様々な決断――1
「俺が悪かった……のか? どう思う?」
「いや、そんなことを言われても……私だって隊長と同じで、まだ学生ですよ?」
カイはそっけなかった。
すぐ後ろを歩くグーカとリンクスも見てみるが……二人して肩を竦めるばかりだ。
「……二人は平気なの? その……仕事の方?」
ネットで知り合った人に、リアルのことを質問するのは良くない。
少なくとも、親しくなってからでなければ駄目だし……それでもマナー違反と言われることもある。まあ、もう知り合って長いし大丈夫だろうと、甘えた結果の質問だ。
「あっしは、その……在宅の仕事なんで。自営業者になりやすね。多少は時間の融通はできるんでさぁ」
グーカは呆気なく教えてくれた。
俺が気にし過ぎなのだろうか?
「僕も似たようなもんだよ。どこにでもあるような商店街で、細々と商売をしている。……明日は臨時休業だね、これじゃ」
リンクスも別に、拘りはないようだった。
二人とも成人しているのだから、どこかで何かをして稼いでいるのだろうが……改めて訊ねると不思議な感じがする。
いや、俺だってあと何年かすれば、どこかで何かをして働くのだから……何も不思議なことはないのか?
結局、社会人メンバーの一部は、死亡――自殺を試すことになった。
俺には全く理解できなかったし、いまだに反対の立場だが……人それぞれの事情はある。
ほとんどの者は、命懸けで出勤することはないと説得された。しかし、何人かは納得しなかったし……仕事どころではない、もっと切実な用件の者もいなくもない。
だからといって、用事がある者の全員で自殺をしてみる。それは愚かな選択だろう。重大なリスクなんて、ほとんどあり得ないとしてもだ。
まず、どうしてもログアウトしたいメンバーを募る。……命を賭けることになっても、という意味でだ。
そして、そのメンバーには伝言を託す。
伝言さえできるのならと、思い止まったメンバーは多かった。その為にリアル情報を明かしたり、上手く届けられるかのリスクもあるが……それで納得できるらしい。
どうも問題は『出社する為に、ある程度の努力はしたか?』にあったようだ。……考えすぎか?
しかし、何人かのメンバーは心底ホッとしたようだった。やはり、命懸けなのは嫌だったんだろう。まあ、当たり前か。
非情なようだが、こうすれば最小限のリスクで対処できる。
自殺するメンバーは人柱となるが……どうしてもログアウトしたいと言うのだから仕方がない。その可能性があるのは、自殺ぐらいなのだから。
無事にログアウトできたのなら、伝言を頼むのだし……残るメンバーも多少は安心できる。
仮に『決定的な結果』となってしまっても……可能な限り実践人数を少なくすることで、被害は最小限にできるだろう。
理屈は通っているはずだ。……多分にゲーム的な気がするが。
正直、俺自身は納得できていない。
考えろといわれれば、この程度の方法はすぐに思いついたが……なんと言うべきか……正しくないと感じている。何か間違えた気分。それでいて、他の方策も考えつかない。
『決定的な結果』になる可能性が僅かでもあるのだから、全力で阻止するべきだったんじゃないだろうか?
なんとなくスッキリしない。
それが態度に出てしまった訳でもないだろうが……人選やら、誰に何の伝言を頼むかだのの作業からは外された。いまはヤマモトさんが陣頭指揮を執っている。
ある意味で助かった。割り切ったとしても、言い難い台詞が多すぎる。
「その仕事……命懸けで出勤しないでも、別に良いんじゃないですか?」
そんなことを年下の若造に言われたら、反射的に殴り掛かるまであるだろう。俺にですら、想像に難くなかった。
本部の人口密度は狭苦しいほどだった。
ギルドメンバー以外も入ってこれない。アリサも俺を探しているらしいし……停戦を布告するのなら、外部との交渉は忙しくなるだろう。作業場所を移すのも、悪くないように思える。
そう考えて移動中だったのだが……街は緊迫した雰囲気に包まれていた。
俺などは、もう気が抜けた感じだが……誰もが思い詰めた様子で話し合っていて、その顔は一様に暗い。
……何を論じてるんだろう?
百年話し合ったとしても、結論は決まっている。何もしない。それがベストだ。安全な街に引きこもって、事態の解決を待つ。それしか選択肢はないだろう。
そんなことを考えながら歩いていたら――
「あ、あの! ちょっ、ちょっと良いかい?」
知らない人に話し掛けられた。
最近では実に珍しい。いまの俺に話し掛けるのは、相当の勇気が要るはずだ。普通じゃない。
まず、俺からがして『RSS騎士団』参謀のタケル少佐だ。もう悪名は把握しきれないほどある。決して友人になりたい人物像じゃない。
その後ろに従えているのはカイだ。
それほど顔は売れてないはずだが……俺のブレインなのは、知ってる奴は知っている。何がしかの悪評も流れているだろう。……俺の数倍は性格悪いし。
そしてさり気なく立ち位置を変更したグーカとリンクスだ。
荒事になったら実力行使する気なんだろうが……二人は情報部の右腕と左腕にあたる。実際に敵を血祭りに上げた数は、二人の方が多い。
……ほとんど武闘派ヤクザか何かだ。
慌てて軽く手を振って止める。ただ話し掛けてきただけなのに、敵対行為と見做していたら……それこそヤクザより性質が悪い。
「なんですか? お会いしたことあります? これが初めてですよね?」
精一杯、爽やかに演じてみる。
カイとリンクスの失笑と、グーカの絞め殺されるような声――笑いを無理やり堪えた時にでるような――が聞こえた。……あとで三人とも、酷い目にあわせてやる!
「君達……その……ギルドなんだよね? 皆して同じ服を着ているし?」
「は、はあ?」
予想外の質問に、上手く答えられなかった。
俺達が装備しているのは各クラスで違う物だが、見る目のない者には同じと思えるか?
さらに意味不明な言葉が続く。
「できたらで良いんだけど……君達のギルドへ入れてもらえないかな?」
真剣な顔だし、ジョークではなさそうだ。
だが、全く理解できない。なんでギルド加入なんだ?
いまはそういうことが、最もどうでも良い時のはずだ。
しかも、なんで俺達『RSS騎士団』に?




