表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/511

『食料品店』前――5

 どういう意味だ?

 そんな思いで様子を伺ったが……ミルディンさん以外の先生方は、苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃる。……既にある程度は検討済み?

 ミルディンさんの機先を制するように、先生方の一人が説明を始めてくれた。

「あー……色々なパターンがあって、考え出すと取り留めないんだが……VRマシーンを使って人を害する方法はある」

「そ、それはっ! その……し、死亡……現実での死亡もありえるのでしょうか?」

 思わず、そんな感じのネリウムが問い質す。

 ……二人分を心配しなければならないから、大変そうだ。考えるという点で、リルフィーは役に立ちそうも無いからなぁ。

 考えこむ俺の二の腕へ掴まるように、離れてしまわないかと心配するように……アリサが触れてくる。……まあ、怖いよな。

 それで安心できるならと、好きなようにさせておく。

「死亡というと、かなり難しい。絶対確実になんて考えたら、VR経由じゃないほうが良いね。でも、そうじゃなくて……ただ困ったことに追い込むだけなら――」

「あー……ギルマス、俺が説明するよ。細かいことは良いんだから。最も理解しやすい例で説明するね。ただ、これはあくまでも一例だし……本当は違うかもしれない。だから、怖がりすぎたら駄目だよ?」

 あっちこっちへ話が飛びそうなミルディンさん――実際、前例があるのだろう――に代わって、先生方の一人が説明役を買って出てくれた。

 ただ、かなり真剣な顔で……それだけで嫌な予感がする。

「俺達はVRマシーンで、この仮想世界を体感している。逆に言うと……体感させないことも可能なんだ。何も見えない、何も聞こえない、何も触れない、何も味がしない、何も臭わない。そんな完全に何も無い状態も……まあ、理論的には体感できるんだよ」

 何も無いを体感。

 まるで矛盾した言葉だったが……理解できた。技術的にも簡単だろう。何も脳へ入力しなければいいのだ。

「全部をカットするのが良いのか、もっと効率の良い方法があるのかは……まあ、この際はどうでも良いよね? 問題なのは、人間の精神では長時間耐えられない環境が存在すること。そして比較的……再現が容易いことなんだよね」

 かなり色々と端折っている気がした。

 例えば痛覚リミッターを完全に切って、人間に耐え切れる以上の苦痛を……事実上のエンドレスで体感させたら?

 現実の身体が持つ、痛覚に対する備えは全て使えない。身体が壊れきって――無くなって、もう痛くないという結果すら。

 脳が対応を取るまで苦痛は続き……脳が対応を取ってしまったら、それはかなり重大な結果となる。少なくともPTSD(心的外傷後ストレス障害)ぐらい発生してしまうだろうし、それすら軽い部類かもしれない。

 普通はそんな不具合に遭遇したら、即座にログアウトする。

 だが、いまはその方法がなかった。プレイヤーがハード側から操作する方法が、なぜか機能していない。つまり、逃げ道は無いということだ。

 想像しただけで、少し気持ち悪くなってきた。

 人間はその手の『不具合』に、どれだけの時間を耐えられるのだろう?

 命だけは助かったとしても、自我を失うことにでもなれば……それは死ぬのと何が違うのか?

「問題はね、悪意無く発生してしまいそうなことだよ。バグか何かで、死亡したプレイヤーが……まあ、辛い場所にいる可能性は否定できない。僕は大学生の頃、VRマシーンで色々と遊んでて……何も無いを視たりもしたけど、アレはけっこうやばかった。あれこそ文字通りのヌル(Null)だね。『無』を完璧に視覚的再現して、エビタク達の怖さとはまた違った――」

 楽しそうなミルディンさんは、そこまでしか喋れなかった。先生方の一人に、食事を無理やり口へ突っ込まれたからだ。

「ほら、食え。美味いか?」

「……甘い! 美味しいね、これ!」

 見事に操縦されてしまっている。

 あれか? ミルディンさんはたまにいる……『賢い馬鹿』とか呼ばれちゃうタイプなんだろうか?

 

 参考になる意見だった。そして逆に、不安も増える。

 やはり、自殺の試みは制止するべきだった。

 俺の考えは浅かったのだ。死ねば天国へ行けると確信している者ですら、自殺なんてしない。それは単なる思考放棄……他人任せな選択だったのじゃないだろうか?

「……坊主、うちも同じ結論と言っただろ? こんなときは、とにかく落ち着くもんだ。それに……もう、できることも無いだろうが」

「でも……いまからだって、止めにいけば――」

「うーん……タケル君の気持ちも解るけど、どちらが良いとも言えないんだよね。もしかしたら、試してもらう人だけが……正解の可能性もあるんだよ?」

 不安がもろに顔に出ていたのだろう。

 先生方に諭されてしまった。……いや、慰めてくれたのか?

 また、自殺してみる人達だけが正解――逆を言うのなら残る俺達は不正解、それどころか致命的な大失敗の可能性も否定できない。

「……うちも急ぐ奴らを選んだからな。そっちも坊主じゃなくて、ヤマモトのおっさんが人選したんだろ? なら安心だ」

 貶されている気分だが、気持ちは伝わる。

 確かに深刻な理由で急ぐ人もいた。例えば持病の薬を飲まねばならないだとか……現実で外せない用事のある人達だ。

 そんな人達は引き止めにくかったし、引き止めたら逆に悪い結果もありえる。

 ……誰にも本当のところは――正解は判らないのだ。この世界に居るうちは。

「そうそう、タケル君は考え過ぎ! ちょっと怖がらせちゃったかな? なんでこんな不具合なのか解らないけど……死亡者が不愉快な環境――それこそ地獄のような場所へ行っている可能性があるだけ。そして、その場合でも……手遅れになる前に救出される可能性だってある。まあ、それは悪意が介在しないばあ――」

 またもミルディンさんは、途中までしかいえなかった。また食料を口の中へ放り込まれたからだ。

 ……ミルディンさんはアレなのかなぁ?

「そうすっよ、タケルさん! よく解らなかったですけど、一つ判りましたよ!」

 それまで大人しくしていたリルフィーが、唐突に会話に入ってきた。

 まあ、例によって素っ頓狂な考えなんだろうが……この湿った雰囲気を変えてくれるかもしれない。ものは試しだ。続きを聞いてみよう。

「何が判ったんだよ?」

「アレです! 要するに……死ななきゃ良いんですよ!」

 憎たらしいまでのドヤ顔だ。

 さすがに、ややムッとくる。それに少しだけ、話の要点を外しているだろう。

 リルフィーらしいズレ方だったが……ある意味では正鵠も射ている。奴らしい、いきなり正解へ辿り着く感じ。

 俺達は待機を選択した。それは「死ななきゃ良い」という結論へ落ち着く。つまり、奴の主張が正しい。

「……まあ、間違っちゃいないな」

 そう答えておく。褒めるのは癪だ。

 色々と誤魔化すように、飲みかけのコーヒーへ手を伸ばしたら――

 いつの間にか、いつものと――アリサの用意してくれる物と入れ替わっていた。

 ……さっきまであった飲み残しは? これはいつの間に?

 そんな疑問を込めてアリサを見てみれば、普段通りにニコニコしていた。……俺の勘違いか? まあ、どっちでも良い。

 不思議には感じるが、これはこれで問題はないはずだ。そう思って、一口啜る。美味い。

 色々な理屈や仕組みよりも、美味かったという結果。そちらの方が重要なはずだ。つまり、俺は考え過ぎ。

 それにどうせ……この不具合は、そろそろ解消される。それ以外の結末は、少し予想し辛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ