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開幕クソゲー化作戦――5

 馬鹿なやり取りをしてたら、ファンファーレの音と共にメニューウィンドウが勝手に出現した。早くもレベルアップだ。

 パーティに参加してから五分は経っただろうか? 十分は過ぎていないはずだ。パーティメンバーが稼いだ経験点を分けて貰っているわけだが……まずい、このままではいわゆる『寄生プレイ』になってしまう。仕事ぐらいはしなくては。

「……思ったよりレベル上がるの早いな。二レベルまで十分くらいか?」

「そうですね……ばらつきはありますが……二レベルまで悪くても十分。三レベルまで遅くとも三十分程度ですかね。明け方まで粘って、八レベルに到達するかどうかでしょう」

「そこまでやらなくても良いと思うけどな。全員が五レベル以上で……それこそトップから五十位くらいまでは独占状態になるだろ」

 俺の読みではトップクラスの廃人で明け方に五レベル程度だ。ある程度は周りに合わせたプレイではそれが限界、六レベル到達は時間的に難しい。

 βテストからのプレイヤーがトップになるのはよくある話で、それが一般プレイヤーの不満となりやすいのだが……βテストからの集団がトップになってしまうのは珍しいだろう。それも数人のグループではなく、五十人を超える――今回のサービス開始で総勢百人にも届きそうな集団がだ。

 これは不満程度では収まらないだろう。閉塞感や諦めに発展してもおかしくない。

「最先端狩場へ送り込むチームはもう少し補強したいところですが……乗り込んだ先でのレベリングで充分でしょう」

「まあ、あまりやり過ぎるのもな。仕様変更は……避けられないか。でも、仕様変更はともかく、巻き戻しを喰らうと辛いからな」

「巻き戻しは完全敗北宣言ですから、まずないでしょう。仕様変更も……どうですかね? いくつかあるでしょうけど……重大なものは無いと思います」

 巻き戻しとは運営がやる対策のひとつだ。

 MMOゲームでは世界の全てがデータで構成されている。データであるから、問題が発生したら発生する前の状態へ……あたかもオフラインゲームでリセットボタンを押し、セーブポイントからやり直すようなことも可能だ。今回で言えば正午ちょうどの、正式サービスを開始する直前あたりか。

 もちろん、それまでの全プレイヤーの行動は無かったことにされてしまう。

 ありとあらゆる問題を解決できる最終手段ではあるが……課金方法に拠っては賠償問題まで発展する諸刃の刃である。

 なにより、セーブができないことこそがMMOの面白さの一つだと俺なんかは思うし、良いことだろうと悪いことだろうと……巻き戻しなどされたら興ざめもいいところだ。

 しかし……自分達のプレイで巻き戻しや仕様変更を引き起こしそうだとか……そんなことを当たり前に検討するとか……なにか大きく間違っている気がしなくもない。

 ……まあ、俺とカイで問題点を見い出せないなら、レベリングの点では順調といえるだろう。

「『みどり草』の方は? どれくらい集まっている?」

「思ったより順調ですね。おそらく……九割ぐらいはうちで独占でしょう。街にいるメンバーからの報告では、売りはほとんど無いようです」

 『みどり草』の独占。これが作戦のもう一つの目的だ。

 アイテムを独占する方法は大きく分けて二つある。

 一つは買い占める方法だ。

 買い占めれば独占できるが……手間が掛かるし、物によっては買い占めに向かないものもある。

 もう一つが生産地ごと独占してしまう方法だ。

 序盤の大生産地である『ゴブリンの森』を俺達が占拠しているのだから、他の者は入手できない。

 別に『ゴブリンの森』だけが『みどり草』の入手場所ではないが……別の生息地へ初日には行けない。

 『みどり草』と『基本溶液』が材料の回復薬系統以外も生産可能ではあるが……『みどり草』を使わないレシピも初日には実現できない。

 初日の『みどり草』独占は致命傷レベルの問題を引き起こすだろう。大量に出回るスライム種からのドロップ――『基本溶液』がゴミとなるからだ。

 独占状態は俺達が『ゴブリンの森』から撤収するまで、明日の朝には解けてしまうものだが……それだけで十分だ。一時的な『みどり草』の市場からの枯渇が……買い占められているという幻想が……『基本溶液』の大暴落を引き起こす。

 そこで買い叩くつもりは無いが……投売りされる『基本溶液』を買い取るだけで大きな利益がでるはずだ。


「アイテム回収は終わった?」

「まだログインしていない者もいますが……キーアイテムは全て回収しました。隊長ので最後ですね。資金の方は……現状でざっと金貨十万枚弱です」

「無事に売れてよかったな。それだけが心配だったんだ。それじゃ、予定の分をくれ」

 俺の言葉にカイは肯くと、トレードウィンドウを開いて色々と渡してきた。

 おそらく、現時点で万単位の金貨を所有している団体は俺達だけだろう。これだけでも暴力的な力となる。

 これは運営の思惑通りの結果であり……想定外の出来事だろう。

 βプレイヤーが持ち込めるアイテムはたったの一つだ。仮に金貨を持ち込んでも、たったの一枚にしかならない。そんな馬鹿なことをする奴はいないので、全βプレイヤーが頭を悩ますことになった。

 誰でも思いつくのが貴重なレアを持ち込む――例をいうなら『トロル・スレイ』の『タレント』を持ち込むなどの考えがある。

 オープンβですら金貨十万枚以上のアイテムだ。正式サービス開始後に、どれだけの高値になるかは予想すら難しい。『トロル・スレイ』に限らず、価値のあるレアアイテムならどれを選んでも失敗の無い選択ではある。

 しかし、どのレアアイテムを持ち込んでも、売るのは無理だ。捨て値で売ろうと誰も買わない。いや、買えないのだ。誰かが大金を持っていなければ、どんなに安くしても売れるはずが無い。

 売却は諦め、自分で使うことにしても問題がある。

 『トロル・スレイ』であれば、基本的に『トロル』狩りをする者にしか価値は無い。だが『トロル』狩りをするには、最低でも十五レベル平均のパーティを組む必要がある。

 そこまで攻略が進むのはどれだけ時間がかかることか。下手をしたら、正式サービス開始後での『トロル・スレイ』ドロップの方が先だ。

 レアアイテム持ち込み派は多くを得る分、開幕時点での利益を放棄しているようなものだろう。悪くは無いが、良くも無い選択に思える。

 開幕時点での利益を重視するなら、すぐに利益になるか、どうしても欲しい物を選ぶ方が良い。

 例えば生産志向のプレイヤーなら生産用の道具、『魔法使い』や『僧侶』なら序盤の要となる魔法書など、前衛職なら武器や防具を強化するための『魔』の『エッセンス』などになる。

 運営側の思惑は「βプレイヤーの優遇を余すことなく受けたかったらレアアイテム。でも、時間はかかるよ。すぐにメリットを活用したいなら、自重しないと難しいかな。まあ、どれを選んでも正式サービス開始後の影響は少なくなるから」だろう。

 そこで開始直後を重視するプレイヤーの多くは、最も手っ取り早く利益になる現金を選択した。

 一部のアイテムはNPCに売却できる。その理由は値崩れ防止、底値の設定なのだが……売れると判っているんだから、あとは最も高く売れるアイテムを探すだけだ。

 β終了時点でNPCが最も高く買い取ったのは魔法書『ディスプレイ・テキスト』――中空に輝く文字を発生させるだけの、存在価値が疑われた魔法――だったが、売却価格は実に金貨二千五百枚。……俄然人気となった魔法書の争奪戦は、喜劇としか良い様がなかった。

 ただ、それもまた運営の思惑のうちだろう。

 開幕直後に金貨二千五百枚入手は確かに有利だろうが……微妙ともいえる。結局、金貨だけあってもバランスを崩すようなことはできない。買えるのは少しの有利と便利だけ。これも悪くは無いが、良くも無い選択だろう。

 プレイヤーに選択させることで、一見厳しく思える縛りを受け入れさせるつもりなのだろうが……やはり甘い。このゲームのメインデザイナーは、MMOプレイヤーというものをまだ理解していない。

 『RSS騎士団』が掻き集めた魔法書『ディスプレイ・テキスト』は全部で四十冊強。それだけで総額で金貨十万枚を超え、すでに想定の範囲外だろうが……まだ不十分だ。

 ある程度の現金を確保した前提なら、さらに多くの選択肢が生まれる。それがこの作戦のもう一つの狙いだ。

 まあ、一番の不安だった現金化が終わったのだから……後はどうとでもなるだろう。

「えーと……隊長? 大丈夫ですか? ……締まりの無い顔になってますよ?」

 心配そうにカイに問われたが……思わず笑みがこぼれていたようだ。それにしても、締まりの無いとは酷い。

「あのなぁ……どう考えても『ニヒル』だとか『苦みばしった』とか言うべきところだろ?」

「はあ……ニヒルでもアヒルでもいいですけど、先に『ギルド』作ってください。予定表が片付かないですから」

 ……本当になんで俺が隊長なんだろう? というか、隊長なんだろうか?

 どうせ口では敵わないので大人しくギルド設立を始める。

 数多くのギルドマスターがこの世界にいるとは思うが、こんな風に――まるで遅くなった晩飯のように! ――設立を求められたギルドマスターはいないだろう。

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