会議――2
「もちろん、そんなことは考えていません。この場で賛成多数になるなら……申し訳ないですが、退団させてもらいます。最終計画まで視野に入れるのでしたら……残念ながら、今後は敵同士ですね」
正直に話すことにした。
どのみち、これは駆け引きしても仕方のないことだし……いくら『RSS騎士団』の仲間が相手でも、譲れないことはある。
「な、なんだ……冗談だったのか? 人が悪いぞ、タケル!」
ホッとしたようにシドウさんは言うし、カイの奴は仏頂面になっている。
……本題はここからなのだが。
「なるほどね。タケル君が問題視していることが、少し理解できたよ。確かにコンセンサスが必要だね」
ヤマモトさんは解ってくれたようだった。
「そういうことです。このまま進むにしても……俺達は問題点を抱え過ぎています。すぐに行き詰りますね」
それを聞いたカイとサトウさんは考え込んでしまったし、シドウさんは全く理解できないようだった。
「はぁ……シドウ君はもう少し……ずる賢くなった方が良いね。こういうことだよ――シドウ少尉、タケル少佐に叛意の疑いあり。直ちに身柄を拘束せよ。抵抗された場合は殺しても構わん」
ニヤニヤ笑いながらヤマモトさんは、無茶な命令を発した。
……実に人が悪い。
「副団長……ご冗談ですよね?」
びっくりしたシドウさんが問い質す。
「シドウ少尉もなの? いつから『命令』に質問で返して良くなったんだい?」
と答えるだけで、面白がっている態度を崩さない。
「……シドウさん、副団長の命令は……完全に正しいものです。少なくとも、いままでの考え方なら。隊長は『団に最大のメリットを生む作戦を、特に理由も無く放棄するべき』と主張した上に、自説が通らないなら退団するとまで言いました。裏切りと見做されても――」
「はぁ? カイまで何を言い出すんだ? 俺は……タケルの主張に納得できたぞ?」
そんなシドウさんの言葉を聞きながらも、ゆっくりと両手を挙げておく。
俺と団長の中間点へ、サトウさんがさり気なく移動したからだ。荒事に慣れすぎている人は、味方でもおっかない。たぶん、少しふざけただけで酷い目に合わされる。
「カイの見解で合ってますよ。団員に『命令』の拒否権は与えられていませんし……退団に関する規定すらありません。団長か副団長が――まあ、俺でも良いですが――目に付いた敵を片っ端から殺して来いと命じれば……従うしかないと思います」
「ばっ……そんなことできるものか! ゲームとは違うかもしれないんだぞ? PKしたら、そいつの頭が破裂するかもしれないし……それは五分五分で起きることだろうが!」
……なんでシドウさんは、確率を五分五分に見積もったのだろう?
『破裂する』と『破裂しない』の二通りだから? ……まさかな。
「全員座れ! 会議ぐらい紳士的に出来んのか! それにヤマモト! 若いのをからかうのは止せ!」
憮然としたジェネラルの一喝で、全員がひとまず黙った。
席を立っていた者――シドウさんとサトウさんも、大人しく自分の席へ戻る。
「それで……タケル君は、もう一つのプランを考えているんでしょ?」
ヤマモトさんは一人だけ、名指しで叱責されたはずなのだが……全く懲りて無さそうだった。完全に面白がっている。……割と重大事のはずなんだがなぁ。
いや、俺は先走りすぎていて、勝手に事態を深刻にしているのだろうか?
この瞬間にもGMか運営からアナウンスがあって、全ての不具合は解消される。予定より遅くなったが無事ログアウトし、色々なことは明日考えれば良い。
そうなる公算は高かったし、それ以外の展開も予想しにくかった。
……まあ、最悪に備えるのが参謀役の務めか。
「もう一つは正反対で……専守防衛というか……全てのプレイヤー、勢力との停戦ですね。特に何もしないのがありえない以上、そうなります」
「そうなのか?」
「いや、シドウさん……普段通りに過ごして……リア充の番にでも遭遇したら、どうするんです?」
「うん? そりゃ、説教でもして………………駄目だな。いまは何も出来ないな」
すぐに理解してくれて助かった。
俺達『RSS騎士団』は、全員が「リア充、死ね」と心の奥底から思っている。だが、その思いと……本当にリア充を殺害して回るのは、全く違うことだ。
おそらく、PKしたところで大した害は無い。
『頭が破裂』なんて起きないはずだ。
基本的に何も起きないと思うが……起きたところで、何かもっと現実的なことだろう。それが『決定的な結果』だったにしろ……可能性があるに過ぎない。
「よし、停戦の方向で進める。別に全世界と戦うのでも構わんが、火事場泥棒のような流れが気に食わない。……他にも色々と問題があるようだしな」
ジェネラルがそう言って、基本方針は定まった。
ヤマモトさんは何も言わず、肩を竦めるだけだったが……後で色々と話し合う必要があるだろう。ジェネラルの言う通り、隠された問題は山積みだ。
いや、どうせすぐに物事は解決するだろうから……多少は無視しても構わないか?
「……タケルは回りくどいし、副団長も意地が悪い!」
シドウさんは納得がいかなかったのか、珍しく不満をもらしていた。
その隣のカイも考え込む風だ。
「いえ、ヤマモトさんも……必要なことを仰っただけですし」
理不尽な命令。それがヤマモトさんが実演してくれたことだ。この問題を『RSS騎士団』は抱えてしまっている。なによりも命令系統に、確たる裏付けが無い。
……いや、ヤマモトさんは実際に目上――年上だから、シドウさんは理不尽さを感じられなかったのか?
「……実はシドウさんにPKして欲しい奴がいるんです。お願いできますか?」
「よし、判った」
これで理解してもらえるはずだ。
俺は『RSS騎士団』タケル少佐などと偉そうにしているが、その実、少しゲームに詳しい若造に過ぎない。そいつに命令されて――
「……へ? なんと?」
「うん? だから……判ったぞ。どこのどいつだ? 今すぐか?」
……どうしよう。シドウさん、全く躊躇いが無い。なんでだ?
「いや……でも……ほら……いまPKするとですね……それこそ、シドウさんが言ったように『頭が破裂』の可能性も……」
「理解しているぞ。それでもタケルは、PKの必要があると判断したんだろ? ……俺も覚悟を決めよう」
もの凄く恥ずかしくなってきた。色々な意味でだ。
やっと事情が理解できたのか、カイが面白そうな顔で見てやがる。
「いや、あのー……そのー……違います。実際にPKして欲しい奴がいる訳じゃないんです。その……俺みたいな年下の奴に、『命令だから、ちょっと人殺しして来い』なんて言われたくないっすよね? ……そういう話をしたかっただけです」
シドウさんは吟味するように考え込んでいたが――
「タケルの話は回りくどすぎる! もっと簡単に話せ!」
と大声で叱られてしまった。




