は、どんな気持ちだったことか。情報は知っていたのか? それとも敢えて待機を選択した?
どちらにせよ……予想通りに物事が起きたのだから、先生の予見は正しかった。
そして俺は、朝からやり切れない気持ちで一杯だ。
全く知らない誰かだろうと、同じゲームを遊んでいた――同じ不具合に巻き込まれた者が不幸に見舞われれば、俺だって悲しい。無邪気に奴の無事を喜ぶ心境には、なれやしなかった。
結局、俺とこいつはとことん巡り合わせが悪い。そう言うしかないのだろう。
「それも説明したはずだ。団員は何の条件も付けずに、我々の指揮下に入ってくれた。それは俺達首脳部を信用してくれたってことだ。だからこそ、俺は……全員で無事に切り抜けるのが最優先だと思っている」
「それが弱気だと言うのです! 我々は常に剣によって語ってきた。これからもそうするべきで……そうするからこそ、秩序を維持できるのです! なにリア充の一匹や二匹……多少間引いたところで、大勢に影響はありますまい。それとも『少佐』殿は臆されましたか?」
こいつ……本気か? 真剣に最終計画を提案するつもりか?




