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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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『アキバ堂』での夜――1

 半端に時間が空いた。

 カイがシドウさんに連れられ、本部へ行ってしまったからだ。

 どうもヤマモトさんが呼んでいるらしい。それに合わせ、情報部の裏方連中も付いて行ってしまう。

 これは俺がリーダーとして頼りないとかではなく、メンバーが気を使ってくれたから……のはずだ。そう思えば、物悲しい気分にならないで済む。

 それにしても今日は、全く予定通りにならない一日だった。

 いや、そもそもログアウト不能というのが強要されたものだが……それはそれとして、予定が狂いっぱなしという意味だ。

 『食料品店』前へ朝食を食べに行ったのに、いつの間にか各ギルドの重鎮と会合をしていた。何でそうなったか誰にも判らないだろうし、俺にも判らない。

 まあ、会議そのものは別に良いだろう。

 何か有意義な結論に達したとも思えないが、対話のチャンネルが開けたと考えれば意義はある。特に微妙な関係となり始めていた『不落の砦』と『聖喪女修道院』とは。『自由の翼』の方は、まあオマケ程度か。

 ……ジンの奴にできた借りは、どう清算したものか。

 面倒になったら、ハチの奴にやらせよう。なぜか判らないが、奴ならきっちり『借りを返しながら、何か利益を得る』などという、素晴らしく酷いことをできる気がする。

 人の悪い笑顔となっていたかもしれないが、仕方がない。本日、唯一の収穫かもしれない。

 会議では色々な情報や考え方を知ることができたが……突き詰めると『事態はいまだ不明瞭、解決策も見出せず』だ。つまり、何一つとして前進していない。

 ……運営の奴らは何をしているのだろう? それにGMの奴らは?

 もう一日と半分以上経過している。それなのに全くといって良いほどリアクションが無い。

 こうなると運営主催者説――この不具合が運営による意図的なものという見方も、妄言として切り捨てる訳にもいかなそうだ。

 しかし、それもそれで逆に、なしのつぶてなのが不可解ではある。

 とにかく、今日は運営の対応待ちをしながら、カエデの可愛い顔でも眺めながら過ごそうと思っていたのだ。

 アリサを手伝うのでも良かった。

 狩りへ出たりしないのだから、一日中街に居ることになる。アリサはきっと『詰め所』の掃除を始めていたはずだ。普段から世話になっている分、手伝わない訳にはいかない。

 結果的に目的は果たしたが……秋桜やリリーを、からかいに行くのも悪くなかった。

 『不落』『聖喪』連合との揉め事は、秋桜とリリーの二人がキーパーソンだ。リリーの方は油断がならないが、秋桜は例によって抜けているところがある。適当な道理を説けば納得するだろう。……その点では、リリーも似たようなものか。

 先に『聖喪』との交渉も検討の余地がある。

 リシアさんなら誠意を見せれば、ある程度の譲歩はしてくれるはずだ。交渉のついでにお茶でも振舞われたりするだろうが……それは数少ない俺の役得だろう。


 ……『RSS騎士団』総合戦略情報部所属タケル少佐の任務として、なぜか不適当に感じたが……気のせいだ。後ろ暗いところなど何も無い。


 俺は団の為に全力を尽くしているだけだし、実際には『水曜同盟』とかいう奴らとの対峙だったからだ。

 いや、チャーリーを救えたのは不幸中の幸いであるし、異議もないのだが……華やぎのある任務ではなかった。その程度は不満に思っても、べつに罰は当たりやしないだろう。

 それに一日の楽しい過ごし方に、いつまでも未練たらしく嘆いていても無駄だ。

 今日という一日は過ぎてしまった。明日も不具合が解消されず続いたとしても、幹部会議やら不明者捜索やらで忙しい。

 思い描いた楽しい未来は、消えてなくなったのだ。


 そんな溜息を吐きたくなるような気持ちのまま、『詰め所』から一階の『アキバ堂』へ向かう。ちょうど欲しい物があったので、裏の入り口からじゃなく正面からだ。

 しかし、珍しいことに表の方はシャッターが下りていた。

 『アキバ堂』は――プレイヤー所有の『店舗』は、シャッターを下ろす必要が無い。

 まず防犯の概念がないからだ。

 『店舗』オーナーの設定にもよるが、全ての商品は盗めない。

 所有権を得るまでメニューウィンドウへしまうこともできないし、勝手に『店舗』の外へ持ち出す――万引きも不可能だ。

 さらに理由はもう一つあった。

 全ての商品は誰か店員役のプレイヤーがいなくても、好き勝手に購入できる。

 逆に言えば商品を陳列するだけで、『店舗』は二十四時間営業の無人店舗となる。オーナーのプレイヤーがやるべきことは補充だけだ。

 これもよく考えれば当たり前の話ではある。

 『店舗』を構えて商業プレイをしたい者はいるだろうが……日々の店員としての労働や、万引き被害などに悩むのまでは、希望していないはずだ。それはもうゲーム――遊びの範疇ではない。

 補充さえしておけば、二十四時間営業で人件費も掛からず、万引き被害なども考えないで済む。そしてこの程度の労力で済むのなら、程よく商売を楽しめる。これが『店舗』を持つ最大のメリットだろう。

 常時は先生方が全員ログアウトする場合でも、『アキバ堂』は開店したままだった。

 しかし、現状ではそうもいかないはずだ。商売の用途より、本拠地(ホーム)としての意味合いが強くなっている。

 まだ就寝するような時間――現実世界の方でだ――ではないが、すっかり夜だ。もう営業は終わりにして、明日の朝まで休むつもりなのだろう。


 一つだけ半分くらい開いたシャッターを、くぐるようにして中へと入る。

「タケルです! 入りますよ!」

「おう、坊主! 待ちくたびれちまったじゃねえか! 早く奥へ来い!」

 すぐに返答があった。

 中へ入ると表へ出す用のショーケースやら、店内用の棚だとかがあちこちへ寄せられている。これでも少し減らしたのかもしれない。凄い商品の量だ。

 奥の方は生活スペースというか、先生方が雑魚寝できる空間が設けられていた。この不具合以降の変化といえる。

 見れば隅の方には布団や毛布が転がっているし、ハンモックや寝袋まであった。

 さらに大きなテーブルもあって、そこへ先生方が勢ぞろいしてらっしゃる。余計な推測かもしれないが、その上に布団を敷けそうなほど頑丈そうな作りだ。

 ……そして嫌な予感もした。

 なぜか先生方のお一人が――いつも俺を「坊主」と呼ぶ人だ――がせっせっとメニューウインドウからアイテムを取り出し、テーブルの上に山を築いている。

 その先生は陽気なご様子なのだが……残る先生方は、一様に陰鬱な表情をしていた。

 この空気は知っている。状況にそぐわないはずだが、経験したことのある雰囲気。しかし、理由が解らない。

 とにかく呼ばれたからには、俺に用があるはずだ。

「……お呼びで? 遅れました?」

「おう! 遅いかったな。待ちくたびれて、死んじまうかと思ったじゃねえか? いいか、坊主? 『不祝儀は急げ』って言葉があるんだぞ?」

 なぜだろう……とても嫌な胸騒ぎがする。

「ど、どういう意味です? と、突然?」

「はぁ……『不祝儀』ってのは葬式だとか、めでたくないことを指す言葉だ。葬式とかには、遅参は厳禁って意味だな。祝儀ごとなら、後でご挨拶しても通るからな」

 それは言葉だけだったが、耳にしたことがある。だから、聞き返した訳は違う。

 顔に出ていたのか、先生は説明を続けてくれた。

「そりゃ、お前……これから俺の葬式するんだからよ。坊主が駆けつけるのは、当たり前の話だろうが?」

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