表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/511

『アキバ堂』での夜――3

 しばし呆然として先生を眺めてしまった。

 その間も先生は、せっせとアイテムの山を積み上げ続けている。

 さらに同調するような嘆きもあがった。

「……俺もまずいかも。一人暮らしだし……親しい友人や親族はいない――というか、住所すら教えてないや。仕事関係も……俺がゲーマーなの――VRゲームやるタイプなのすら知らない。絶望的かも……」

 その言葉で、恐るべき事実に思い当たった。

 当たり前だが、他の人にも同様の可能性がある。先生方だけじゃない。条件を満たしてしまう人は、まだいるはずだ。

 カエデ、アリサ、リルフィー、ネリウム……この辺は大丈夫か? 日常の会話で、家族との同居を匂わす発言があった気がする。

 情報部のメンバーは……あらかた平気か? 何名か確認しておきたい者はいるが、おそらくセーフじゃないかと思う。

 だが、『RSS騎士団』全体では?

 全団員の事情までは判らない。急いで確認する必要がある!

 それに他のギルドは?

 情報だけでも流しておくべきだ。どう役立てられるか判らないが……知らないよりは良いだろう。こんな情報を伏せておくなんて、ある意味で残酷すぎる。

 しかし、確認が取れて――絶望的な状況が判明したとして……どうすれば良いのだろう?

 それでも、すぐに動き出すべきだ。

「あ、あの……す、すいません、俺、急いでギルドホールへ――」

「はぁ……落ち着け、坊主。坊主のところへは――『RSS』へは、ヤマモトのおっさんに連絡済だ。いまごろ対処してんだろ。他のめぼしいギルドにも情報は流した。第一……お前は『もうすぐ死ぬかもしれないから覚悟を決めろ』と言って歩けんのか?」

 指摘されて、黙るしかなかった。頭の中が真っ白になりそうだ。

 貴方は死亡が確定したから覚悟しろ?

 親しい仲でも……いや、親しい仲だからこそ、そんなことは言えない!

 だが、もうすぐ死ぬかもしれない仲間へ、それを知りつつ黙っている。そんなことが出来るだろうか?

 逆の立場だったら……俺だったら教えて欲しい。

 何が正解か判らないことなら、自分だったらどうして欲しいか。それを指針とするしかないはずだ。しかし、完全に告知同然のことを――

「あー……坊主? 何度も言うようだがよ、やばいのは俺で、時間も残り少ないはずだ。悩むのは……俺が死んでからにしろよ? まあ、まだガキなんだから……泣き喚いても良いんだぜ?」

 こんな状況でも、さすがにムッとした。

 だが、もしかして……俺は担がれてるのか? やけに冷静すぎるし、いつものように俺は玩具扱いだ。

「だ、騙した……んですか?」

「いや違うな、タケル君。冷静に考えたけど……考えに綻びは無いと思う。つまり、俺達二人はやばい。絶体絶命だ。……ところで、なんでアイテムを取り出しているの?」

 答えてくれたのは、もう一人の『絶望的』だった先生だ。

 やや乱暴ながらも、真似をするようにしてアイテムをテーブルに積み上げている。

「まあ、形見分けというか……俺達には不要なものだからな。まるで『引退厨』みたいだけど……お前らには必要だろう? それと完全に諦めたわけじゃないしな」

「……まだ打つ手あるの? 先に言ってよ! あれだよ、俺は心が弱いからさ……タケル君が居なかったら、泣き出してたよ。マジで。期待できるの?」

 そんなことを仰りながら、お二人はアイテムを取り出し続けている。


 深刻さは比べ物にならないが……確かに『引退厨』と――正確には引退式と似ている。

 MMOは終わりの無いゲームであるが、プレイヤーにとってはそうもいかない。どこかで区切りが――終わりが必要だった。

 自然消滅的に疎遠になることもある。

 プレイヤーは生身の人間であるから、他界することもあるだろう。

 誰一人して終わらせたくないのに、運営が破綻して……全世界、全プレイヤーごと消えることだってある。

 いくつかのパターンのうち、自発的に終わりを選ぶ場合もあった。

 それも『今日で終わり』だとか『この時刻を持って終わり』などと、明確に際立たせる者も珍しくない。

 区切りをつけるのは悪いことでもないし、人それぞれだろう。

 しかし、その中には「もう自分には不要なものだから」と、全ての資産を友人などへ譲るプレイヤーもいる。

 そこまでは何の問題も無かった。要するに個人の私物だから、好きに処分すればいい。

 問題はしばしば、その引退したプレイヤーが戻ってくることだ。

 紆余曲折合って引退したものの、気が変わって復帰する。そこまでは良いのだが――

 なぜかそういうプレイヤーに限って、再び引退を決意しがちだ。

 ただでさえ悲しい引退式を、一人で何回も開催してしまう。

 その度に資産を形見分けしたり、復帰のたびに縁故の伝を頼ったり……また引退したり。友人であっても面倒臭いことこの上ない。

 そんな困った奴は『引退厨』と悪口で呼ばれたりする。


「まだ一つ打つ手が残ってる。……あまり期待できないけどな。でも、万歳ジャンプするより良いだろ? 結構たまってたな! 俺、前から『引退厨』やってみたかったんだぜ? これ、意外と楽しいな!」

「そう? 俺は少し心残りと言うか……無念だなぁ……悔しいからオーバーエンチャントでもしようかな……でも、成功したら余計に悔しいかな?」

 そんな雑談しながら、お二人は作業を続けていた。

 もしかしたら平気じゃないのかもしれない。いや、当然、平気ではないだろう。こんなにも冷静に、自らの死を受け入れられるはずがない。

 ……強がってらっしゃるのかもしれなかった。

 だが、それを非難できるだろうか?

 お二人は何とか明るく話そうとして下さっている。俺はそれに応えなければ駄目だ。それなのに言葉が口から出ない。

「それで……残っている手というのは?」

 皆を代表するようにクルーラさんが訊ねられた。

「うん、死のうと思っている。いや、ゲームのキャラクターの話な。死んだらどうなるのか判ってねえけど……このまま待っていても、何一つ状況は好転しねえはずだ。なら、一縷の望みを託して……死んでみるべきだろ?」

 それが正解かもしれなかった。

 先生の予想では、このままだと『決定的な結果』が待っている。

 キャラクターが死んだときにも『決定的な結果』となるかもしれない。

 だが、何か助かる変化――たとえばログアウト――などが起きる可能性もある。

「まあ、それでも……これが最後かもしれないからな。少しは皆の手助けになって欲しいし――」

 そう言って先生は山にしたアイテムを、詰まらなそうに崩した。

「リアルでの面倒も頼みたいことがあるからな。本名だとか、住所だとか教えとく。少ないけど貯金とかもあるし……リアルの形見分けというか、処分をお願いしたいものもある。坊主、何か欲しい物があったら貰っとけよ?」

「ああ、そうか……俺も少し頼もうかな。村長、ギルマス……お願いできるかな?」

 お二人の要請に、無言でクルーラさんとミルディンさんは肯かれた。

「俺は天涯孤独で……仕事も人付き合いのないのを選んで……女房も子供もいない……文字通りの末代なんだけよ。死ぬときは爺で……曖昧になって、独りぼっちと思ってたぜ。まあ悔しいっちゃ悔しいが……頭がハッキリしたまま、仲間に見送られてってのも悪かあねえな」

「俺達はこれから華麗に生還するんだけどね! うん、そう考えたら楽しみも出来た! 性質の悪い『引退厨』やるから! 焼け太りならぬ、引退太りしちゃうよ!」

「まあそうだな。俺達は生き延びるために死ぬんだからな。まだ希望は残ってる。だから坊主、泣くんじゃない。男は簡単に泣くもんじゃないぞ? それとカエデとアリサ。二人はお前が守るんだぞ? ……末代の男の台詞じゃないか。まあ、俺みたいにはなるな」

 そういって先生は、かすかに微笑まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ