会議――3
ギルドホールは凄い人口密度になっていた。
とにかく連絡の付いたメンバーを集合させたからだが……明らかに狭い。狭すぎる。暑苦しさを体感しないで済む――少なくとも精神的な暑苦しさ以外は免れるのが、唯一の救いか。
元々、全員で同時に使うような設計思想じゃない。
ギルドメンバーと話し合いをしたいのなら、相手がどこにいようとも……ギルドメッセージを活用すれば済んでいた。
が、いまはそのギルドメッセージが利用できない。となれば、どこかへ集まるしかなかった。……ギルドの全体会議を、どこか道端でやる訳にもいかない。
停戦へ舵を切るのなら、意思統一をする必要があった。
それも可能な限り速やかにだ。停戦を表明しながら、誰かと事を構えてしまったら……無茶苦茶になってしまう。信用がなくなるのも、火を見るよりも明らかだ。
メンバーに演説するヤマモトさんを眺めながら、奇妙な違和感に囚われた。
俺は無駄な努力……後々まで悪影響があることをしている?
可能性は大きい。
色々と考えて、停戦が一番だと思った。その判断に誤りは無いと思う。
しかし、「『RSS騎士団』はこの程度のアクシデントで、戦うのを止めてしまう」と限界を吐露することにもつながる。……外部からは行動パターンを読み取られないのが、集団としてはベターのはずだ。
さらに、それすらズレた考え方にも感じる。
このアクシデントは、じきに何らかの解決を見ると思う。何もしないでも、そうなるはずだ。特に対応する必要もない。また、仮にPKをしたところで……何か大事にもならないとも思う。
だが、そういった事情とは無関係に……このゲームはもう終わりだ。
こんな重大事故を起こしてしまったら、運営会社には何らかの社会的制裁が待っている。
細かなことをぐちぐちと考えるより……真剣に移住先のゲームを検討した方が、有意義ですらあるかもしれない。
ヤマモトさんの説明が終わった。
事態が安静になるまでの全方面での停戦、現体制の維持。
そして何か問題があったり、方針に同意できないのであれば退団を認める。また、退団を選ぶ者にペナルティも課さない。
これを通達するだけで大騒ぎだ。
普段は何とも思わなかったが、ギルドメッセージは団体行動をする上で……欠くことのできない重要なツールだったのを思い知らされる。
これで正式に指揮系統に裏付けが……同意が得られてしまうわけだが、その辺は理解されているのだろうか?
「隊長! あっしは、どこの誰をPKしてくれば良いんですか?」
グーカが唐突に、おかしなことを言い出した。
「……どういう意味?」
「隊長、第一小隊と第三小隊はどうするの? リーダーが捕まらないところは、集合できているんだか……それはそうと、俺は誰を殺してくれば良いの?」
リンクスまで意味が解らない。
「隊長! 情報部も、まだ連絡の取れない奴がいます。どうしましょう? それと私も……誰かPKするなら、先に指示が欲しいですね」
止めにカイまで、こんなことを言いやがった。
全員がニヤニヤと笑っていたし、何かを察したのか……近くにいた奴らも笑いを堪えてやがる。
みんな退団を表明しないのだし、つまりは指揮系統を認めるということなんだろうが……ひどい悪ふざけだ。こうなったら本当に、誰かのPKを命じてやろうか?
……いや、万が一にもPKで、現実に『決定的な結果』となっていたらまずいか。
「何か連絡方法を考えたほうが良いな。カイ、とりあえず……ログインしているメンバーのリストでも作ろう。それから……とりあえずPKは必要ないから!」
精一杯の怖い顔で睨みつけたが、誰も怖がりやしなかった。……多少、威厳が足りないのだろうか?
「アイサー、隊長! とりあえず、街中を『大声』で走り回らしているけど……連絡の取れない奴は、何をしてんだろ?」
「そういえば……姉御が隊長に用があるみたいでしたぜ。手が空いたら連絡が欲しいみたいなことを」
グーカとリンクスは暢気な感じだったし、カイは何も言わずに手に持った用紙を見せ付けた。おそらく、もう作ってあったチェックリストだろう。実際、俺が何もしないでも物事は進む。
……俺、本当は要らない子なんじゃないだろうか?
暇だし、要らない子みたいだし、アリサも呼んでいるみたいだし……移動してしまうのも手だった。だいたい、室温的には快適だったが……この場の野郎指数は耐え難い。
まあ、この後はのんびりと作業するだけだから、それでも良いだろう。
普段なら手が空いたら狩りにでも――レベリングでもしようとなる所だが、それも合理的じゃない。死亡しても大惨事にはならないだろうが、自分からリスクを冒す必要も無いだろう。いま狩りに行くなんてナンセンスだ。
……連絡の付かない奴らは狩場にいるのか?
まあ、そいつらも遅かれ早かれ、異常事態に気がつくことだろう。そうなれば合流しようとするはずだ。
どうしても連絡が付かない奴らが残ったら、狩場を回って呼びかけるべきか?
「あー……隊長、ちょっと良い?」
ぼんやりと考え事をしていたら、話し掛けられていた。
情報部のメンバーだが……やけに真剣な顔をしている。どうしたのだろう?
「方針に納得いかないとかじゃないんだけど……死亡するのなら、退団しといた方が良い?」
「……へ?」
想定外の質問に、思わず変な声が出た。
「ちょっと意味が解らないんだけど?」
「いや……だから……自殺を考えているんだけど、それは退団してからの方が良い? ……というか、許可?申請?報告?した方が良いのかな?」
「自殺って……いま? ……リアルの話じゃないよね?」
「当たり前だよ! いや……リアルでどうしても外せない用事があって……それで自殺しようかと」
少し違和感があったが、真面目に言われたことを考えてみた。
俺は早い段階で『デスゲーム』を連想してしまったから、死亡に悪いイメージしかないが……死亡することで無理やりログアウトと考えられなくもない。そういうことか?
「あー……俺も同じこと考えてたんだよね。タケル少佐……どう思う? 死亡したらログアウトできないかな? 俺、明日は早いんだよ」
「俺も、俺も!」
などと、どうしてもログアウトしたいメンバーが集まってきてしまった。当たり前だが……意外と多い。
しかし、自殺の許可をくれと言われたら……なんと答えるのが正解なんだ?




