衝突の開始――5
「個別メッセージなどが――各種メッセージが使えないのも、でございましょう?」
「……全部一緒に考えた方が良いのかな? それとも一つひとつ分けといて……あとで考えればいいのかな?」
ネリウムの意見に、クルーラさんは悩む風だった。
「それでええかと。個別、全体、ギルド、パーティ……他はGMの使う運営メッセージでっか?」
「パーティメッセージも駄目なのか? 確認しようと思ったまま、放置してたぜ……」
「確認済みや。パーティも通じへん」
念のために問い質してみれば、立て板の水と返事があった。
『自由の翼』も独自に、色々と調査をしていたのだろう。俺達とは違う視点からの情報が多く、意外と参考にはなる。……やや悔しい気分になってしまうが。
「……うーん?」
「はぁ……なに唸ってんだ、ミルディン……」
「いや、メッセージで閃くというか……何かあったような気がするんだよね。なんだったかな?」
「……どうせ役に立つかどうかは、思い出さなきゃ判らないんだろ? いつものパターンで? なら唸るのは後にして、いまは話し合いに集中しろよ」
こんな状況でもマイペースなミルディンさんを、先生方のお一人が諌める。
それは先生方同士での人間関係だから、俺ごときが口を出すのは憚られたが……なんだろう、妙な未来が連想されてならない。
マイペースで日常の処理能力の欠如した天才と……こんがらがり過ぎるまで、腐れ縁を結んでしまう。大変そうだ。なぜか我がことのように想像がつく。
俺は邪眼だとか、魔眼だとか……大人になったいま、開眼したら思い悩むようなものに目覚めてしまったのか? それとも新しい人類に?
「GMさんのメッセージで思い出したけど……どうしてGMさんはいないの! 私、GMさんに会ったら、絶対に一言文句をいってやるんだ!」
やっと食べ終わったのか、目の前を片付けながらの秋桜が言う。
しかし、怒り心頭、憤懣やる方の無い……とはいえない。
こんな大事に巻き込まれて、文句を一言で済ますつもりなのか?
むしろ発言で秋桜の人の良さというか、緩さというかが露呈した気がする。……まあ、そんなんだから憎めない奴なんだし、警戒する必要もないのだが。
「嬢ちゃんは良いことを言ったな。その通りだ。GMの野郎、一体何してやがんだ? それに、うーん……結局、何が起きていると言えばいいんだ? 『GMの野郎がサボっている』か?」
先生方のお一人が秋桜の支持をした。
さらに追加として提示された疑問も、尤もな気がする。この技法の場合、定義を広くし過ぎると上手くいかない気がした。
「それは分解すると……『運営の動きが認められない』と、不具合発生以降に『GMが目撃されていない』となるのでは? そもそも私達には、運営メッセージを使えないのですから。……誰かGMを目撃したり、目撃談を聞いた人はいらっしゃいますか?」
俺の考えを汲み取ったかのように、カイが易しくなるよう噛み砕いてくれた。
厳密に考えると、GMと運営は別々に考えたほうか良い……のか?
「なるほど。それはこの場で聞いてしまおう。誰かGM関係の情報ある人?」
クルーラさんの質問は、沈黙によって答えられた。
この場には『RSS騎士団』関係者、『不落』『聖喪』同盟、『象牙の塔』と『妖精郷』、『自由の翼』がいる。
さらには友好ギルドなどの繋がりもあるだろうし、各ギルドメンバーが個人的に仲良くしている者などもいるだろう。
そこまで考えたら、かなりの広範囲から情報が得られるはずなのに……GMの目撃例が無い。なにかある、もしくはあったと見るべきか?
「静かになってしまっては、ブレインストーミングの意味が無いでござる」
質問の答えを待ち続けたわけではないだろうが、黙ったままの皆が注意される。
仰る通りだ。
黙ってお見合いしてても、決まることなど無い。ここはどんな事でも良いから、何か発言しておくべきだ。
「ここに来るときに行き会ったんですけど、現状でも切断するようですよ」
おそらく、全体的には意味のない情報だ。だからどうしたと言われるかもしれない。
しかし、たぶん、とにかく気軽に発言できる空気の方が、重要なんだと思う。多少はアレでも、その方が意味のある失敗だ。
「切断とはまた……ツイてないお人がおるんやなぁ……」
すかさずジンが合いの手を入れてくる。俺と似たような結論に達していたのだろう。
しかし、ツイてない?
「ツイてないって、どういうことだよ?」
まずい。確か各個の精査は後で。そういうやり方だったはずだ。反射的に噛み付き返してしまうなんて……。
「そら、タケル『くん』、切断したんやさかい……うん? どないなるんやろな?」
途中で自分のおかしさに気付いたのか、照れ笑いでごまかしやがった。
……ジンも冷静なようで、多少は動揺していたのか。
「でも……実際のところ、どうなるのですか? 実はうちのメンバーにも、切断した子がいて……」
リシアさんにいたっては、穏やかじゃないことを言い出した。
だが、聞かれても困る。実際、切断した奴はどうなるのだろう?
「色々と考えられるよ? 現状での切断の定義から考えていかないと駄目なんだけど――」
説明を始めたミルディンさんは、例によって口を塞がれてしまった。
なんとなく、タイミングというか……止めるべき場合が、俺にも判ってきた。長くなりそうで、ミルディンさんの瞳が輝いているときだ。
「考えても仕方ねえだろう? 切断なんてわざと起こす――のは無理だったよな? このゲームでは、できるのか? とにかく切断が起きる条件なんて限られているし、それだって最近はレアパターンばかりで――」
だが、そこで喋るのを止めてしまった。
何かに気付いた人の顔をしていたし、考え込む様子だ。
「どうしたの? 続けてよ?」
「いや、何でもねぇ。話している最中に、訳が解んなくなっちまった。もう少しまとめてからにする」
クルーラさんが促しても、そんな風に口を濁してしまった。何に気付いたのだろう?
「あのですね! 俺、思うんすっけど……切断ってわざと起こせるっすよね?」
リルフィーが手柄顔でそんなことを言い出す。
うん、この段階で判る。これから奴が言うのは、突拍子も無いことだ。
そんな俺の思いを知ってかしらでか、リルフィーは得意満面になって続ける。
「こう、物理的にですね。ああ、現実での話ですよ? こう、物理的にVRマシーンから身体を引き離してしまえば良いじゃないですか。ヘッドセットとか、バイタル用のコードとか、全部引っ剥がして? そうすれば切断っすよ!」
……うん。やっぱり駄目だな!




