会議――1
カイが本部へ戻るのを待って、すぐに幹部会議は開かれた。
参加者は団長、副団長、サトウさん、シドウさん、俺、カイの六名だ。
ハンバルテウスとアレックスもログインしているはずだったが、連絡がつかない。
……この非常事態に何をしているんだ? どう考えても本部へ集結が最優先だろうに。
やはり、各種メッセージが使えないのが痛かった。
現実でいうのなら、携帯端末が使用不能に陥ったレベルの不都合だ。全体メッセージが停止してしまったのだって、テレビやラジオが止まったぐらいの大打撃に感じる。
しかし、二人を待つだけの時間的余裕がない以上、始めるしかなかった。
「色々と話し合う前に――カイ、先に報告を頼む」
俺の要請にカイは肯くが、深刻な顔をしている。……良くない結果だったのか?
「調べられる範囲では、観察対象のリスタートを確認できませんでした」
事態はさらに面倒臭くなるようだ。
「……どういうことだ?」
途中から話を聞く形になったシドウさんは首を捻っている。
「あー……カイと俺が本部へ戻ろうとしたら、死亡事故に遭遇したんです。念の為、そいつがリスタートできるか確認しておこうということで」
「リスタートができるかどうか? なんでそんなことを? いや、でも……実際にできない不具合?は起きているのか」
説明を聞いて、逆にサトウさんは不思議そうにしていた。
まあ、それが普通か。『デスゲーム』を連想したかどうかで考え方は変わるだろうが……リスタートできなくなるのは普通じゃない。そう予想するのもだ。
「……隊長の予感が正しかったと思います。完全に証明するのは、現状では無理だと思われますが……調査中、誰一人としてリスタートしていませんでした。明らかに異常事態です」
リスタート地点を観察してれば、そういう結果も観測できるか。
プレイヤーが死ぬのは珍しいことでもない。全てのリスタート地点を観測していれば、いずれは誰かのリスタート風景を目撃できたはずだ。
だが、それすら発生しないということは……観測中に誰も死んでいないか、リスタートできなくなっているかのどちらかだ。そして前者は否定できてしまう。俺達はプレイヤーの死亡を観測している。
「……そうなると死亡者はどうなっていると思う、タケル少佐?」
ジェネラルに意見を求められた。
この人は解っていないようで、きちんと解っている。ゲーム的なセオリーだとか、常識だとかはさっぱりに違いない。それでも……いま重要なのは『死亡者がどうなっているか?』の方だ。しかし――
「……全く判りません。最悪の事態も視野に入れるべきかも」
と答えるしかない。
「おいおい……タケル、ちょっと考えすぎじゃないか? 死んだ奴の頭が破裂しているだとか――その可能性もあるとか言い出すんじゃないだろうな?」
呆れた様子のシドウさんに窘められる。
『頭が破裂』とはいきなりな気がしたが、少し前に流行った『デスゲーム』ものはそんなペナルティだったか?
主催者である『宇宙人』の『超能力』によって、ゲームオーバーになったプレイヤーの頭は弾け飛ぶ。……もちろん、フィクションでの話だ。
「……現状では、それも否定は出来ないですよ」
俺に代わってカイが答えた。
そこまでは説明無しで付いてきてくれたのだろう。もちろん、『宇宙人』やら『超能力』についてじゃない。そうではなくて……死亡者が何か『決定的な結果』を『現実』で受けている可能性の方だ。
疑わしそうにシドウさんが俺を見るが……なんとも言いようが無い。否定できないのは、動かしがたい事実だからだ。
「なんだか難しい話になりつつある? 宗教観だとか……哲学だのの? それを論じるには、時間が足りないと思うよ?」
ヤマモトさんに釘を刺された。ある意味、正鵠を射ている。
死んだらどうなるのか?
その話を始めたら、時間がいくらあっても足りやしない。そんなのはもう少し暇になってからするべきだろう。何か上手い、建設的な意見を思いつかないのなら。
「そうですね……では、判りやすくて現実的なところから――現在、我々は圧倒的に有利な立場に……言い換えるのなら、大チャンスを目の前にしています」
俺の発言にカイ以外はきょとんとした顔をしていたし、カイの奴にしても……驚きを隠せていなかった。まさか気がついてなかったのか?
「何がどうなっているのか判りませんし、これからどうなるのかも予想が付きません。しかし、リスタート不能ということは――『敵は一回殺せば排除できる』ということです」
この考え方には穴がある。
現状がいつまで続くか。それをどう予想するかで、大きく変わるはずだ。
「……タケル? 何を言っているんだ?」
ビックリした様子のシドウさんに問い質される。
「ごく当たり前のことを。我々は『RSS騎士団』で、目的はリア充の根絶です。俺達を常に悩ませていた問題……『仮に相手をPKをしたとしても、それは一時的なことでしかない』から開放されます」
カイだけは必死に考えている様子だった。
シドウさんとサトウさんは呆れた感じ。ジェネラルとヤマモトさんは無表情に近く、何を考えているのか読み取れない。
構わずに話を続けるが……まるでハンバルテウスあたりが主張しそうなことで、我ながら馬鹿馬鹿しくて笑い出してしまいそうだ。
「事態の流れによっては、一部の団員が主張していた計画――最終計画の実施も悪くないかもしれません。女性プレイヤーを全て排除すれば、自動的にこの世界にリア充はいなくなります。検討の余地はあるでしょう」
こんなところか? これで方針の一つは説明できたと思う。
「本気なのかい、タケル君? それは……褒められたやり方ではないと思うよ?」
「そ、そうだサトウさんの言う通りだ! だ、第一! タケルが……タケルが死亡したら、そいつの頭が破裂していてもおかしくないって言い出したんだぞ?」
……厳密には『頭が破裂』を言い出したのは俺じゃない。ただ、敢えて訂正するほどのこともないだろう。
「でも……隊長の主張には、一理あります。いま起きているアクシデントが深刻であればあるほど……解決に時間が掛かればかかるほど……攻めた場合のリターンは計り知れないほど大きくなります」
苦々しげにカイが説明する。
この程度の読みは第一段階に過ぎない。同じことを気がついた誰かが、敵に回る可能性もある。カイにはもう一手先まで読んで欲しかった。
場合によっては、俺が居なくなるのだが……大丈夫なのか?
「それで……タケル君はそうするべき……目に付いた敵を、片っ端から殺しまくるべきと思うのかい?」
カイに比べると、ヤマモトさんは面白がっている感じだ。
場合によっては、この食えないお父さんを敵に回すのだが……半手から一手ほど、上回れている気がする。
さて、何と答えたものか。




